東京学芸大学附属国際中等教育学校

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東京学芸大学附属国際中等教育学校(以下TGUISS)は、IB(国際バカロレア)の認定校であり、MYP(中等教育プログラム)とDP(ディプロマプログラム)を設置する中等教育学校として中高一貫教育を実践しています。

MYPは2010年度から導入され、さらに2014年にはスーパーサイエンスハイスクール(SSH)、2015年度からはスーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定されました。2016年度からはDPも導入を開始しています。
TGUISSは、教員養成系大学の国立大学法人東京学芸大学の附属学校として、教育実習の実施など教員養成機関としての役割を果たしつつ、先進的な教育研究の取り組みに次々と挑戦している学校です。そのような、帰国生にとって憧れのTGUISSの教育について後藤貴裕副校長先生にお話を伺い、授業も見学させていただきました。
(取材・文/スタディエクステンション代表・鈴木裕之)

国際バカロレア認定校ということで帰国生から注目が集まっています。6年間のカリキュラムについて基本的なところから教えていただけますか。

_ 1年生から4年生(中1から高1)までは全員がMYPの課程を履修します。1クラス30名程度ですから、1学年あたりおよそ120人がMYPを受けることになります。
5年生から6年生(高2と高3)は、15人程度がIBのディプロマ修得を目指してDPの教育課程を履修しています。DPの授業を履修していない生徒たちも高校1年生まではMYPを履修していますし、5・6年の授業においても授業デザインや評価の考え方は基本的にIBの理念にのっとって行われています。

DPコースに入るには何か選抜試験のようなものがあるのでしょうか。

いわゆる高校入試のような選抜試験があるわけではありません。DPの授業にみあったクラス規模を保つためにも人数を限定しますが、4学年(高校1年生)までの学習状況や進路希望および本人の適性などを考慮しながら決めていきます。
海外進学を考えている生徒がDPを選択する傾向はありますが、DPを選択しない生徒でも、英語イマージョンのクラス(英語で様々な教科を学ぶクラス)で勉強して海外大学に挑戦する生徒も多くいます。
DPを修得することによって行きやすい海外大学がある一方で、理系の科目を得意とする生徒の中にはDP科目を履修しないで英語イマージョンのクラスを履修して、海外の難関大学に挑戦している生徒もたくさんいます。2018年度にはハーバード大学にも合格しています。

SSHとSGHにも指定されていますが、これらとIBの関係はどのようになっているのでしょうか。

SSHとSGHは特にコースということではなくて、全員が関わることになっています。例えばSSHやSGHの課題研究については中学1年生から高校3年生までが行っています。
課題研究の校内コンテストも行っていて、「ISSチャレンジ」と呼んでいるのですが、こちらは中学1年生から高校3年生までが自由に参加できる「異種格闘技戦」のようなコンテストです。SSHの研究をしている生徒もいればSGHの研究をしている生徒もいます。理系文系を問わず、自分の興味関心にもとづいた研究を競っています。

DPでも長大な論文が課されると聞いていますが、そちらとはどのような関係があるのでしょうか。

_ ディプロマプログラムに在籍している15名ほどの生徒は、エクステンディドエッセイ(EE)という論文を書くことになっています。SGHやSSHで生徒が行う課題研究の方も、評価のシステム、ルーブリックなどはEEをベースにしています。MYPの頃から同じような評価方法を実施しているので、DP以外のプログラムの生徒も、授業を通して課題研究を広げていくような学びをしているわけです。授業スタイルはもちろんですが、評価のスタイルというのが大きく影響していて、生徒が課題研究の発表に取り組む姿勢というのは、自然に定着しています。

