希望の私学【順天学園】(2/2)
生徒の才能を拓く
2014年4月から、文部科学省は、スーパーグローバルハイスクール(SGH)構想を開始したのは、周知の事実です。2014年度はSGH指定校に認定された高校は、全国で56校。順天学園は、はやくもその1校に選れました。
順天学園のSGH構想を実現する『スクールワーク』
基調講演に引き続き、1年間の『スクールワーク』について、GLAP1期生によって、プレゼンテーションがありました。その方法は、英語によるスピーチ、英語によるドラマパフォーマンスによる表現で、すべて生徒自身が企画を立て、編集し、表現したのです。
つまり、SGHの成果は発表されたプログラムの中身にだけあったのではなくて、IBの学習者像をモデルにすることによって、教師と生徒は、教える教わる関係ではなく、共に学び合う関係であるという学びの方法や表現方法そのものにあったのです。
まず、英語のスピーチでは、スクールワークで行った様々なテーマの説明がありました。「21世紀における役割」「世界一大きな授業(英語・日本語)」「多様性 Divesity」「写真で学ぼう! 地球の食卓」「援助する前に考えよう」「海外フィールドワーク先の現状」「ボランティアにとって大切なこと」「貿易ゲーム」など10以上のテーマがアクティブラーニングのスタイルで行われたことが紹介されました。
そして、その学びの特徴的なことは、外部の見識者との連携で行われるということとアクティブラーニングでも特にワークショップ形式で学びの体験をしたことが説明されました。
外部との連携というのは、たとえば、JICAやDEAR(開発教育協会)などの非営利活動団体などが中心で、ロンドン大学や杏林大学と連携したシンポジウムも行われています。
さて、問題は「ワークショップ」です。GLAPのメンバーは、SGHを通して「ワークショップ」の体験は極めて重要であるという認識を抱いたのと同時に、まだまだ多くの人が「ワークショップ」とは何か、またその意義は何かなどについて知らないことに気づいたのです。そこで、ワークショップを英語のドラマで再現して説明することになりました。
多様性というテーマで、まず言語の問題を扱ったワークショップが演じられました。いくつかドリンク用のボトルが並んでいます。ラベルの表示は英語や日本語以外の多言語で表記されています。
さて、そのうちどれか一本を選択して飲まねばなりません。ある生徒が選択したボトルには、塩分の濃い水でした。何を意味しているのか、会場の参加者はすぐに理解しました。ワークショップというのは、強烈な体験を通して、ふだん意識していないことに気づくことです。もしこれが、健康を害するようなものだったらと思うとどうなのかを生徒はパフォーマンスで問いかけます。
参加者は、生徒とともに、たんに単語が読める読めないということ以上に、多様性の中のコミュニケーションとは何かいっしょに探求する学習者というポジションに立たされたのです。
次に、国際結婚のパフォーマンスが繰り広げられました。民族の違う相手、宗教の違う相手などを次々と連れてくる娘。そのたびに思い悩み簡単に承諾できない両親の姿を演じきりました。参加者は、多様性が大切であるということは百も承知ですが、身近な問題として突きつけられたとき、多様性に対し寛容であることがいかに難しいか驚嘆。
ワークショップは、問題を分析して理解するだけではなく、強烈な擬似体験を通して、問題の本質的な領域にまで一瞬にして導かれていく学びであることを、生徒は参加者と見事にシェアしたのです。
順天学園のSGH構想を実現する『フィールドワーク』
『ネットワーク』、『スクールワーク』などを通して、本質的な問題意識にまで到達するアクティブラーニングを積み重ねていくと、そのような高い意識をもって、実際の世界で自分たちは何ができるのか『フィールドワーク』に歩を進めたくなるものです。
順天学園は、生徒自身が自ら教室から外に出てみたいという内発的なモチベーションを重視していますが、その内発的モチベーションは1年目ですぐにあふれ出てきたのです。
そこで、2014年12月、GLAPメンバーから3人がフィリピンにフィールドワークに出発しました。同国の課題を発見し、いかにして救済できるのか問題解決策を考案しようと。
しかし、実際に訪れると、自分たちは何か大きな勘違いをしていたのではないかと衝撃を受けたというプレゼンテーションが行われました。
たしかに、ストリートチルドレンは溢れており、貧富の格差の実態は目の前に明らかに広がっていました。しかし、だからといって、もしかしたら、私たち日本人より幸せな生き方をしているかもしれないと心を揺さぶられたということです。
