八雲学園中学校・高等学校

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2018年度から八雲学園は共学校となります。共学化の話は実はこれまでも何度か浮上しては、現実化する前の段階でその都度壁に阻まれてきたのだそうです。ここにきて様々な巡り合わせが結実し、ようやく実現したのです。
(取材・文/スタディエクステンション代表・鈴木裕之)

_ 帰国生入試も開始しました。小学生の段階で英語を習っていない生徒もぐんぐん英語力を伸ばす八雲学園が、帰国生を本格的に受け入れていこうとするのは、共学化と同様、多様な生徒が学び合う新たなグローバル教育のステージに歩を進めることを意味しています。

そのことを象徴するのが、「ラウンドスクエア」への正式加盟です。世界中にある180以上の加盟校と結ばれたことで、日本におけるグローバルリーダー輩出の重要拠点となったのです。

_ こうした動きに敏感な帰国生保護者からの反応が昨年は数多くあり、今年の帰国生入試でも早速手応えを感じていると高校部長の菅原久平先生は話します。今後帰国生からの注目をますます集めることは間違いなさそうです。

八雲学園の英語教育環境

八雲学園の英語の授業数が多いことはつとに有名です。中1は週に9時間、中2・中3は10時間の授業時数を確保し、中学生の段階で英語によるコミュニケーションを行うための基礎を固めます。また英語関連の行事が頻繁に行われ、実際に英語を使う機会がたくさんあるのも八雲の特長です。

中1の6月にはレシテーションコンテスト、中2の3月にはスピーチコンテストがあります。当然コンテストに向けての練習も行われるわけで、例えばスピーチコンテストの下書きとなるライティング原稿作成にはネイティブスピーカーの先生も指導に入ります。

10月の文化祭では中3が英語劇を、また、12月の英語祭では中2が英語劇、中1は朗読劇を行います。英語劇に取り組むことで、英語表現をコンテクストや場面の関わりの中で捉える力やコミュニケーションスキルが向上します。

English Fun Fairという行事も中学生全員が参加するユニークな取り組みです。様々な国から来ている先生に英語でインタビューを行い、生徒の方でも自分自身について語るというものです。日本文化の精神とも言える「おもてなし=ウェルカムの精神」を発揮しながら、外国の人とオープンマインドで接することができるようになることを目標としています。

ざっと上に挙げた行事からでも分かるように、八雲学園における英語教育というのは、認知的側面はもちろん、情感やコミュニケーションスキル、さらに異文化交流といった様々な側面から磨き上げていくものなのです。春には、イエール大学のアカペラ隊と触れ合うイベントがあり、世界トップレベルの大学生たちと音楽を通して交流します。今後はラウンドスクエアの加盟校との交流も増え、ますます世界とのつながりが増えていくでしょう。

このように、八雲学園にいれば日常的に英語に触れていられる環境ですが、さらに海外研修や留学プログラムも充実しています。中3が全員で参加する2週間のアメリカ海外研修では、姉妹校であるケイトスクールとのプレゼンテーション交流を行います。アメリカの名門ボーディングスクールのリベラルアーツに学びつつ、八雲学園も毎年パワーアップして臨み、お互いがリスペクトし合える経験を共有するのです。

高1では希望者が3か月間カリフォルニアサンタバーバラで学ぶ留学プログラムがあります。この留学プログラムは留学の前後にそれぞれ3か月ずつの事前事後学習がついていて、9か月留学とも呼ばれています。実は、事前事後の指導によって英語力が相当伸びていきます。今年入学する生徒からは、1年プログラムも選択できるようになるということです。

生徒の特性に対応するフレキシブルなクラス編成

現状ではまだ帰国生だけのクラスはありませんが、高1生1名だけが在籍する英語取り出し授業があるというので、そちらの授業を見せていただくことになりました。八雲の取り出し授業に関するスタンスは、「帰国生だから」とか「英検何級だから」といった属性によらず、授業を分けた方がよいと判断されれば、たとえそれが一人であってもその生徒に合わせたものを提供するという考え方です。

この取り出し授業に在籍している生徒はすでに英検準1級を所持し、特にオーラルコミュニケーションは群を抜いているため、週に4時間の取り出し授業を行っているそうです。担当のアレン先生は、アカデミックな英語力を強化するために、主にリーディングとライティングを交互に行う形で、この生徒のためのカスタムメイドプログラムを用意しました。

_ この日はライティングの授業で、オーストラリアから来ている留学生も一緒に授業を受けていました。英語ネイティブスピーカーである留学生に取り出し授業に参加してもらうというフレキシブルな対応も八雲学園らしいところです。

アレン先生は、教室の机を向かいあわせにして生徒たちを迎えると、冬休みに行った旅行の話などを始めました。何気ない雑談のように感じましたが、一通りお話が終わったところで、ナラティブパラグラフを書くという今回のテーマが示されました。