国際交流についてはどういったことが行われているのでしょうか。

生徒が海外の生徒と交流する機会だけでも月に2~3回はありますが、視察という形を含めると、それこそ2日に1回くらい様々なところからお客様が来ます。今週はベトナムから日本語を勉強している留学生が20名くらいやってきて、一緒に授業を受けています。カナダやアメリカ、フランス、中国など、まさに世界中から生徒が来ています。
本校から留学する生徒もかなり多いですね。特に高校1年生夏から高校2年生夏まで1年間の留学に行く生徒が多いです。本校では留学の単位を認める制度がありますので、6年で卒業することも可能であり、学年の1割強、12~13人ぐらいの生徒が留学に出て行きます。

海外から編入学してくる生徒もいますね

_ 毎年4月と9月には編入生を、学年ごとに毎年数名受け入れています。1学年の定員は120名ですが、例年中学1年生は105名でスタートします。その後9月と4月の編入学で数名ずつ入ってくることで増えていくわけです。ですから、生徒の人数は逆ピラミッドの形になります。
後期課程(高校生)の編入についてあまりご存知ない方も多いのですが、毎年一定数の入学者の枠は確保しています。

保護者の転勤などで学校を辞めなければならない場合はどのように対応されているのでしょうか。

いったん退学という形にはなりますが、再入学という制度があります。海外でどういう勉強をしてきたのか、また戻ってくる学年の水準に達しているかどうかを見させていただきますが、これまではほとんど問題ありませんでした。

IB(MYP)の英語イマージョン授業

後藤先生のお話を伺った後、Ben Zedek Smith先生が行っている中2英語アドバンストの授業を見学させていただきました。

_ 映画「ライオンと魔女」の英語版を鑑賞しているところでした。字幕のない映画を5分ほど見た後、洋書の中に描かれている場面の表現に注目し、再び同じ場面を映画で確認したりしています。
生徒は当然のように先生と英語でやり取りをしていて、最初は英語表現の勉強をしているのかなと思っていましたが、実はそうではなく、書籍と映画で重点の置かれ方がどのように異なっているかについてそれぞれの考えを述べているのでした。

_ 同じ場面でも強調されている事柄が本と映画で違うということに気づかせ、それぞれの効果について考えさせているわけです。

_ 授業後にBen Zedek Smith先生にお尋ねしたところ、学期を通じてこのようなメディア間のテキスト比較を行うということでした。「ライオンと魔女」が書かれた時代は20世紀。それが21世紀に映画化された際、時代の問題意識が作品にも反映されているとのことでした。例えば、かつてはあまり意識されることのなかったジェンダーや平和主義の問題が映画ではより色濃く表れていることを生徒は学んでいると話してくれました。

授業の目標設定が明確であることはもちろん、原作と映画の比較という手法を通じて、生徒が社会問題の探究に向かうようにカリキュラム設計されているということに驚かされました。このような授業設計の方法論は、MYPの手法によるものだと考えられます。原作や原著者を必要以上に重視するのではなく、むしろ作品を受け取る側が作品の解釈を構築していくというのは、IBの構成主義的アプローチの典型です。
TGUISSでは、MYPの特徴の一つであるATL(Approaches to Learning)に力を入れていて、各教科の先生が、ATLスキルを元に生徒の資質・能力を評価する手法について研究しています。その成果はTGUISS公開研究会を通じて冊子としても公開されていますが、何よりも日々の授業に活用されているわけです。

続いて見学したのは、DPの5年生の化学の授業です。生徒の一人が授業案やプリントを作成し、他の生徒を相手に授業を行っていました。グループワークで生徒同士が教え合うという試みは何度か目にしていますが、講義形式で多数の生徒を前にして本格的な授業を行うというスタイルはこれまであまり目にしたことはありません。

