渋谷教育学園渋谷中学・高等学校

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昨年2015年に創立20周年を迎えた渋谷教育学園渋谷中学校は、渋谷駅から徒歩約7分、明治神宮前駅から徒歩約8分という、交通至便の立地に地上9階、地下1階の高層校舎を持つ都心型の共学校です。いまでは都内の共学の進学校では最難関レベルとなった人気校ですが、一方では帰国生入試でも首都圏で最も人気の高い学校のひとつです。すでに千葉県では最難関であり、全国トップレベルの共学進学校となっている渋谷教育学園幕張の姉妹校でもあり、帰国生にとっての注目校である同校の帰国生教育の様子を取材させていただきました。

_ 渋谷教育学園渋谷中学高等学校は、渋谷駅から徒歩7分。原宿や表参道から近いことから、都会のイメージを好む帰国生に絶大な人気を誇っている学校です。

さぞかし賑やかな場所にあるのかと思いきや、意外にもこのエリアは都会の喧騒から隔絶された雰囲気です。明治通りから一本通りを隔てているだけで、これほど静かなのかと思うほど落ち着いた場所にそびえている現代的な9階建ての校舎こそ渋谷教育学園渋谷中学高等学校(渋渋)です。

入口を通り抜け、受付で来訪を告げようとする時、たまたま通りかかった理事長校長の田村哲夫先生がにこやかに挨拶をしてくださり、私たちの来訪を受付の方に伝えてくださいました。渋谷幕張に加えて、渋谷渋谷をあっという間に人気校にした理事長校長が校舎内を普通に歩いているという、校長との距離の近さに軽い衝撃を受けました。その学校経営手腕はいずれ伺いたいところですが、今回の取材の目的ではありませんので会釈だけのご挨拶で失礼しました。

すぐにお迎えに来ていただいた入試対策部部長の鈴木一真先生に案内され、早速中学1年生の帰国生授業の見学に向かいました。生徒はカメラを持った私たちを見るとしばらく後ろを振り返ってピースサインをしたり、にこやかに手を振ってくれたり、歓迎の意を表してくれます。しかし、ひとしきりその歓迎が終わると、先生に指示されるでもなく、自然にテキストやプリントの方へと向き直り、今まで通りの学習に戻ります。これが中1生かと思うほど、落ち着いているというか、学びの姿勢ができていることに感心しました。

22名のクラスは、女子の数が多いのですが、男子とか女子といった区別を生徒たちが意識している様子はほとんど見られませんでした。隣同士で話し合う時も、全体に対して発言する時も、男子とか女子といった区別よりも、一人ひとりが個人としてそこに存在しているという感じです。このあたりは、帰国生クラスならではというより渋谷教育学園渋谷中高全体が持つ雰囲気なのかもしれません。

_ この日の授業は、学問的剽窃(plagiarism)について書かれたチェックリストを元にしたディスカッションでした。剽窃にあたる行為が何であるかということを暗記させるというわけではなく、例えばレポートで何かを引用する場合について、どのようなことに留意する必要があるのかを考えさせるような授業展開です。リサーチや発表する上で最も基本となる事柄ですから、中1という学年で取り組ませる意味は十分に伝わってきます。

渋渋では、帰国生の英語の授業はすべてネイティブが担当し、しかもイギリス人とアメリカ人がペアになるというように、なるべく異なる国の複数の先生に教わることで、生徒たちの英語力の向上に役立ててもらおうと考えているということでした。

<英語を使う次元>から<英語で考える次元>へ

_ 学問的剽窃についての学習が一段落したところで、後半は文学作品の分析に入っていきました。文章を読むことはホームワークとしてやってくるのが前提で、授業ではその内容や表現の意味についてディスカッションしながら考えを深めていくというスタイルです。ことさらに誰かを指名して発言を促すということをするわけでもないのに、どこからか質問が出たり、気づいた人が何か発言したりするという流れが自然にできあがっています。

