コラム

女子ヨット 桒野明日佳選手。学校から世界へインタビュー①

「学校から世界へ」第5回のアスリートは、聖和学院高校の桒野明日佳(くわの・あすか)選手です。

咋夏、アメリカで行われた420級世界選手権大会2018に続き、今夏もポルトガルで行われた420級世界選手権大会2019に出場。ヨット420級で2019競技団体強化選手(オリンピッククラスまたはそのパスウェイクラスにおける有望選手)に指定されている桒野明日佳選手にお話を伺いました。【取材日:2019年7月27日】(取材・構成:金子裕美 写真:永田雅裕)

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桒野明日佳選手のプロフィール

2003年1月30日、神奈川県生まれ(16歳/高2)。小3から葉山ヨットクラブでヨットを始める。1人乗りのOP(オプティミスト/ヨットの入門艇)で力をつけ、中2からクラブ仲間の青山知央さんとペアを組んで420(ヨンニーマル/世界的に普及している小型のヨット・2人乗り)級に挑戦すると、幼い頃から海に親しんで来た経験とコンビネーションの良さを強みに頭角を表した。クラブで活動しているため、高体連主催の大会には出場できないが、海外レース代表選考の対象となる東日本や全日本選手権大会で実力を発揮。高1で420級世界選手権大会2018(アメリカ・ロードアイランド州ニューポート)のメンバーに選ばれ、U17クラスに出場した。今年はJOCジュニアオリンピックカップ420級で7位(女子では2位)となり、420級世界選手権大会2019(ポルトガル・ヴィラモウラ)のメンバーに選ばれて、U17クラスに出場した。この経験を活かして、来年の420級世界選手権大会でのメダル獲得が目下の目標だ。

ヨットとの出会い

ーーヨットを始めたきっかけを教えてください。

桒野さん「小3のときに姉(絵里佳さん/中央大学3年/ヨット部)がヨットをしている姿を見てやりたくなったのが始まりです。父が趣味でサーフィンをやっていて、葉山は海が結構きれいなので、姉にも海のスポーツをやらせたのだと思います。私も姉と同じ『葉山ヨットクラブ』に入りました。家からクラブまでは車で15分くらいです。中1まではOPに乗って基本的なことを学び、クラブのルールで、中2から420に乗るようになりました」

ーーヨットの練習は週末ですか。

桒野さん「大会前は土曜日と日曜日、それ以外は日曜日に1日、海に出て練習しています。シーズンは年によって違うのですが、東日本や全日本(420級選手権/海外レースの代表選考につながる大会)は冬に行われることが多いです」

ーーこれまでにヨット以外の習い事をしたことは?

桒野さん「チアやスイミング、ピアノをやっていました。小学生のときは、それに加えて週4日、塾にも通っていたのですごく忙しかったです」

ーーアクティブですね。

桒野さん「姉もそうなんですが、パワフルなほうだと思います。性格的には姉のほうがしっかり者です。私は姉の背中を追っているという感じです。姉が中学受験したので、私も当たり前のように塾に通って受験勉強しました。習い事も、姉がやっていることを私もやる、という感じでした。弟(中2)もスイミングとピアノを習っていました。ヨットもやっていましたが、サッカーのほうが楽しかったようで、今はサッカーに夢中です。
父も母もやりたいことをやらせてくれます。ただ、途中であきらめることに関しては2人とも結構厳しくて、簡単にはやめさせてくれません。『自分でやったと思えるところまでやる』というのがうちのルールです。父には『自分の人生は自分で決めなさい』とも、よく言われます」

ーーその教えはヨット以外のことにも生かされましたか。

桒野さん「はい。スイミングは苦手で成果は少なかったのですが、中途半端なところでやめたくなかったので、バタフライが泳げるようになるまで頑張りました。ピアノも結構、頑張ったので、去年、合唱コンクールで伴奏をしたいという思いも遂げることができました」

ーー高1のときですか?

桒野さん「はい。(学校行事に)クリスマス音楽会というクラス対抗の合唱コンクールがあって、讃美歌の伴奏をすることになったので、ちゃんと弾きたいと思い、一時期レッスンに通いました。1、2ヵ月、ほぼ毎日通って、家でも夜中まで練習して臨みました。私は、やりたいと思うと、ほかのことは考えずに一直線。そのことに没頭しやすい性格なんです(笑)。しっかり練習したおかげでちゃんと弾けました」

学校生活とヨット①

ーー聖和学院に入学した理由を教えてください。

桒野さん「(姉も女子校だったので)女子校に通いたかったんです。聖和学院のキャンパスを見に来たたときに、生徒の挨拶がしっかりしていて驚きました。先生方の礼儀や立ち居振る舞いも素晴らしく、私もこの学校に入学したらそういう女性になれるのかなと思い、聖和学院を受験しました」

ーー学校でも積極性を発揮していそうですね。

桒野さん「学校生活でもやりたいことがあればどんどんやってます。こういうインタビューはとっさに考えて応えなければいけないので緊張しますが、スピーチやビブリオバトルなど、事前に原稿を書いて、それを覚えて自分らしく発言するものは好きです。動くのも大好きで、体育祭に気合いを入れたいタイプ(笑)。今年は体育祭の副実行委員長に立候補しました。やりたいと思ったら、あまり先のことは考えずに、とにかく手をあげちゃいますね。(そのときに)もし忙しくなっても、乗り越えた後の達成感が大好きなので、それを味わうためにわざと忙しくしているところもあります」

