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学校特集

東京電機大学中学校・高等学校2023

「探究」の集大成として中3で卒業論文を執筆

掲載日:2023年7月1日(土)

JR中央線の東小金井駅から徒歩5分という便利な立地で、理系大学付属校としても人気を集めている東京電機大学中学校・高等学校。2021年度から始動した「探究」の授業が3年目を迎え、22年度からは中3に卒業論文の提出を課しています。探究の授業を担当している前校長・大久保靖教諭と、興味を抱いたテーマを究めて卒業論文を執筆した生徒2人に話を伺いました。

「探究」を独自教科として本格導入

 JR東小金井駅から徒歩5分という便利な場所にキャンパスを構える東京電機大学中学・高等学校。価値観の変化を敏感に捉え、生徒に教えるのではなく生徒が主体的に学ぶ姿勢を育み、生徒の個性と能力を引き出すカリキュラムを整えています。

東京電機大_探究の授業を担当する大久保靖先生
探究の授業を担当する大久保靖教諭

 異文化理解、情報教育、理科教育など多彩なカリキュラムを推進している同校ですが、2021年度から中学で独自教科「探究」を立ち上げました。

 2017年に中学の学習指導要領が改訂され、総合学習の内容が課題発見や解決などの「探究学習」になりました。改訂を受けて昨今は「探究」が注目を集めていますが、同校ではこの改訂の前から、独自の探究学習を実践しているのです。

「2020年度までは『TDU 4D-Lab』の名称で「総合的な学習」の中で探究に取り組んできましたが、2021年度からこの活動を"探究"の授業に昇華させました。週1回、中学生全員が授業として取り組み、林間学校や修学旅行など校外活動とも連動させて体験的に学ぶ工夫も行っています」と大久保靖教諭は話します。

 探究では次のような授業を行い、さまざまな角度から探究する姿勢や、それを話し合ったりまとめて表現する力を培います。

●問いの作り方
身近な実物を観察して疑問や問いをもつ(物体/画像/動画)/仮説を含んだ問いを作る/5W1Hで考える/Yes・Noでの場合分け
●グループワーク(話し合い)の進め方
問答ゲーム/交渉ゲーム/対話ゲーム/討論
●情報の収集と記録
ウェブサイトの使い方を学ぶ/図書館の使い方を学ぶ/エビデンスノートを作る/文献調査・施設見学/アンケートのとり方/インタビュー(アポイントのとり方を含む)の進め方
●情報の整理と考察
レポートの書き方/シンキングツール(ベン図・YXWチャート・バタフライチャート等)/マインドマップ/統計・データの集計方法
●表現・発表
再話/グループ内で発表しあう/事実と意見を分けて述べる/論説文パスティーシュ/卒業論文執筆(中3)

【中3は探究活動の集大成として卒論を執筆】

「探究」の授業の集大成が中3で執筆する卒業論文です。「探究」の授業導入2年目となる2022年度の中3から、各自でテーマを研究して「卒業論文」を執筆しています。22年度は中3の1学期に仮テーマを決めて調査をし、その結果を「練習シート」にまとめてミニ発表会を実施しました。
「卒論を書くためには、仮説を持った問いを立てる必要がありますが、"問い"を立てるのは非常に難しいことです。そこで1学期は仮テーマで調査・まとめ・発表を経験し、それに対して教員は授業内でアドバイスをします。そのテーマで卒論を書くこともできますが、"これでは単なる調べ学習で終わってしまう"と気づいて2学期から別のテーマに取り組む生徒もいます」(大久保教諭)。

 また、授業では論文の書き方や論理的な文章を書くポイントも教えています。論文のフォーマットに沿って章立てを決め、データなどを使って論拠を示しながら論文を執筆して2月に提出します。2022年度末に卒論を提出した中3の2人に、どのようなテーマについて探究し、論文を仕上げたのか詳しく伺いました。

テーマを丁寧に掘り下げて卒業論文を執筆

【伊豆諸島新島にカブトムシがいない謎に迫る】

東京電機大_「毎朝、通学途中の公園でアリを観察しています」(牧野さん)
「毎朝、通学途中の公園でアリを観察しています」
(牧野さん)

 生きものが好きで、特に昆虫に強い興味・関心を抱いている牧野竜也さんは、中3の1学期は「都会のカラスは本当に賢いのか」をテーマに探究を進めました。「でも、都会のカラスに関する研究は進んでいて資料も多く、新たな問いを見つけるのが難しいと分かりました。そんな中、夏休みに家族で伊豆諸島・新島に旅行してノコギリクワガタ採集をしたことがきっかけで、卒論のテーマに出会うことできました」と話します。

