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コラム

女子ヨット 桒野明日佳選手。学校から世界へインタビュー②

「学校から世界へ」第5回のアスリートは、聖和学院高校の桒野明日佳(くわの・あすか)選手です。

咋夏、アメリカで行われた420級世界選手権大会2018に続き、今夏もポルトガルで行われた420級世界選手権大会2019に出場。ヨット420級で2019競技団体強化選手(オリンピッククラスまたはそのパスウェイクラスにおける有望選手)に指定されている桒野明日佳選手にお話を伺いました。【取材日:2019年7月27日】(取材・構成:金子裕美 写真:永田雅裕)

学校生活とヨット②

ーー海外遠征中はどのように過ごすのですか。

桒野さん「今年の世界選手権は(日本チーム全員で)一軒家に宿泊しました。下の階に監督、2階に選手で、ペアごとに部屋が割り当てられます。そこで過ごすときもあれば、寝る前などはリビングに集まって話をしたり、ソファーでゴロゴロしたり。自由な時間もあるので外の公園で遊ぶ人もいました。24時間一緒にいるのでケンカをするとしんどいですよ。ときどき離れて過ごすことも必要だと思います」

ーー複数のペアが共同生活をしながら大会に臨むのですね。

桒野さん「そうなんです。私は料理が好きなので、遠征ではよく自炊します。近くのスーパーに買い物に行くときに他のペアの人から悩みを相談されることもあります。2人乗りにはスキッパー(舵取り役/主帆を操る)とクルー(指南役/前帆を操る)、2つの役割があって、やることがまったく違うので、同じ役割同士だからできる話もあります。あるチームのクルーと仲良くなって話したときも、私が2年前に悩んでいたことを今悩んでいて、『私にもそういう時期があったよー』みたいな感じで盛り上がりました」

ーー桒野さんはクルーですよね。役割はどう決めたのですか。

桒野さん「高校の部活でやっている人は、小さいころからヨットをやっていてOPを経験している人がスキッパーになることが多いです。クルーは高校からヨットを始めた人が多いので、ヨット競技をよく知るスキッパーがリーダーシップを取ることが多いのですが、私たちは2人とも小さい頃からやっていて、そういう意味ではフラットな関係です。私がクルーを選んだのは、スキッパーは頭がいい人じゃないとできないなと思ったからです。クルーは動ける人じゃないとできないので、どちらも経験した上でクルーに決めました。周りの人たちも、『クルーのほうが向いている』と言ってくれます。青山さんはスキッパーをやりたかったので、お互いにやりたいことができているというのも、私たちの強みだと思います」

ーークルーは艇のバランスを取ったり状況判断をしたり。頭と体を使う、かなりハードな役割なんですよね。

桒野さん「スタートするときに、片手で自分の体重を支えなければいけないので、利き腕がめちゃめちゃ太いです。波に対応する体幹も必要です。初心者は少しの波で後ろに飛ばされてしまいます。高1の世界選手権はまだ筋力がついていなかったので、艇の中で前に後ろに飛ばされて、足が水玉模様になるくらいあざだらけになりました。
スキッパーは主帆を操ることに集中しているので、クルーは、周りを見て状況(環境の変化や他の船の位置など)を報告することが大事な役割になります。スキッパーが海を見なくても、私が伝えた情報で状況を想像できるように伝えなければいけないんです。波、潮の流れ、風の強さ、方向など考えることが盛りだくさんなので、そこは難しいところだと思います」

ーー理科は好きですか。

桒野さん「理科は好きです。得意科目は数学で、定期テスト前も数学だけは熱を入れて勉強してしまいます。好きなもの・好きなことしかやる気がでない性分なんです(笑)」

ーー競技と勉強との両立はしっかりできていますか。

桒野さん「じっとしているのが苦手なので、授業では結構戦っています(苦笑)」

ーー遠征が多いから学業との両立は大変でしょう。

桒野さん「長期間休むときは友だちが助けてくれます。今年も世界選手権から帰って2日後に終業式でした。2週間、学校を休んで期末試験を受けていなかったので、登校すると友だちが2週間分のノートをコピーしたものをファイルに入れて『頑張れよ』みたいな感じで渡してくれました」

ーー海外遠征に行くと英語が上達するのでは?

