共立女子中学校・高等学校

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共立女子中学高等学校は、「女性の自主・自立」を掲げて130年余り前に創立されました。立場の異なる34名の人々が集まってできた学校ということから「共立」という校名が付けられたように、自立を重んじつつ「多様性」を柔軟に受け入れる校風が創立以来の伝統となっています。
そのような精神は、帰国生に対するスタンスにも表れていて、共立では多様な個性の一つのあり方として帰国生を自然に受け入れてきた伝統があります。国内生とか帰国生といった区別ではなく、一人一人の異なる存在が、共立の生徒として共に成長し、それぞれの人生を切り拓いていくという考え方に基づいた受け入れがなされているのです。
(取材・文/スタディエクステンション代表・鈴木裕之)

着実に進められる入試改革

_ 従来の伝統を大切にする一方で、時代の先を行く新たな改革も積極的に行っています。入試においても、2017年の「合科型入試」、さらに2018年には「インタラクティブ入試」を新設しました。

インタラクティブ入試では、英語コミュニケーション能力を複数の採点者がみるという、ペーパー試験とは異なる新たな評価形式が採り入れられ、今後の英語入試のあり方のモデルを示しました。定員20名に対し68名の応募者があったことがこの入試への期待を物語っていると言えるでしょう。

_ 新しい入試をすればすぐに受験生が集まるというわけではないことは、他の多くの学校が生徒募集に苦労していることからも明らかです。共立が合科型入試、インタラクティブ入試と次々に新設の入試で生徒を集めることができるのには理由があります。
もちろん、確固とした「共立ファン」の存在が前提にありますが、何よりも大きいのは、新しい入試を実施する前に入念な準備をし、受験生に告知をしておく姿勢でしょう。サンプル問題やサンプル動画をホームページや説明会を通して配布し、体験講座なども積極的にアピールします。こういった準備は、受験生を戸惑わせないようにしようとする配慮の表れであり、そのような学校の姿勢が同時に伝わることで、受験生が増えている面もあるのかもしれません。

2018年度からは帰国生入試においても、海外在住期間が1年間でも受験できるなど資格要件を広げて、より多くの子どもが受験しやすい環境を整えました。また、国語の代わりに英語も入試科目として選択できるようになり、日本語よりも英語を得意とするような子どもが共立を選択肢に入れてくるようになりました。
その結果、帰国生入試では、2017年度46名の応募者に対し、2018年度は128名もの応募者がありました。

多様な個性が活きる環境

共立の帰国生入試では、日本語か英語かどちらかを選択して作文を書くことができますが、2018年は、英語を選択して作文を書いた受験生が非常に多く、英語科の先生方が採点にかかる時間も大幅に増えたということです。
英会話の取り出し授業の希望者も前年の5倍以上に増え、中には準1級をすでに取得している生徒もいます。このような状況から2018年度は、取り出し授業の回数もクラスの数も増えることになりました。
何年も英語を学んできてある程度英語が喋れる子と、ほとんど初めて学ぶ子と一緒にするわけにはいかないという考えに基づいているのですが、一方で、共立の伝統として、クラスを完全に分けて、例えば帰国生クラスとか、特進クラスといったような分け方には決してしません。現在2つある英語取り出しクラスも特にレベルで分けているわけではないということです。

さまざまな個性や才能を持つ生徒が多様に学び合うことで、お互いが刺激し合うという環境を大切にしているのですと校長の児島博之先生はお話されます。

_ また、在校生の数が多いことは、多様な個性を活かす上でアドバンテージとなります。太極拳部や能楽部、山岳部といった女子校では珍しい部活動が成立しているのも、生徒数が多いからに他なりません。「共立では他の人と違うことが別に目立つことではないのです」と児島校長先生は語ってくれました。

たとえば地理歴史部はジオラマ作りで名を馳せていますが、一般に鉄道模型と言えば、普通は男子が活躍する領域だと思われています。ところが、線路脇に生い茂っているススキの穂を、付けまつ毛で表現するなど、女性ならではの感性を活かした発想力で全国大会を制覇してしまうわけですから、男子校の「鉄ちゃん」にとって、共立生は"少々しゃくな存在"なのかもしれませんね。

_ 児島校長先生によれば彼女たちは、ドイツやアメリカの国際大会にも招待を受けるほどその実力が評価されているということです。そのような経験を持つことで自然と英語を使う必要性が身近になり、英語学習のモチベーションも上がっていくわけです。

これからの時代は、ますますこのような機会が増えていきます。英語が得意だからグローバル社会に繋がるということよりも、ユニークな才能、他の人にないものを持っていることがむしろグローバル社会へのパスポートになる時代です。

