【浦和実業学園高等学校】名監督に聞く
my TYPE第13号(2025年7月13日発行)掲載
取材:首都圏模試センター 立石 哲也 (元ラグビー部)
首都圏模試センター 野尻 幸義 (元野球部)
甲子園初出場でベスト4進出!
浦和実業学園高等学校硬式野球部・ 辻川正彦監督が語る“執念の野球”
第97回選抜高等学校野球大会にて、初出場ながら堂々のベスト4入りを果たした浦和実業学園高等学校硬式野球部。その快進撃を率いた辻川正彦監督にお話を伺いました。強豪校を次々と破っていく姿に、受験勉強の合間に勇気をもらった方も多いのではないでしょうか?
今回は、監督や選手たちがどのような気持ちで試合に臨んだのか、また、その姿勢が試験や日常生活にどう活かせるかについてもお話しいただきました。ぜひ最後までお読みください。
―甲子園初出場、そしてベスト4進出おめでとうございます。37年間監督を務められていますが、近年、指導に変化はありましたか?
時代の変化を感じますね。髪型を校則の範囲内で自由にしたり、練習時間も短縮しました。授業のない夏休みは朝8時から夕方6時までが当たり前でしたが、最近は暑さの影響もあり、コーチ陣の提案で朝7時に始めて、遅くても午後1時には終わるようにしています。これが意外と効果があって、午後に時間の余裕があることで、精神的にも肉体的にもリフレッシュできるようになりました。とはいえ、私自身は今でも「練習は質より量」と思ってしまうところがありますけどね(笑)。
―コーチ陣は何名体制ですか?
6~7人です。私の高校時代の恩師や、OBで元プロ野球選手の小原沢がピッチングコーチを務めています。彼は私が着任した時には卒業していたので教え子ではありませんが、その他の部長・顧問・コーチ陣は全員教え子です。
―教え子がコーチだと、監督の意図も伝わりやすいのでは?
はい。当部では試合中も部長が常に隣にいて、相談しながら采配をしています。意思疎通の速さは強みですね。
― チーム作りの方針についてお聞かせください。
選手の個性を活かしつつ、私自身の野球観をベースにしています。当部は寮がなく、全国から生徒が集まるような強豪校ではありません。そのため、スター選手に来てもらうのは難しい。しかし、野球は「守りのスポーツ」。必ずしも実力通りの結果にならず、逆転も起こり得る。だからこそ、私たちにも勝機があるのです。― どのような選手をスカウトしていますか? 私が重視するのは「足の速さ」と「野球センス」。ただ、他のスタッフは長打力を重視することもあります。バランスよくスカウトできるよう心がけています。
― 今年のチームの特徴は?
例年通り、守備力と機動力を中心とした「守り勝つ野球」が軸です。特にバッテリーとセンターライン(ショート、セカンド、センター)を重視し、盗塁やバント、ヒットエンドランを絡めて得点を狙うスタイルです。
― 強豪校との対戦で、選手たちのモチベーションはいかがでしたか?
秋季県大会直前に茨城県の水城に負けたのが、結果的に良い薬になりました。県大会1回戦ではタイブレークで辛勝し、聖望学園、浦和学院と実力校を破っていきました。特に浦和学院との試合では、開始前から圧に飲まれそうになりましたが、投手の石戸が初回を0点に抑えたことで「今日は行ける」と感じました。
― 選手たちのメンタル面についてはいかがでしたか?
とても落ち着いていました。特に石戸は「普通の高校生ではない」ほど冷静です。過去に知人から「運のある選手を見つけて頼れ」と言われたことがありましたが、それがキャプテンの小野でした。実際に抽選では「第1試合は避けたい」と伝えたところ、大会5日目の第3試合を引き当てるなど様々な場面でその力を発揮してくれました。
― 小野選手はレギュラーではなかったとのことですが、キャプテンとしての資質は?
抜群でした。中学時代に小原沢コーチが「この子はキャプテン向きです」と推薦してくれていたので、私も最初からそのつもりで見ていました。また、練習で手を抜かない選手を選ぶため、新チームからベンチ入りメンバー20人を選手間投票で決める制度に変えました。結果、私が考えていたメンバーとほぼ一致しており、以降すべての大会でこの方法を採用しました。
― 甲子園での試合を振り返っていただけますか?
初戦の相手・滋賀学園高等学校は優勝候補でした。ビデオで見たよりも実物の選手たちは大きく、正直「勝てるイメージがわかなかった」です。しかし、部長と石戸は「大丈夫です」と言ってくれました。 試合当日は、控室で前の試合を見ながら待機場所である室内練習場からグラウンドを何度も出たり戻ったりしたことで、逆に気持ちが落ち着きました。結果は県大会と同様の流れで勝利。続く2回戦・東海大札幌戦では石戸の疲労を考慮して駒木根を先発に。途中から石戸に継投し、8回に一気に5得点して勝利。3回戦の聖光学院戦では6回に同点3ランを浴び、球場全体が相手のムードに傾く中、延長タイブレークへ。7回に送りバントを指示しなかったことを悔やんでいたため、延長では迷わずサインを出し、選手が見事に応えてくれました。1イニング8得点はタイブレーク最多の記録です。
―甲子園から戻って、何か変化はありましたか?
選手たちは普段通り練習に励んでいます。私はようやく「甲子園は楽しかった」と思えるようになりました。監督業はしんどいことの方が多いですが、こうした経験があるから続けてこられたのだと思います。
― 野球部の活動を通して、選手たちに学んでほしいことは?
「耐える力」と「仲間との絆」です。私は、卒業生や在校生が、自分の母校である浦和実業学園中学校・高等学校に誇りを持ってくれることを願っています。保護者の方々には、お子さんが通っているこの学校に愛着を持っていただきたいですし、教職員にもここで働くことに意義を感じられるようになってほしいと考えています。そのような想いを持ちながら、私は監督としての仕事を続けています。これからもその気持ちを大切にしていきたいと思います。
辻川 正彦 先生
浦和実業学園高等学校 硬式野球部監督
1965年4月19日生まれ(60歳)。大学まで野球部に所属し、卒業後に浦和実業学園高等学校へ着任。以来、保健体育科教諭として教壇に立ちながら、野球部監督を37年間務める。信念と柔軟性をあわせ持つ指導で、2025年春、念願の甲子園初出場・ベスト4進出を達成。
注意:浦和実業学園中学校には野球部はありません。また中学校から高等学校へ進学する際、浦和実業学園高等学校の硬式野球部に入部することはできません。
中学入試情報誌『MyTYPE』とは
『MyTYPE』は、首都圏模試センターが発行する中学入試情報誌で、最新の入試動向や学校情報をわかりやすく紹介しています。偏差値データや合格者分析に加え、受験生の「タイプ」に応じた学校選びの視点が特徴です。学力だけでなく個性や学び方に合った進路を考えるヒントが得られ、保護者にとっても教育方針や学校生活を知る貴重な情報源となります。受験を通じて子どもの未来を見つめるきっかけとなる一冊です。今回は、2025年7月13日発行のmy TYPE第13号に掲載しました記事をご紹介します。
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