「今私が話をしたように、冬休みの間に経験したことを書いてみてください」と白い紙が渡されます。

_ アレン先生はにこやかに生徒たちを見守ります。生徒たちは、しばし窓の外を眺めて何かを思い出しては、白紙に文章を書き綴っていきます。10分ほど静かな時が経過しました。ひとりずつ順番に読み上げてもらい、アレン先生は内容についての感想を述べたり細部についての質問をしたりしていきます。

_ ここで興味深かったのは、アレン先生がさりげなく渡したリファレンスブックです。そこには、ナラティブパラグラフを構成するセンテンスの要素が、「time and place」とか「climax」といったキーワードとともに埋め込まれています。アレン先生は、内容についてのフィードバックをする際に、そういったキーワードを少しだけ忍ばせています。しかし、あくまでも出来事(内容)に重心を置いているので、いかにも「ライティングの勉強」をしているといった堅苦しさがまったく感じられないのです。

後からお話を伺ったところ、ナラティブ(物語形式)のライティングから入って、パラグラフライティング、そしてエッセイライティングへと段階的につなげていくという年間カリキュラムができているとのことでした。今の段階では書き方のセオリーを優先させ過ぎないように緻密に計算されているわけです。

グループアクティビティ中心の授業

2時限目の高2クラスの方は、先ほどとは一転して大人数クラスでのグループワークです。指導はアレン先生を中心にして、ベンジャミン先生、キャンディス先生、そして田畑先生がサポートに入ります。

_ 冬休みにどんなことをして過ごしたか、友達5人に取材してワークシートを英語で埋めていきます。取材する際は英語を使うのがルール。「お年玉は英語でどう言えばいいか」「初詣は・・・」など、日本語サポート役の田畑先生に質問が次々と飛んできます。田畑先生は、ヒントを示しつつも、文化の違いからくる表現は必ずしも1対1の対応ではないことに気づかせていきます。生徒たちは、ネイティブスピーカーの先生に、自分の知っているボキャブラリーを組み合わせて説明を試みていきます。

_ ワークシートのアクティビティが終わると、英語で年賀状の文面を書くアクティビティに移ります。英語による文面は、先ほどのアクティビティで使える表現がすでにインプットされているので、書き方で頭を悩ませることはありません。文面が書けた人はイラストを描くなど、誰に届く年賀状なのか、その未知の相手を想像しながら書く作業に没頭していました。

_ 1時限目と2時限目、一見すると静と動で大きく異なっているように見えますが、生徒が主体的に活動に取り組み、それを楽しんでいる点で共通しています。

クラスのレベルに応じて授業のスタイルを様々に変え、しかも生徒一人一人のニーズを拾っていくアレン先生の授業を見れば、八雲の英語教育の質の高さが分かります。帰国生が多く集まる学校にはたいてい力のある英語ネイティブの教員がいて、日本人の教員とよいチームを作っているものですが、八雲もその例外ではありません。

プレゼンテーション交流

先にも書いた通り、八雲学園の特長は日常的に英語に触れる行事の多さです。この日も進路が決定した高3生向けの特別授業において、オーストラリア人留学生のプレゼンテーションが行われていました。

双子の留学生のひとりが英語でプレゼンテーションを行い、もうひとりがそれを日本語に翻訳する、次のスライドでは逆に、翻訳していた生徒が英語でプレゼンテーションをし、もう一人が翻訳に回る、といったように、交互に役割を交換しながら進めていました。プレゼンテーションのテーマは、オーストラリアと日本の比較です。

_ 聞いている生徒たちはオーストラリアの自然や文化を学ぶのと同時に、彼らから日本がどう見えているのかということも学びます。こういう活動を通して日本の文化や自分らしさを再認識するわけです。

オーストラリアの留学生からのプレゼンテーションが終わると、今度は八雲学園の生徒がお返しに日本の紹介を英語でプレゼンテーションをするという流れになっていました。

このプレゼンテーションを後ろからずっと見守っていた英語科主任の近藤隆平先生は、終了後に、オーストラリアの留学生が日本語に翻訳しづらいところを一部スキップしそうになりながらも、きちんと翻訳して伝えてくれたことが嬉しかったとお話されていました。

_ 私は迂闊にも最初気づきませんでしたが、このプレゼンテーションは、聞く側の八雲生にとってだけではなく、プレゼンターである留学生にとっての学習機会だったわけです。翻訳は、八雲生のためにしたのではなく、話をする留学生のために与えられたタスクだったのです。

海外プログラムを推進するリーダー役として、近藤先生は留学生と八雲生の双方にとって学びとなる機会をどう作り出すかということを考えていたのでしょう。留学生に対しては、日本のことや日本語を知ってもらうことが最高のおもてなしに違いありません。

ここに八雲学園のグローバル教育の肝があります。英語を学ぶことはもちろん大事ですが、相手へのリスペクトがあること、相手の身になって考えるということが浸透しているのです。八雲学園が日本の文化を大切にするのは、自分らしさを自覚することこそがグローバル社会での必須要素だという考えに基づいています。プレゼンテーションの交流にはそういう意味合いがあったのです。