ーー普段はどんな生活をしているのですか。

桒野さん「プールもチアも受験も6年生で終わって、中学校に入ってからはヨットが中心の生活になりました。実は小6の頃、ヨットが嫌いで、420には絶対進まないと決めていました。(しっかり者の)姉と比べられることが多くて、それがすごく嫌だったんです。でも、姉の頑張っている姿に刺激を受けて、とりあえずやってみようかなと思い努力したら、周りから『うまくなったね』『絶対に才能あるよ』などと褒めてもらえるようになって、私もやれるんじゃないかなと思い、続ける決心をしました。ヨット中心の生活になってピアノもやめました。土曜日も授業があるので、遠征前の1ヵ月間はかなり大変です。学校が終わったらお昼ごはんも食べずにクラブに行って、そのままヨットに乗ります。日曜日も朝から丸一日練習なので、1週間ほぼ休みがない状態が続きます。ただ、部活でやっている人は毎日練習しているので、中3あたりからこのままじゃダメだと思うようになりました。成績がついてきて、もっと上を目指すには平日も無駄にはできないと思ったんです。そこで、ペアを組んでいる青山(知央)さんとジムに入ってトレーニングをしています。体幹が強くないと、大きな波が来たときに海に放り出されてしまうので、今もそうですが、平日は学校が終わったら急いで家に帰って、支度して、また走ってジムに行きます。そこで1時間以上トレーニングして、終わったら家まで走って帰って、ご飯食べて寝るという生活です。走る距離は片道5km以上。音楽を聴きながら無心で走っています」

ーー学校を選択するときに、ヨット部のある学校に入るという選択肢はなかったのですか。

桒野さん「青山さんが1学年下なんです。私が学校のヨット部に入ったら青山さんと組めなくなるので、普通の学校に進学しました。青山さんとは違う学校なので、平日はそれぞれのペースでジムに行っています」

ーーやはり誰と組むかは重要なのですね。

桒野さん「私はまだ青山さんとしか組んでいませんが、1人乗りから2人乗りに変わったときに、誰と組むかは重要でした。1つのヨットを2人で操縦するので、息が合わないといけないですよね。選手同士で決めたり監督と話しあったりして決めるのですが、私たちは自分たちで決めました」

ーーなぜ、今のパートナーと組んだのですか。

桒野さん「彼女はOPでも強くて、全日本で上位に入っていました。また、普段から一緒に遊びにも行く仲なので、以前から『(2人乗りになったら)一緒に組みたいね』と話していたんです。お互いに自分の足りないところを持っているというか、足りないところを補い合える関係だと思います。例えば、私が焦ってるときに、青山さんが『焦らないで』とか『落ち着いて』とか言ってくれるんです。逆の場合もあります。海に出たら2人だけなので、中には船上で不満が溜まりヒートアップするペアもあります。私たちは落ち着いているほうだと思います」

ーー仲が良くても、力を合わせて戦うとなると、いろいろあるのでしょうね。

桒野さん「そうですね。私たちのような、もともと友だちみたいな関係のペアでも、2週間くらいの遠征で、四六時中、一緒にいると、お互いに気を使います。自分たちだけでなく、周りのペアを見ていても、2人で行う競技は本当に大変だなといつも思います。例えば、その日の操縦がうまくいかないと2人とも落ち込みますが、私たちは気持ちの立て直し方が違います。青山さんは落ち込むと1人になりたいタイプ。今年の世界選手権でも1人で近くの公園に行き、音楽を聴いて気持ちを落ち着かせていましたが、私は周囲の人とおしゃべりしたほうが気が晴れるので、気づくと私は集団でいて、彼女は1人でいることが多いんです。自ずとコミュニケーションがとりづらい空気になってしまうので、そこをなんとかしなければいけないと思っています。ただ、今回の世界選手権は、前回(2018年)と比べるとはるかに成長していました。前回はペアを組んで日が浅かったので、2人がかみ合っていないというか、うまくいかないことがたくさんありました。言い合いになることも多かったのですが、今回は本当のペアになれたという手応えがありました」

ーーその手応えはどんなときに感じましたか。

桒野さん「1レース終わるごとに2人で反省します。『今、悪いところあった?』などと聞き合って、次のレースに生かすようにしているのですが、去年は、失敗したときに『私のせいではない』というような意識が互いにあってバチバチしていました。最近は『今のは自分のせいだから、次からは気をつけるね』とか『このレースは私が悪かったよね』とか。悪かったところを受け入れて、素直に口に出せるようになりました。この2年間、成長の勢いがすごすぎて、自分でも驚いています。心が成長していったからヨットの能力も上がっていったのだと思います。今回の世界選手権でも、勇気を出してやめてほしいことを言ったら、『ごめん』と謝ってくれました。その後『全部うちのせいだ』と認めてくれて、ペアの仲が深まったような気がしました。心の中でもやもやしているものを言葉で伝えるのは簡単ではありません。気まずくなったらどうしようと思い悩むこともありますが、思い切って打ち明けると、いいこともあるんだなと思いました」

ーー青山さんとは、顔を合わせているときだけでなくスマホなどでもやりとりをしますか。

桒野さん「学校の友達と同じくらいします。ヨットの話だけじゃありません。全然違う話もします。自分でもいいペアだと思います」