日本文化を知ることでグローバルにつながる

多様性を柔軟に受け入れることに加えてもう一つ共立女子が重視していることが、日本文化の伝統です。
国際交流部主任の石田大介先生は、「帰国生にも日本語や日本文化をしっかり学んでもらい、様々な価値観を持つ人々との関わりを体験することで得た多様性や柔軟性を、グローバルマインドにつなげてほしい」と語ります。

共立では、小笠原流の「礼法」の時間が正規の授業に組み込まれています。また、4流派の華道の課外活動や、2流派の茶道部、能楽部の活動など、中学高校としては全国でも珍しいほど充実しています。そのような日本文化に触れる機会を多く持つことで、海外で暮らして身につけたグローバルマインドが磨かれるように意識されているのです。

_ 小学生を対象にした「Enjoy Cool Japan」というグローバル教養講座も毎年開催しています。この講座は、英語と日本文化(礼法・華道・茶道)を3回セットで学ぶもので、グローバルな学びというのが、英語だけではなく自国の文化をも学ぶものだということを体験していくわけです。

このように、日本文化の伝統を大切にする姿勢が、グローバルな視点を有している帰国生や、英語教育に関心を持つ家庭を惹きつけている魅力になっているのかもしれません。

思考力を重視する英会話

取り出し授業の様子も見せていただきました。中1生の授業で、2つあるクラスのうちの1つです。わずか3名のクラス人数という恵まれた環境で、ネイティブスピーカーのブレンダ先生が授業を行っていました。すべて英語によるコミュニケーションで進められる授業ですが、英会話にとどまらず、文法やリーディングなど、さまざまな要素をトータルに含んだ授業でした。

この日の授業は、前回学習した "prefer to(~するのを好む)" の表現の復習から始まりました。ブレンダ先生は"Do you prefer to ~ ?"という質問を生徒に投げかけます。

_ 最初は、prefer toを使った英文の型を意識させているのかなと思いました。しかし、単なる表現のパターン練習ではなく、より深い思考を求めていることは、生徒が返した答えにブレンダ先生が必ず理由を尋ねることから明白になってきます。

例えば、レストランでの食事と自宅での食事のどちらが好みか、という質問に生徒が答えると、即座にブレンダ先生は、why?と尋ねます。

トピックが日常的だからといって、理由が答えやすいとは限りません。じっくりと思考するタイプの生徒ほど、答えるのが難しく感じられるかもしれません。というのも、実際には時と場合によって理由は異なるので、どちらかに限定するのは困難なはずだからです。

一般的に、この「思考力と表現力」のギャップに中学生以降の英語コミュニケーション指導の難しさがあります。発達する抽象的思考に見合うだけの表現力を身につけさせ、言いたいことを適切に表現できるかどうかがポイントですが、ブレンダ先生はこのあたりのことに十分配慮しているようでした。
生徒が質問にうまく答えられずにつまっていても、根気よく待ちます。ここで思考力を「紋切り型の表現」に屈曲させないことが重要なのです。安直な表現に逃げてしまって、なんとなく話せている状態にせず、自分の思考レベルに表現力を引き上げるように努力させるのです。そのような授業は、一見すると静かであまり活発なやり取りがないように見えるかもしれませんが、実は生徒の頭の中では「英語思考の嵐」が起こっているのです。

生徒が理由の一端を発したところで、助け船を出していきます。「ああ、...ということかしら」などと笑顔で緊張感を解きほぐしながら、会話を成立させていきます。さらに別の生徒を指名し、今度は今答えた生徒から同じ質問をさせます。答えた生徒にまた質問をしながら会話の内容を発展させていきます。

_ 質問を繰り返すことで、文のフォーマットを体に馴染ませ、さらに自分の選択の理由をセットで表現するという思考のフォーマットまでも身につけていくのです。

アウトプット中心の授業

"prefer"を使った問答が一通り終わると、今度は "What do you think~?" の質問に移りました。「小学校でたくさん宿題を出すべきかどうか、あなたはどう思いますか」という感じです。
「自分の好みを述べる」スピーキングから、「より一般的なトピックについて賛否を述べる」スピーキングへと綿密に計画された流れがあることに気づきます。
ブレンダ先生は、生徒が英語を話すこと、すなわちアウトプットに重きを置いていて、自分が講義をするというシーンはほとんど見られません。
そこに感じられるのは、生徒の思考の流れに即した応答をしようとする姿勢です。反射的に表現させるのではなく、自分の感覚に近い表現を見つけようとする生徒の思考プロセスを、ブレンダ先生は辛抱強く待っているようでした。
そのように感じるのはブレンダ先生が話すときのスピードです。生徒に質問するときに使う言葉のスピードは、ナチュラルスピードで、決して幼い子に話しかけるような話し方はしません。それは生徒たちに理解する力が十分あることを知っているからでしょう。日本人の英語学習にはアウトプットが不足していることをブレンダ先生はよく理解しています。自分が喋ることよりも生徒がアウトプットする機会を増やすことに重きを置いているのです。

