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UNKNOWN WORLD 昆虫研究家・牧田習さん 特別編

情報誌『shuTOMO』2024年7月7日号の牧田習さん「UNKNOWN WORLD」の特別編です。

情報誌『shuTOMO』2024年7月7日号の牧田習さん「UNKNOWN WORLD」の特別編としてWebでお伝えします。取材・構成/ブランニュー・金子裕美〉

 幼少期から昆虫に夢中で、その世界に引き込まれていった牧田習さん。家族旅行で訪れた沖縄で三線に興味をもち、三線の先生とのご縁により、さなぎから脱皮するチョウの神秘に触れて冒険心に火がつきます。地図を片手に自転車でスポットを巡り、採集した昆虫を観察して、どこにどんな昆虫が生息しているのかを記録する。知らない昆虫は調べる。そうした地道なフィールドワークを楽しみながら重ねていくことにより、「知識量はもとより、疑問がどんどん増えていった」と言います。


 思考のもやもやを解消したり、考えるヒントを与えてもらえる場所として足を運ぶようになったのが「学会」のサークルでした。昆虫好きの人が集まり、「昆虫」を共通言語に、大人も子どもも一緒になって会話ができるその場所は、牧田さんにとっても居心地がよく、新しい世界が広がる、特別な場所になりました。


 こうして自分の〝好き〟を追求し続ける人生を送ってきた牧田さんですが、どのようなことをきっかけに、昆虫好きな少年から研究の道へ進むことになったのでしょうか。

心が動けば体も動く

「僕は中学受験をして中高一貫校に進学したので、(高校受験を考えることなく)中高時代も虫捕り三昧の日々でした。ですから高校の成績は、あまり胸を張れるものではありませんでしたが、高1の夏休みに北海道大学のオープンキャンパスに行くと、自然がとても豊かで魅了されました。10日間ほど滞在し、虫捕りを満喫したのですが、ものすごくいろいろな虫が捕れてうれしかったですし、もっとここで虫捕りをしたい、という気持ちが芽生えたことが、大学進学へのモチベーションになりました」


 自分の〝好き〟と結びついてスイッチが入った牧田さんは、受験勉強を始めますが、そのときに役に立ったのが、これまでの人生で培った処世術でした。


「僕は幼い頃から、ここに行きたいと思ったら、どうすれば実現できるかを考えるタイプなんですね。行けるかな? ではなく、行くためには、と、行くことを前提に考えるので、そのときも北海道大学に受かるために必要なことは何かを考えることから始めました。やるべきことを書き出して、高2の終わりあたりから、それを一つずつ潰していったのですが、正直なところ一次試験は自信をもてませんでした。ところが二次試験で、運良く僕が得意なクワガタの問題が出て合格したので、導いていただいた、と思っています」

人との出会いに感謝

 無事に北海道大学に入学した牧田さんでしたが、雄大な大自然を前にして、じっとしていられるわけがありません。

「北海道へ引っ越した初日から、ゲンゴロウを探すことに夢中でした(笑)。授業の前に虫捕りに行くと、つかまえるまで帰れなくなるので、おのずと授業に出られない日が続き、たちまち留年が決まりました。思いがけずできたその時間に何をしたかというと『海外での一人旅』です。高校生の頃からやってみたいと思っていたので、2年次に戻る予定で休学し、当時、手頃な価格で行けたフィリピンの語学学校に通いながら、虫捕りを楽しみました。(虫捕りに最適な)夏場が過ぎて、この先、どうしようかなと思ったときに、日本に戻ることも考えましたが、日本は秋から冬に向かう時期です。そこで季節が逆の南半球で、ワーキングホリデーを活用して虫捕りをしようと考えて、ニュージーランドに行きました。その選択が、今の自分につながる一つの転機になりました」


 そこでたまたま出会った昆虫の研究者と、虫の話で意気投合したのです。

「語学学校に通ったとはいえ、流暢にしゃべれるわけではないので、翻訳アプリを使いながらのコミュニケーションでしたが、先生が僕を研究に誘ってくださったのです」

 英語はたどたどしくても、昆虫の話をするときの牧田さんは目がきらきらと輝き、熱を帯びています。コミュニケーションを重ねていくうちに、牧田さんを信じて声をかけてくださったのでしょう。

「ニュージーランドで虫を捕るには許可証が必要でした。その先生との出会いがなければ、僕は日本に帰っていたかもしれません。先生が昆虫採集ができる場を与えてくださり、研究論文の書き方を教えてくだったおかげで、新種を発表することもできました。まさに研究者の入口に立たせてもらい、帰国後もニュージーランドでの出来事が心に残っていたのはたしかです」

 驚くことに、先生とのご縁はそこで終わりではありませんでした。牧田さんが4月に復学すると、その夏に北大の研究員として赴任し、再び先生と研究論文に取り組む機会が訪れたのです。

「人生は何が起きるかわかりませんよね。だから僕は、そのとき、そのとき、心が動くままに行動することを大事にしているのです」

東京大学大学院で昆虫の研究がしたい

 研究者の道を考えながらも、大学3年時に芸能事務所に所属したのは、「たまたま目に入ったテレビ画面がきっかけだった」と言います。

「自分が大好きなことを、お子さんにもわかるように紹介されている〝サカナくん〟さんに憧れて、東京に行くことを考えるようになりました」

 東京大学大学院で昆虫の研究をしようと決めたら、またも「そのためにはどうする?」という思考が発動。

「目的が明確になるとモチベーションが出てくるので、これまでの遅れを取り戻そうという意気込みで、勉強を頑張りました。もちろん虫捕りは封印していませんよ。一日は24時間あるので、勉強と虫捕りの時間をうまく使い分けました。また、車やバスなど、移動の時間にもできることはあるので、(思いを遂げるには)あきらめずにやり続けることが大事だと思います」