どんな境遇であろうとも、自分たちに彼らができる範囲で最高のおもてなしをしてくれた。なぜ自分のためにその食べ物を使わないのか、なぜそんなに他人中心主義でいられるのか、いったい自分たちは今まで何をやってきたのか、次々と疑問の扉が開かれていったというのです。
ワークショップで、物資やお金を与えるだけの援助では何も解決しないことはわかっていた。だから実際の生活の中で、信頼関係を築き、最適な救済を考案しようと思っていたが、そんなのは全く論外だったというのです。
案内してくれたJICAの方々にたくさん質問をしてアドバイスをもらったが、結局フィリピンの国の歴史も宗教も価値観も何も知らないで、救済したいという想いだけでは、フィリピンンの国の人々には必要性が高いものではないと思い知らされたそうです。
SGH運営支援者の1人中原先生は、「ワークショップで、本質の領域に接近することの重要性を知ったところまでは、大成果です。ただ、それはあくまで机上の話ですから、やはり現実の中で本質的な領域を探求していかないと、本当の問題も本当の解決のアイデアも見過ごしてしまうものです。そこに生徒たちが自ら気づき、帰国後、こうしてシェアしてる。これで、SGHは2015年も先に進めます。実は、ここからなんですよ。」と生徒が自ら本当の課題や本当の解決へのアイデアに到るこれまでの道のりをじっと見守ってきた中原先生の表情も柔らかくなり、新しいビジョンがその眼にはっきりと映っていました。
おわりに もう1つの順天学園のSGHが究極なわけ
順天学園のSGHが究極のモデルなのは、大きな3つのパラダイムチェンジのエポックのたびに、建学の精神をバージョンアップさせてきた歴史的使命に忠実だったということは述べました。
しかし、もう1つ重要な理由があるのです。それは、通常の授業やLHR(ロングホームルーム)で、対話を中心にしたアクティブラーニングが根付いているからです。
高校には、ハイレベルな英語教育を中心とするEクラスとハイレベルな理数教育を中心とするSクラスがあります。SGHクラスであるGLAPのメンバーの中核はEクラスということからも推察できるように、SGHの種がすでにあったわけです。
また、Eクラス、Sクラス、GLAPの運営のリーダーでもある数学教諭中原先生は、久しい間イギリスで生活していたということもあり、Eクラスの数学の授業は英語で行います。中原先生の数学の授業は、Sクラスの生徒によると、「Eクラスではないのに、時々英語で授業が進行して、おもしろいですよ。でも、最高なのは、とにかく考えるコトを大切にしてくれることです。テキストにない解き方をしたとき、その解き方の正当性を自分たちに証明させてくれます。毎回の授業で、当たり前のようにそれが行われるので、楽しいですね。」と知的好奇心のおもしろさを語ってくれました。
さらに、中学から高校2年生までのLHRでは、通称「グルコミ」と呼ばれているグループコミュニケーションが行われています。もう10年以上前から実施されている、アクティブラーニングなのです。
たとえば、高2の「グルコミ」で、「学部選択―必要な資質を考える―」というテーマの進行では、まず個人ワークから始まります。各学部を選択した場合、どのような資質が必要になるのか、9の資質から上位3位を、自分なりに考えます。
次にグループに分かれて、自分の考えと友人の考えの違いを鮮明にしていきながら、グループとしての客観性を付与するディスカッションで盛り上がります。
医学部の場合など、読書力や発想力、持続力がすぐにでてきますが、医学部は大学院まであり、学部的には、まずは基礎的な知識や技術を地道に身につけていくことも重要ではないかとか、発想力は、むしろ大学院で新しい医術などを開発する時に必要になってくるのではないかなどと議論は伯仲します。
そして大事なことは、テーマについて議論をして、問題解決のプレゼンをするだけではなく、生徒は自分の成長を交流分析(TA)という手法で、振り返るのです。あるときは個人で考え、あるときはグループで議論しながら考えている自分が、どんなロールプレイができているのか、クリエイティブシンキングはできているのか、寛容な姿勢で臨めたかなどの自分という人格の成長を心理分析データを鏡として、自分を映し出します。
ある意味、自己変容を他者から評価されるばかりでなく、自己評価をしていくシステムがグルコミの本位で、実は文部科学省のSGH構想では、この生徒自身の変容を促す評価の開発も重要な柱になっています。
すでに多くの教育資源が集積されてきて、それがSGH構想をきっかけに換骨奪胎され究極のSGHモデル校となっているのが順天学園なのです。
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