桒野さん「今回の世界選手権はポルトガルだったので、英語ではなくポルトガル語でした。全然わからないのでほぼグーグル翻訳に頼っていました。アメリカの世界選手権ではドイツチームと食事に行きました。テーブルを挟んでドイツの選手と対面し、1台ずつ携帯を置いてグーグル翻訳で会話したのですが、結構うまくいきました。変なふうに訳されると会話がボロボロになるんですけどね。言葉は違っても交流はとても楽しくて、海外に行くとこういう楽しみもあるんだなと思いました」

ーー言葉が出てこなくても、伝えたいという気持ちがあれば伝わるということがわかっただけでも収穫ですよね。

桒野さん「そうですね。英語の勉強を頑張ろうという気持ちになりました!」

私の未来

ーーアスリートとしてヨットに向き合うようになったのはいつですか。

桒野さん「去年の世界選手権が決まったときです。そういう大きな大会でも活躍できるような選手になりたいと思いました。姉のほうが成績もよくて、高3の時にユースワールドという日本で1人しか出られない大会に出ています。すごいですよね。尊敬します」

ーー今の目標は?

桒野さん「目の前にある国体(9月29日~10月2日/茨城県霞ヶ浦)と全日本選手権(12月21〜23日/神奈川県葉山)で優勝して、2020年の世界選手権でメダルをとることです。今年はJOCジュニアオリンピックカップで2位でしたが、1位とは1秒差でした。5レース中、4レース勝ったのに、私たちは初日の1レースがすごく悪かったので、その差を残りの4レースで補うことができませんでした。このときに味わった悔しさは忘れません。次は絶対に優勝して世界選手権につなぎたいと思っています」

ーー卒業後の進路についてはどのように考えていますか。

桒野さん「大学でもヨットを続けたらオリンピックも夢ではないのかなと思いますが、まだ、そこまで気持ちが固まっていません。大学のヨット部に所属したらペアが変わります。夢もあって、パティシエになりたいんです。看護師にも興味があります。そういう話をすると『競技生活の後に目指せばいい』と言われるのですが、自分が学びたいことを学びたいという気持ちがあります。ヨットをやる前提で大学に進んだとしても、全く興味のない学部・学科で学び続けることができるかどうか。そこも悩みどころで、しっかり考えなければいけないと思っています」

ーー聖和学院に入ってよかったことを教えてください。

桒野さん「一番よかったのは礼儀を学べたことです。ヨット競技をする上でも役に立っています。また、少人数の学校なので、生徒同士はもちろん、先生との距離が近く、あたたかい雰囲気です。クラスメイトはみんな仲がいいですし、勉強を頑張っている人が多いので刺激を受けています。勉強でわからないことがあれば、先生にわかるまで聞くことができます。個人補習もしてもらえるので、頑張ろうという気持ちになります。」

ーー身近な人たちに恵まれていますね。

「だから遠征以外、学校は皆勤です。毎日が楽しくて、友だちと話をしたり、バレーボール、卓球などのスポーツをしたりすることが息抜きになっています」

ーー今、感じているヨットの魅力を教えてください。

桒野さん「風の強さ、波の大きさ、潮の流れによって、その日のセッティングが変わります。うまく走れたときに感じる自然との一体感がヨットの魅力だと思います。悪天候でもレースは行われるため、ときには怖い経験もします。去年のJOCでも風が強く波が荒れている中でスタートし、ブロー(強い風が吹いているところ)の中に入った瞬間、何が起きたかわからなくなりました。周りの船が全部転覆していました。私たちも反転し、大きな帆がかぶさってきて本当に怖い思いをしました。フィールドが海なので、ときにはそういうこともありますが、状況を見ながら、経験や知識を駆使してうまく走れたときは爽快です。とてもやりがいのある競技なので、自分の中でやりきったと思えるところまで、しっかり頑張りたいと思います」