受験生マイページ ログイン
コラム

中学入試は思考コード<C3>の時代(1)

~ 人間の根本問題を巡る問いが出題される ~

聖パウロ学園校長/私立学校研究家 本間勇人

これまで、いわゆる4教科の中学入試問題の難問と言えば、思考コードの<B2>及び<B3>という領域の問題で、論理的に考える骨太の問題でした。文章の要約を200字で記述するとか、戦前の社会と戦後の社会の違いや20世紀の日本の産業構造の変化を100字から200字程度で説明するというようなタイプのものでした。

ところが、2020年からの大学入試改革や新学習指導要領で知識・技能を中心とするのではなく、思考力・判断力・表現力や興味関心という探究心などを中心とする教育になり、大学入試もそれに呼応した問題に転じることによって、中学入試にも変化が起きました。

2021年の開成や麻布、雙葉、フェリス女学院などの入試問題は、与えられた素材やデータを使って「事実」を論理的に説明するだけではなく、「事実」に基づいて、自分の「発想」や「意見」を論述する問題が増えました。

思考コードで言えば、<B2>×<C3>という組み立て方をして考える問題が増えたのです。いったい<B2>×<C3>という組み立てをするような問題とはどんな問題でしょうか。それはたん的には東京大学の外国学校卒業学生特別選考(本稿では以降「帰国生入試」と表記)の小論文問題です。

そして<B2>から<C3>に飛ぶにはある重要な気づきが必要です。本エッセイでは、<B2>×<C3>の問題のイメージを共有することと<B2>から<C3>に飛ぶにはどんな気づきが必要なのかを共有したいと思います。

§1 東大の帰国生入試をきっかけに

「悪法も法」と言っていられるでしょうか?今回のパンデミックで発令された緊急事態宣言で格差は急激に広がり、生活に困窮する事態はもはや他人ごとではありません。また、重症者病棟では医療従事者が心身ともに極限状態になり、トリアージという命の選別が行われざるを得ない事態も危惧されています。

そして、テレワークやオンライン授業は、生活スタイルを変える光の側面だけではなく、都市経済も巻き込む新しい問題を生んでいるし、対面の人間関係を希薄化する心の問題も重大な事態を起こしています。

特措法に基づいて国や自治体は様々な要請を出しているわけですが、市民はそれがたとえ自分たちの生活を危機にさらしても耐え忍びながら従わざるをえないのです。しかし、果たしてそれは納得のいくことだろうか。法律が必ずしも正しいとは言えないのではないか、そのような意識が現われてきているのも事実です。

このような事態を、東京大学の文Ⅰ(法学部)は、2021年の帰国生入試問題で、「悪法も法」という格言は正しいのかどうか、まさに社会の最前線の問題を自分事のように受け入れ、打開策を考え、判断できるかどうか問うたのです。

この格言は、紀元前のギリシアの哲学で問われ、現代もなお解決がつかない人間の存在と正義をめぐる根源的な問いの1つです。

このように、入試問題の中には、社会の最前線で起こっている問題と自分がどうかかわるか、立ち臨むのかに迫る本質的で普遍的な問いが出題される場合があります。

そして、それは大学入試問題で問われるだけではないのです。中学入試問題でも出題されるのです。そのような本質的な問いが必ずといってよいほど出題される象徴的な中学入試問題は、聖学院の思考力入試問題であり、御三家の国語や社会の問題です。人間の存在や正義への深い眼差しや正しい判断力は、大学で学ぶではあまりに遅すぎます。

海外では、幼稚園から対話や議論を通して学んでいるぐらいです。特に1989年ベルリンの壁が崩壊した年に批准された子どものための権利条約は、とても大切にされています。子どもの意見表明権を保障する教育が行われています。

日本では、2022年から法律が改正され18歳で成人になりますが、まだまだ権利や法律を意識するリーガルマインドは養成されていません。おそらくその欠陥部分を鋭く見抜いて、私立学校の中高一貫教育は、そこを補っているのでしょう。

ですから、東京大学の帰国生入試で、受験生が海外のグローバルリーダーシップを学んできているわけですから、社会における人間の根本問題を自らがどうとらえどう立ち臨むのか、しっかり引き受けることができるのか問うのは、当然だったわけです。

もはやこのような問題では、思考コード<B2>の領域の論理的に情報やデータを組み合わせるスキルを活用できるのは当たり前で、今目の前で起きている社会的現象や自然現象をどうとらえ何が問題なのか把握し、その問題をいかに解決するのかという発想こそが求められるのです。つまり、<C3>の領域の思考力です。

しかし、どんなによき発想も、データや根拠に基づく<B2>の領域もできて、合格の扉は開くのです。そこは厳しいのです。

このように、<B2>×<C3>の両方を組み立てる問題とはどのようなタイプか。そして<B2>から<C3>に飛ぶには、社会における人間の根本問題を引き受ける覚悟が必要だということが共有できたと思います。(つづく)

§2 開成・麻布・雙葉・フェリス女学院の思考コード<C3>問題

§3 聖学院の思考力入試問題・和洋九段女子のPBL入試の思考コード<C3>問題

§4 中学入試及び高校入試にも広がる「適性検査型」入試にも<C3>問題

§5 2022年はすべての教科で時事問題を活用した<C3>問題が出題される可能性大