ラウンドスクエア加盟のインパクト

2017年、八雲学園はラウンドスクエアに正式加盟しました。この団体への加盟こそ八雲の目指すグローバルリーダー教育を象徴するできごとでした。ラウンドスクエアとは、国際バカロレアに基づく教育で知られるアトランティック・カレッジ設立者のクルト・ハーン氏が設立した団体で、6つの柱を理念(IDEALS)として掲げています。

  • Internationalism (国際主義)
  • Democracy(民主主義)
  • Environmentalism(環境主義)
  • Adventure(冒険心)
  • Leadership(リーダーシップ)
  • Service(奉仕)

これらの理念を共有する学校が世界中に187校(2018年1月15日現在)あり、ラウンドスクエアの加盟校として様々な交流をしています。

2年前に八雲学園がラウンドスクエア加盟に向けた準備として、ドイツで行われた国際会議に高2生がふたり参加してきました。そこで自分たちの想像を超えた活動をしている同じ高校生がいるということに彼女たちは大きな衝撃を受けて帰ってきました。参加した生徒の一人、神山さんは、奉仕活動とヨットで湖を渡り街に出かけるというアドベンチャーデイが特に印象的だったと話します。

想像している以上の可能性が自分に眠っていることに気づかせてくれるものが「アドベンチャー」であり、チャレンジ精神を発揮していく土台を形成していきます。神山さんたちは、このドイツの体験をきっかけにラウンドスクエア正式加盟にむけた活動に傾倒していきました。

昨年は、ラウンドスクエア国際会議は南アフリカ共和国のケープタウンで行われることになっていました。八雲学園は、正式加盟の年ということで、まだ受験まで時間に余裕のある高2生を新たに任命するか、それとも受験を間近に控えているけれど、1度ドイツに行って勝手が分かっている神山さんたちにお願いするか迷っていたようです。神山さんに打診してみると、二つ返事で承諾。八雲学園におけるラウンドスクエア活動の普及を自分の使命と考え、卒業までの間、その活動にコミットすることを決意したのです。

_ こうして、バラザ委員会が八雲学園内に発足し、先日第1回の委員会が開かれました。バラザというのは、「集会・会議」を意味する言葉で、ラウンドスクエアで使われている用語だそうです。8名ほどが椅子を円形に配置して座り、ディスカッションをしていきます。中1から高3までが参加するので、バラザリーダーは高3生が務め、英語でディスカッションを行います。中1も参加することを考えると英語でのディスカッションはハードルが高いのではと心配すると、神山さんは次のように答えてくれました。

自分がドイツの国際会議に初めて参加したとき、バラザリーダーは、議論をリードしつつも、参加者全員に配慮していました。自分の英語力はその時まだ十分ではなかったけれど、そんな私にも発言の機会を与えてくれ、熱心に耳を傾けてくれました。私はそこでリーダーの役割というものを学びました。だから、自分が下級生に接するときにもそういうリーダーになってあげたいと思っています。

この校内バラザでは、人種差別などのグローバルイシューを話し合います。中1生にとっては確かに難しいテーマではあるけれど、みな一生懸命調べてきてくれることが嬉しいと神山さんは話します。神山さん自身も、南アフリカ共和国の国際会議に参加するにあたり、アパルトヘイトやネルソン・マンデラ氏のことについて事前にたくさん調べたそうです。しかし、現地に行ってみて、ニュースやインターネットだけでは分からない現実があることにも気づかされたそうです。

実際に現地で話をしてみると、意外に人々が暖かくて明るいという印象を持ちました。つらい過去は消せないし、問題はまだなくなってはいませんが、だからこそみなで協力して乗り越えていこうという気持ちをもっていることがわかって嬉しかった。

調べたことと実際に体験したことを重ね合わせることで、より深い考察が得られます。そういった考察をさらにディスカッションで揺さぶられる体験がバラザの醍醐味なのかもしれません。

最後に後輩へのアドバイスをお願いすると次のように答えてくれました。

_ 「国際会議では積極的に意見を言うように」とみんながアドバイスをくれます。たしかに、行けば積極的にならざるを得ないほど、周囲の人たちの主張は強いかもしれません。でも、だからこそ、他の人たちの価値観に触れたときに、人の話を聞くことも大切なのかなと思います。無理に自分を押し出そうとするのではなく、聞くべきことはきちんと耳を傾けるというのは日本人のよいところだと思います。ただ、周りの意見に流されないようにすることも大切。自分の強みや自分らしさ、日本の文化といったものを意識して参加すると、もっと楽しめるのではないかと思います。

新しいチャレンジにワクワクしている神山さんに、八雲学園が目指すグローバルリーダーの姿を見ることができました。神山さんのバイタリティと、謙虚に学ぼうとする姿勢は、世界の人々と議論し、日本文化の強みを見出した静かな自信に満ち溢れていました。

帰国生が求めている多様性を許容する環境や、チャレンジをバックアップする環境にこれほど本質的に応えてくれる学校はなかなかないでしょう。日本人として自分らしさを磨きつつ、グローバルリーダーとしての資質を伸ばす、そういう環境が八雲学園にはあるのです。