 新島は過去に日本列島本土とは一度も接したことがない火山島です。島が形成された時は生命体は皆無だったので、ノコギリクワガタは海を渡ってたどり着いたと考えられます。「でも、新島にはクワガタなどの甲虫類は数多く生息しているのに、カブトムシだけは生息していない。なぜだろう...とピピっと衝撃的に"問い"がひらめきました。そしてその疑問を広げていき、卒論のテーマを『新島の昆虫類は海を渡ってきたのか』に決めました」。

東京電機大_1学期は都会のカラスについて調査
1学期は都会のカラスについて調査

 テーマは決まったものの、資料や文献は少なく、インターネットで検索してもヒントは出てこない状況でした。「仮説を立ててもそれが正しい論拠となっているのか分からなくなり、何度か大久保先生に相談しました。先生からは『確かにそれでは確実な証明にならないから、別の切り口からも考えてみた方がいい』とアドバイスをいただき、どこの島から流れ着いたのか調べるため海流図や昆虫の専門誌にあたってみたのです。すると、鹿児島県のある島に新島のクワガタと似た形質のクワガタが生息していることが分かりました。そこで、"黒潮(日本海流)に乗れば昆虫が伊豆諸島に漂着することが可能だ"という仮説を立てたのです。
 さらに卵・幼虫・蛹の状態のとき、クワガタは枯れ木の中で過ごし、カブトムシは土の中で過ごすという違いにも着目しました。枯れ木に産卵されたクワガタは枯れ木の養分をとって木の中で生息し、海の上に浮かんで潮流に乗って新島に漂着できます。でも、土の中で過ごすカブトムシは卵や幼虫で海に流されたら溺れたり魚のえさになってしまうため、新島にたどり着くことは不可能だ、という結論に至りました」。

 論文の書き方は授業で習うので、フォーマットに沿って執筆します。「論文としての構成を習い、結論は必ずトピックセンテンスに入れ、サポーティングセンテンスを少なくとも2~3個入れるなど、基本的な論文の形を学んできました。その流れに沿って文章を書き、自分の意見や結論が正しく相手に伝わるように表現します。実際の提出前に一度先生に見てもらう場があるので、そこでアドバイスをもらって修正や加筆して仕上げました」。

【中央線朝ラッシュのダイヤと混雑率を実地調査】

東京電機大_鉄道研究会の副部長を務める蕨さん
鉄道研究会の副部長を務める蕨さん

 鉄道研究会の副部長を務める蕨賢作さんの卒業論文も、牧野さんと同様に最初のテーマとは違うものになりました。

「僕はいわゆる"撮り鉄"で、列車が映り込んだ写真を撮るのが趣味です。鉄道だけでなく飛行機や動物などの動態撮影も多いんです」と話します。
 卒論は趣味の鉄道をベースにしたいと思ったものの、最初は写真をテーマに定め、風景写真、人物写真、報道写真などさまざまなジャンルの写真について調べました。「でも、それだけではあっという間に調べ終わってしまい、深掘りする間もなく終わってしまいました」。
 テーマ選びで迷走した蕨さんですが、大久保教諭は「写真だけでは真の探究にはなりにくいと思いましたが、敢えて何も言いませんでした。自分で問いを見つけて探究することが何よりも大事だからです」と振り返ります。

東京電機大_1学期はさまざまな写真の分類を調査
1学期はさまざまな写真の分類を調査

「テーマを変えようと悩んだ結果、やはり自分が最も興味を持っている鉄道そのものを探究しよう、という結論に至りました。僕はJR中央線を使って通学していますが、中央線のラッシュは有名だし、実際に僕も毎朝その混雑を体験しています。鉄道ダイヤは一部の列車に混雑が集中しないように長年研究され、工夫されています。そこで研究成果が実際にどれくらい混雑緩和に生かされているのか検証してみよう、と思ったのです。鉄道会社では、筋屋というダイヤ構築のプロが、データを元にどんな列車に客が集中していて分散するにはどうすればいいのかを考えています。鉄道会社の人は駅ホームに実際に立って調査していますが、調査内容が公開されることはありません。ですから個人でその調査に挑戦してみよう、と思ったのです」。