 

一つの発言がある生徒の思考を刺激し、そこから生まれた発言がまた別の生徒の思考を刺激するといった具合に、生徒の中に内省的な思考が活性化していることが感じ取れました。英語を話したり聞いたりすることには特に困難を感じていない生徒たちであるためでしょうか、授業が英語で思考するという次元にフォーカスされていることに驚嘆しました。

一見さりげなく見えるこの授業の質はどのようにして築かれているのでしょうか。先生が生徒を信頼しているから、生徒に任せる部分が広がる、そして生徒の方でも自分の好きなようにできる部分が多いから、やる気が出てくるという相互の信頼関係が、こういう授業の前提となっているのではないか、などと考えているうちに授業は終了し、再度鈴木先生の案内のもと、帰国英語科教科主任の伊藤幸子先生にお話を伺う時間となりました。

(左)入試対策部部長 鈴木一真先生 (右)帰国英語科教科主任 伊藤幸子先生

伊藤先生は、赴任して14年、教科主任となって8年目とのことです。その間に渋渋の帰国生教育を確立してきました。ちなみに伊藤先生自身も帰国生とのことでした。

英語入試と作文入試―それぞれのアドミッションポリシーについて

_ 多様な生徒を受け入れようということが渋渋の帰国生入試の出発点であったと伊藤先生は振り返ります。帰国生というとすぐに英語ができるというイメージをもつけれど、実は様々な国から戻ってくるわけです。当然英語圏以外や途上国から戻ってくる子どもたちもいて、彼らは日本では得られないような体験をたくさんしています。そのような多様な生徒に来てほしいというのが、帰国生入試を実施する目的であり、その考えは今でも主に作文入試に引き継がれています。

多様性というのは、しかし、体験によるだけではなく、使っている言語による発想や考え方の違いにも顕著に表れてくるわけです。だからといって、すべての言語を教えるということは無理な話ですので、英語という言語を通して、日本語とはまったく違う発想や考え方を採り入れていくことを、英語入試の方の大きな柱としているということです。

「英語で考える力」が求められている

_ ですから、渋渋の英語入試では、英語で考え、英語で表現することができる子どもたちに来てほしいというのが選考の基本的な考え方です。リスニングや筆記試験、およびライティング(英語エッセイ)で総合的な英語力が問われますが、特に注目すべきは、英語面接です。これは、先生と生徒が1対1で面接をするというものではなく、ある課題を6名のグループで解決するという、「ミニ授業」が行われるというイメージです。そこでは、先生に質問する力もまた評価対象になるという意味で、いわゆるアクティブラーニング系の「英語思考力テスト」とでも呼ぶべきものです。

入学者の英語レベルを伊藤先生にお尋ねすると、英検という物差しは、「日本人として第2言語である英語がどれくらいできるかを示しているもの」であるため、英語入試の合格基準を英検で示すのは難しいとしながらも、「結果としては準1級くらいの子どもが入学してきます」とのことでした。

_ 英語で発想できる生徒たちが入ってくるということは、生徒は英語のインターナショナルスクールに行く力をすでに持っているわけですが、渋渋では、バランスのとれたバイリンガルになることを目標としている点でインターナショナルスクールとは異なる環境であると言えます。つまり、英語で発想することと同じように日本語で考える力も重視されているのです。

作文入試で入ってくる生徒のタイプ

作文入試で入学してくる生徒もレベルがぐんぐん高くなっていることが最近の傾向だそうです。国語算数の力は一般受験の生徒と遜色がないということですので、入試配点合計220点中20点分を占める作文は、合否の上で大きなポイントになるかもしれません。この作文で書かれる体験こそは、渋渋が帰国生入試で大切に考えている部分ですから、海外での体験をどのように言語化できるかという点は、受験生ならば意識しておいた方がよいところでしょう。