_ 講義内容がまとめられたプリントを元に教える生徒にとっては、教えることを通して理解が深まります。また講義を聞く生徒の側も、情報を鵜呑みにするわけにはいかず、クリティカルに聞く姿勢が養われるわけです。とはいっても、険悪な雰囲気というわけではなく、お互いが理解を深めようと対話を行っているところに感銘を受けました。授業を受ける側の生徒は、質問が気軽にできるというメリットを最大限に活かして、説明の区切りのところで、様々な質問を投げかけてきます。講義を行う側も自分の準備が不足していると感じたら即座にGoogleで検索を開始し、誠実に質問に答えていきます。質問者に対しては先生役の生徒だけではなく、他の受講生徒から回答されることもあり、ここでは誰が先生で誰が生徒という区分けは消滅していました。

担当の鮫島先生は、後方でこういったやり取りをずっと見ていて、なるべく口を挟まないようにしています。それぞれの生徒たちが議論に参加している様子を評価していたようです。
生徒たちは、講義を聞いてわからないところは質問し、それをきっかけに対話・議論を展開していくのです。この回は分子間力について議論をしていたのですが、見えない世界を論じる上で、疑問をもちながら話をすることの重要性を改めて感じさせてくれました。

_ TGUISSのDPは、日本語と英語を組み合わせて行っています。英語だけだと議論の部分が外国語になってしまうことでどうしても表面的になりがちですが、議論を母語で行い、教材は英語のものを使用するというスタイルは、日本でのIBのDPのあり方として非常に有効なものだと言えるかもしれません。

最後に見学させていただいたのはTOK(Theory of Knowledge=知の理論)の授業です。TOKは哲学、特に認識論と呼ばれる領域についての教科で、私たちはどのような方法で「知る」のかということを考えます。そのアプローチは独特なもので、知識の領域(Areas of Knowledge=AOK)と、知るための方法(Ways of Knowing=WOK)をあらかじめ設定することで、議論が拡散してしまわないよう工夫されています。
生徒たちはすでにAOKやWOKについての学習を済ませており、この日の授業では、その成果を発表するプレゼンテーションが行われていました。

_ この日のプレゼンテーションを担当していた2人組は「人はなぜ異なる判断をするのか」という問いについて、数学そして倫理という知識の領域を例にとって発表しました。「知覚」と「判断」という「知るための方法」が果たして数学と倫理で同じなのか違うのか、発表を終えてからの質疑応答がスリリングでした。そもそも領域が異なれば知るための方法は異なるのではないかという疑問を投げかける生徒がいるかと思うと、もし方法が異なるのだとしたら、それは「知の理論」というセオリーになり得ていないのではという疑問を提示する生徒もいました。プレゼンターが中心になって解答をするというよりも、そこに参加しているすべての学習者(そこにはファシリテート役の先生も含まれます)が、意見を述べ合う様子はTOKという科目の本質をよく表していました。つまり、教材や誰かの頭の中に正解が載っているのではなく、議論のプロセスの中で生成されていくのが「知る」ということの本質なのではないかということです。少なくとも授業を見ていた者としてはそのような気づきを得ることができました。

_ 授業が終わってからファシリテートをしていた山本先生にお話を伺うと、社会科教員として社会という科目を教えるのと、TOKを担当するのとでは意識が異なるということでした。知るという方法においては生徒も先生もなく、自分も生徒の発表や議論から学んでいるということでした。

_ こういった先生方の意識がTGUISSの特徴でしょう。つまり、教科知識を与えるという役割ではなく、ATLを通した学際的なアプローチによって生徒が主体的に学ぶということを中心に据えているのです。ですからIBを教えているといった気負いや特権的な意識はまったくなく、むしろ一人の地球市民として生徒と同様に学んでいる姿として映りました。それこそがIBスクールたるゆえんなのかもしれません。

TGUISSは、IBの学びのエッセンスを日本の教育に取り込みながら、新学習指導要領の先を走っている学校です。海外のインター校や現地校で21世紀型の学びを経験してきた帰国生にとってこの学校が魅力的なのは、単に英語を伸ばしてくれるとか、IBだからという表面的なことではなく、その根底に「学習者を中心に据えた学びへのアプローチ」があるからなのでしょう。