 この研究は現地に足を運んでのフィールドワークが基本になります。蕨さんは冬休みを利用し、新宿駅に朝6時30分から8時の間に到着する中央線の乗降客について、実際に駅に立ってカウントすることにしました。採時駅(*1)と退避駅(*2)について、各駅の主要改札につながる階段に近い列車扉の乗降客数と列車の到着・発車時刻を調べてデータを記録したのです。具体的には立川、国立、国分寺、武蔵小金井、東小金井、中野、新宿の7駅です(*3)

 *1 出発時間が明確に決まっている駅 *2 通過待ちが可能な駅
 *3 採時駅のうち三鷹駅は降雪のため調査を中止

「各駅の乗降や混雑状況を調べ終わった後、その日のうちに到着時刻、降車数、乗客数、出発時刻を入力して集計していきます。データをグラフ化して混雑状況を分析した結果、"列車には混雑のばらつきが認められる。長距離需要においては通勤特快が比較的空いている状態にある。快速列車において常に車内混雑した傾向を最も見せるのが列車番号676T、694Tで、車内が常に空いているのが656Tであることがわかりました。筋屋はこうしたデータを元に、混雑する列車の間にもう1本追加したり、空いている列車を減らして混雑緩和を図ると推察され、それが卒論の結論となりました」。

【情報収集力や論理的思考力は日々の学習にも役立つ】

東京電機大_理科では自分の仮説を検証する実験も
理科では自分の仮説を検証する実験も

 牧野さんと蕨さんは、卒論執筆を通して得られた力が日々の学習にも役立っていると口を揃えます。

 牧野さんは「自分で仮説を立ててさまざまな角度から検証する力が鍛えられたし、考えたことをパラグラフのルールに則って切り分け、明確に表現する力がつきました。調べると何らかの答えが出ると分かったので、化学基礎などの授業で"この液体とこの液体とを混ぜるとこうなる"と習った時に、その理由を自分で調べるようになりました。教科書の文章や公式の裏側を知ると単なる暗記ではなくなり、テストで違う切り口で出題されてもスラスラ解けるようになりました。数学では解答以外の解き方を1個見つけることにしていて、公式を使わずに解く方法を考えています。卒論のおかげで日々の授業や勉強が楽しくなりました!」と話します。

 蕨さんは「1月の寒い中、毎朝5時半から駅ホームで調査したので、調べるのもまとめるのも大変でした。終わった時は二度とやりたくないとも思ったけれど、今振りかえると研究やフィールドワークは楽しいし、貴重な学びの体験ができました。鉄道ダイヤは常に変化しているので、今後は列車を利用する中で変化を察知してその理由を考えていきたいと思っています」と話します。

 東京電機大中学の魅力を、蕨さんは「個性的でありきたりではない趣味を持つ生徒が多くて、それに対して理解があったりお互いに面白がったりしてくれる。マニアックな趣味やこだわりがある生徒もコミュニティに入って楽しむことができるから、いろいろな友達ができます」と話します。牧野さんは「個性豊かな先生が多くてとにかく授業が面白い。脱線しているようで実は学びにつながっていることも多くて、しっかり学びたい人にもおすすめです」と笑顔で語ってくれました。

改革を続けながら時代のニーズに応えていく

「探究」の教科が始まって3年目となる今年は、中3の卒論の取り組み方を一部変更しました。「1学期は自由テーマではなく"重力に抵抗せよ""どうしたら沢山の人と出会えるか"という2つの課題を提示しました。どちらかを選び、それに沿った問いを個々で考えて探究に取り組んでいます。深い探究につながる大テーマを提供することで、自分なりの問いを立てたり情報収集したりと、探究する姿勢が育まれるからです」(大久保教諭)。
 1学期の探究の結果は、東京電機大学の大学院生にレビューを依頼し、「ここをもう少し深掘りするといい」「この部分が足りないから違う角度から調べてみて」といったフィードバックをもらう予定です。こうして自分で問いを立てて探究するやり方を経験し、体得したうえで、前年度と同様に2学期からは各自のテーマに取り組み、卒論を仕上げる予定です。

 探究活動を通して趣味やこだわりを追及して将来につながる道を見つけたり、高校での深い学びにつなげていく生徒は今後ますます増えていくでしょう。東京電機大学中学校の探究活動は時代の流れやニーズに合わせて改革を重ねながら、生徒たちのよりよい学びを力強く後押ししています。

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