帰国生のカリキュラム

_ 入学後は、帰国生だけが集まる英語の取り出し授業と、一般生とともに学ぶ他教科の授業があります。  英語の取り出し授業は学年によって週6時限から7時限で、そのうちの2時限は、「ワールドヒストリー」、残りは「ランゲージアーツ」というふうに分けられています。 ワールドヒストリーでは、中1でギリシア・ローマ、中2は中世とルネッサンス、中3は帝国主義と第1次世界大戦、高1は第2次世界大戦と戦後、というように時代を分けて、特定の時代を深く掘り下げていくような学び方をするということです。欧米での学び方、つまり、リサーチ→プレゼン、リサーチ→ディスカッション、リサーチ→タームペーパーという形が基本で、出来事や人物を年号とともに覚えるようなものではありません。

こういった英語のエッセイや論文は、「マイルストーン」という作品集となって在校生には配布されているとのことです。文化祭などで展示もされるようですので、受験を考えている方は文化祭などに足を運んでみるとそのレベルの高さが確認できるのではないでしょうか。

帰国生と一般生の相互の影響

_ 英語以外の科目では、それぞれが自分の所属するクラスに入り、普通の日本の学校生活を送ります。国語と数学は取り出し授業で、いったん別クラスに入って、その後一般クラスに戻すという配慮をしているのですが、年々通常クラスへと戻る期間が短くなってきているとのことです。それだけ「日本人としてのアイデンティティを持った、バランスのよいバイリンガル」という理想に帰国生が近づいているということを意味しているわけで、生徒たちもむしろ一般生と同じクラスでの授業を受けたがる傾向にあるようです。

渋渋の英語を高いレベルに押し上げている秘密として、模擬国連部、英語ディベート部、ESS、ピアチュータリングといった英語系のクラブの存在があります。いずれも当初は、帰国生が設立しリードしていった部分が大きかったようですが、最近では、一般入試で入ってくる子どもも意識が高く、帰国生に負けないほど、様々な活動に積極的に参加しているとのことです。帰国生が、一般生と同じクラスで英語以外の教科を学びたがるのと同様、一般生は、渋渋が英語に強い学校だということをよく分かった上で入学しているので、英語に対するモチベーションの高い生徒が多いのです。 帰国生と一般生の双方が、より高いレベルへ引き上げていく存在として影響を与え合っているわけです。

海外と国内の進学サポート体制

進路担当の中には、海外を担当する先生が2名常駐していて、海外大学への進学のサポートも充実しています。さらに、専門の資格を持っている「ガイダンスカウンセラー」も非常勤としてサポートしているということでした。

_ 帰国生は、英語ができるという長所があるので、国内の大学進学にも強く、東大に進学する生徒も多いようです。高3段階で、進路選択のコースが分かれ、国立医学部や東大を目指す生徒は、そこからは一般受験のコースに所属することもできます。

今後の大学入試改革なども見越して、学校全体としてこの先何か方針を変えることなどがありますかという質問に対しては、とりたててこれまでと異なることをしようとは考えていないとのことです。この春の東大推薦入試にも合格を出せたということや、これまでやってきたことを評価された結果としてSGH(スーパーグローバルハイスクール)に指定されたことも、今までの方向性が間違っていなかったという自信につながっているようでした。

最後に鈴木先生と伊藤先生が口をそろえて強調されていたことは、生徒を信頼して任せることで、生徒が力を発揮してくれるようになるということです。もちろん中学生の場合は、多少の手助けが必要になることもあるわけですが、高校生になればほとんど生徒たちに任せるということが基本になっているそうです。「自調自考」の精神が学校全体に行き渡っているのでしょう。先生方の話しぶりには、これまで培ってきた帰国生教育に対する自信あるいは余裕のようなものが感じられました。こういった余裕が生徒への信頼につながり、それが生徒のパフォーマンスをより高めていくという好循環を生み出しているのでしょう。最初に授業を見て感じたことはやはり渋渋全体に広がっている文化だと言ってよいのかもしれません。