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コラム

中学入試は思考コード<C3>の時代(2)

~新しい見方に気づく発想法~

聖パウロ学園校長/私立学校研究家 本間勇人
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本エッセイは、<B2>×<C3>の問題のイメージを共有することと<B2>から<C3>に飛ぶにはどんな気づきが必要なのかを共有していくプロジェクトです。

前回は、東京大学の帰国生入試を通して、<B2>×<C3>の両方を組み立てる問題とはどのようなタイプか。そして<B2>から<C3>に飛ぶには、社会における人間の根本問題を引き受ける覚悟が必要だということを共有しました。

しかしながら、小学校の段階で、いったいどうやって社会における人間の根本問題を引き受ける覚悟をもつというのでしょうか?

子どもの成長や発達のステージを考慮すると、中学受験の段階では、将来、その「根本問題を引き受ける覚悟」につながる潜在的な可能性として、「新しい見方に気づく」とか「見方を変えることに気づく」という状態になれれば、まずは十分だと私立中高一貫校は考えていると予想できます。

というのも、入試問題は学校の顔とよく言われます。東京大学や海外の大学の入試問題をクリアできる教育を行っている中高一貫校が出題する入試問題に、「新しい見方に気づく」かどうかを診る問いが出題されているからです。

「新しい見方に気づける」(中学入試)→「中高一貫教育」(中高一貫カリキュラム)→
「根本問題を引き受ける覚悟」(大学入試)という流れがあると仮説を立てています。幾つかの中学入試問題の例を見ていきましょう。

まずは、東大や海外の大学に多数進学者を輩出している開成の問題です。

§2 開成の思考コード<C3>問題

~新しい見方に気づく発想法とは?

2021年の開成の国語の入試問題をみてみましょう。山田玲司さんの「非属の才能」という著書から課題文が引用されています。永田照喜治さんの発想の逆転ともいうべき「永田農法」を紹介するところから始まる箇所が使われています。

永田さんは、みかんを、一般の人が、まず植えようなどとは思わない過酷な土地に植え、甘いみかんの開発に成功します。また、野外での過酷な肉体労働が当たり前の農業をロボットによって行う取り組みをしていることも紹介しています。

このような目からウロコの挑戦に対し、著者は、野球で、速筋を養わなければならないのに、「遅筋」を鍛える「うさぎ跳び選手の努力」は、みんながしているからと努力しているとしかみえない。いったいどうなっているのだと問い返します。

また、チェーン店で身を粉にして働くことの意味を問い返したり、そこでは「魚が捕れない」と愚痴をこぼしているのに、また同じ「かつて大量に魚が捕れた漁場」に向かってしまう知り合いの漁師の心理状態は一体何なのかと問い返しています。

このような課題文に対して、開成は、次のような問いを出題します

問 傍線部「どうしても向かってしまいがちなのが、『かつて大量に魚が捕れた漁場』だろう」とありますが、どうして「かつて大量に魚が捕れた漁場」に向かってしまのか、30字以上、50字以内で説明しなさい。(2021年開成 国語大問二問三から)

この問いを解くのには、課題文の中にある言葉を使って書けばよいというのが中学入試の定石でしょう。たいていの場合は、傍線の前後200字以内に、まとめる箇所が書いてあります。ほとんど書き抜き同然の記述になるので、思考コードでいえば<B1>くらいなのですが、この問いは、傍線の400字前後に視野を広げる必要があります。

中学入試では、この視野の広さの違いで、難度が変わります。大学入試もそうかもしれません。かつては、1000字を超えるような視野を必要とする書き抜き問題がありましたが、それは良問とはいえないかもしれません。説明的文章では表現の隣接性を無視すると論理が見えにくくなります。物語の場合はその限りではもちろんありません。

さて、視野の広さだけではなく、この問いは、記述にアレンジする箇所が一文ではなく、2つぐらいのキーワードに分かれています。「時代の移り変わりに無自覚」と「思考停止」がそれです。もちろんほかにもそれに相当する言葉はありますが、この2つのキーワードは傍線部の前後400字以内の視野で見つけることができます。

問いに字数制限がありますから、この2つのキーワードを組み合わせて記述すればできると、受験生は思うでしょう。ところが、たとえば「思考停止の習慣が身について、時代の移り変わりに無自覚だから。」と書いたとしましょう。30字です。

無理矢理、書けば30字は超えますが、もともと30字以内で記述できる内容ですから、これだけでは不足しているのではないかとなります。「30字以上50字以内」という条件はなかなか良いヒントだったわけです。文章中の言葉を使っただけでは、もう20字分が不足しているよということを示唆しているのです。

こうして、30字分は、文章中のキーワードを使って、著者の考える文脈に沿ってまとめる、つまり論理的にまとめられるのですから、思考コードでいうB軸の問題であることは間違いありません。そして視野を広めて理解しながらまとめるのですから、複雑です。思考コードではまずは、<B2>の領域に属する問題です。

しかし、残りの20字については、まとめやすそうな箇所が課題文にはなかなかないのです。どうやら<B2>を超える思考の力が必要になります。

20字という空白部は、永田農法にもどらなければなりません。永田さんは思考停止とは対照的な行動をとっていたからです。ここをヒントに、空白の20字を推理するのです。すると、<B2>から<C3>に飛ばざるを得ないのです。20字を推理するぐらいなら、C1レベルではないかと思われるかもしれません。たしかに文章を読み慣れた大人にとっては、そうかもしれません。しかし、中学受験生の段階では、頭の中で、次のような分類表を瞬時に創る必要があります。

そうすると、4つの例は、<冒険・光景心・見方を変える>VS<思考停止・時代の変化に無自覚>の文脈で書かれていることがわかります。空白があるということが一目瞭然です。したがって、もし冒険心や好奇心、見方を変えるといった観点で、「チェーン店で働く」「うさぎ跳びの選手の努力」「かつて大量に捕れた漁場に向かう」という例について書いてみると、どう補って記述することができるのかという気づきが生まれます。

こうして、見方を変える気づきは、対照的な事象や現象の差異が生み出す空白の意味を創り出すことによって生まれます。

この空白の部分は、無とは違います。著者が書くとくどくなり、冗長になるので、省略しただけです。読者が推理して読んでください。だいたいお分かりだと思いますという感覚で著者は書いていますが、書いていないのだから、読み手は自由にイメージしたり創造したりするのです。読み手にとって自由に想像できる文章はおもしろいわけです。もっとも事実をきちんと書く、新聞記事などは、自由過ぎると問題です。事実と意見をきっちりわけるわけです。

とにもかくにも、受験本番で、このような分類表を書いている時間はありません。しかし、受験勉強をするときに、このような差異の分類表を書きながらトレーニングすると、新しい見方に気づく発想法が養われるでしょう。

そして、この発想法は、やがてクリティカルシンキングを養うことにもつながります。(つづく)