続いてリーディング素材に移りました。リーディングにおいても、インプットよりは、アウトプットを意識した授業が展開されます。ストーリーの要約を問答式で生徒から引き出していきます。
「主人公はどんな服を身につけていた?」などと登場人物ごとに情報の整理をします。

_ 一通り書かれている内容の整理ができると、今度は「自分が主人公の立場ならどうするか」とここでも思考力を刺激する問いを発します。これについては、3つのセンテンスを使って書いてくるようにと自宅での課題となりました。単文と複文の違い、接続詞の使い方といったセンテンスについての知識にも軽く触れながら、書く上での手がかりを提示します。

その後、授業は、フリーカンバセーションに移りました。春休みに予定していることを尋ね、生徒が答えた内容に、質問を重ねていきます。
いとこが来るの?その人は同じ歳?何か観光を予定しているの?...、先生の質問に答えながら生徒は多くの情報を付け加え、問いと思考のフォーマットを身につけていきます。

最後の5分ほどでは、自分の所属しているクラブ活動についてできるだけ長くスピーキングをするという課題に取り組みました。1つの授業の中で、長く話すためのフォーマットを徐々に身につけていくわけです。

共立女子の英語学習環境

徹底的に話を引き出す、そして問いかけながら思考を活発化する授業展開は、実際に運営していくのは相当な手腕が必要です。
このような高度の授業スキルはただネイティブスピーカーの先生による個人技というわけではなく、共立の英語科の先生全員が共有しています。
帰国生の英語に限らず、英語科では使える英語をどう育成するかということでよくミーティングで話し合うそうです。インタラクティブ入試の狙いも、想像力を駆使するなど、思考力に重心が置かれているのですが、こういったことも「使える英語」にこだわってきた結果として生まれてきたものなのです。

最近よく聞かれるCLILという「言語とコンテンツを統合する手法」を授業に採り入れてもいるそうです。Tokyo Global Gatewayという東京版英語村のアトラクションの一つであるクリルレッスンを共立で実施したということでした。

ソフト面ばかりではなく、ハード面でも、2016年に「ランゲージスクエア」という施設を設置するなど、外国語の会話力を磨く機会を日常的に作っています。ネイティブスピーカーの先生が日替わりでそこに常駐していて、放課後などにこの部屋を開放し、生徒が日常的に異文化に親しんでもらえるようにしています。

_ 生徒たちはこの場所で気軽に英会話を楽しんだり、海外図書に接したりすることができます。また、イースターエッグの制作やネイティブスピーカーの先生との交流会、留学生との交流会など、様々なイベントがここで行われているということです。

_ こういった環境でモチベーションアップした生徒たちが英語を使った様々な活動を主体的に推進しています。
模擬国連もそういう活動の一つで、生徒が中心になって進められるということです。前回の模擬国連では決勝に進出しました。人権とジェンダーがテーマだったということですから、女性の自立を校是とする共立の本領発揮というところでしょう。

「KYORITSU TIMES」という英字新聞も有志が集まって発行しています。ブリティッシュヒルズの研修旅行(高1)や、ランゲージスクエアでのイベントや記念式典の紹介、校長先生のインタビューなど、質の高い英語で編集されています。それぞれの記事に執筆者名が記されていて、レイアウト、タイトルの付け方、見出し、写真下のキャプションなど、一般の英字新聞にも見劣りしない内容となっています。

その他にも、「共立グローバル教育プログラム」として、中学全員のオンライン英会話、校内プチ留学とでもいうべき長期休暇のイングリッシュシャワー、高1全員が2泊3日で行うブリティッシュヒルズの研修、50年近くも伝統的な取り組みとして続けている「夏季海外研修プログラム」など数多くのイベントを実施しています。

こういった英語の学習環境というのは、伝統の中で少しずつ蓄積され改善されてきたものです。その130年という伝統の強みが共立のグローバル教育の本質です。
さらに、今回の取材を通して、よく分かったことは、校長先生を初め、英語科や国際交流部の先生方のチームワークがよく取れていること、そして生徒の未来を真剣に考えているということです。

伝統と創造をうまくバランスさせながら、改革を成功させる秘訣は、このあたりにあるのでしょう。