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学校特集

関東学院中学校高等学校2019

多様化する社会で必要とされる力を育む「技術」教育
「ものづくり」を中心とした正解のない課題に取り組み、体験的に課題解決の手法を習得する授業を展開

掲載日:2019年7月1日(月)

「人になれ 奉仕せよ」を校訓に、キリスト教の精神に基づいた全人教育を行う関東学院。「社会のため、人のために行動することが、もっとも人間らしい生き方である」という考えを実践するために、必要な知識や技術を身につけて、経験を積み重ねながら人格を磨くことを教育の指針としています。
実践的な英語教育をはじめ、主要5教科の充実を図り、6年間でしっかりと学力を伸ばすことには定評がある同校ですが、学力以外の力を育むことにも力を入れ、実技教科でもさまざまな試みを行っています。
中でも「校訓につながる授業」を自負するのが「技術科」です。「社会に出れば年齢、性別、国籍などが異なる多様な人たちとプロジェクトを組んで目的を果たすことが求められます。そうした場面で役立つ力を身につけるために、中1から3年間、『協働』をテーマに生徒が主体的に学ぶ授業を実践しています」と語るのは技術科の寺島徹先生。
「技術」の授業では、ものづくり(木・金属・プラスチック)、エネルギー(電気)、作物の栽培、情報と制御(マルチメディアとプログラミング)などに取り組みますが、生徒が初めて体験する内容が多いため、グループワークを中心に正解のない課題と本気で向き合う授業を展開しています。リーダーシップやフォロワーシップ、さらには問題を発見・解決する力を身につける関東学院の技術教育をご紹介します。

工夫が盛りだくさん『主体的・協働的に学ぶ授業』

この日は中3の「技術」の授業を見学。前半はラディッシュの栽培記録、 後半は発電回路のはんだ付けが行われました。まずは班(4人1組)単位で栽培しているラディッシュの水替えと成長の観察。記録をとるために、各班の代表者(この日は安全係の生徒)が順番に写真撮影を行う一方、葉や茎にアブラ虫が寄生したため、駆除作業も同時進行で行われました。普段見慣れないアブラ虫に生徒たちからは「ワー」「キャー」の声が飛び交いましたが、先生が2つめの内容に入る時間を伝えると、駆除作業の合間に板書を写したり、気づいたことをノートに書き留めたりと、手際よく作業をこなす生徒たちの姿が印象的です。

関東学院_この日はラディッシュの撮影から授業がスタート!

この日はラディッシュの撮影から授業がスタート!

関東学院_工具を使って丁寧にアブラ虫を取り除きます。

ピンセットを使って丁寧にアブラ虫を取り除きます。

関東学院_寺島 徹先生
寺島 徹先生

寺島先生:技術はパソコンを使う「情報・制御」がクローズアップされがちですが、私はアナログ的な思考を養うことを大切にしています。真っさらな状態から、他の人が見てもわかるように情報をまとめる力をつけて欲しいので、ワークシートではなくクラシカルなノートを使って自由に書かせています。作業をしながらメモをとる習慣づけも、意識して行っていることの1つです。

続いて、2つめの課題である発電回路のはんだ付けが始まりました。部品などを入れておく木製の工具箱(中1の最初に自作)や、はんだごて、ニッパなどの工具が必要となるため、リーダーの技術係だけでなく、工具係や安全係の生徒が動いて、班員の作業をサポートします。

寺島先生:各自に責任を持たせるために、グループの進行や作品・ノートの管理を行う技術係、工具箱の整理(数や破損の確認)を行う工具係、はんだごてのように危険が伴うものを作業中も含めて管理する安全係、リード線やゴミの片付け、机・椅子の整理整頓に責任をもつ掃除係を設けています。最初は指示待ちの生徒が目立ちますが、中3にもなると自分の役割を理解して、先を見通して行動できるようになります。

はんだ付けの作業手順を確認する動画が始まると、自然と集中する生徒たち。はんだ付けの作業は、はんだごてと発電回路で両手がふさがってしまうため、隣の人に基板を押さえてもらうなどの協力が必要になります。ここでは互いに助け合いながら、慎重に作業を進める姿が見られました。

関東学院_金属加工では「ちり取り」を製作。
金属加工では「ちり取り」を製作。

寺島先生:この日の作業(練習・実験)はダイナモラジオの製作の一環として、発電機の部品を作りました。次週はLEDを取り付けて、水に浸して実験を行います。真水では光が暗いとか、塩水ではLEDが赤く光るなど、そうした理科とつながる学習ができるのも技術のおもしろいところです。
中2では金属板をハサミで切ってちりとりを作ります。その際に余った金属板をたたいてどこまで延びるかという「展性」の実験をします。手でちぎらせて、なぜ手でちぎれるのか。ちぎったところはなぜ硬くなるのかなど、素材の特性にも触れてノートにまとめます。

授業が終わると掃除係が中心となり、一瞬にして片付けが終了。各班の机の中央には記載したノートがきちんと置かれていました。

関東学院_それぞれの視点からノートをまとめる。
それぞれの視点からノートをまとめる。

寺島先生:社会人になった時に、整理整頓がきちんとできる人になって欲しいので、掃除も評価の対象とし、よくできた班は次の授業で発表しています。またノートでは生徒の頑張り度や気づきに応じてスタンプを押していますが、それが励みとなり「技術の授業は楽しい」と感じてくれる生徒が年々増えています。理工系に進む女子も増え、私自身も技術教員としてのやりがいを感じています。

学び合い、助け合いの機会を作りたくて『主体的・協働的に学ぶ授業』を開始

寺島先生が同校の技術の授業を受け持つようになって10年になりますが、当初から「協働」を意識した授業を行っていたわけではありません。

関東学院_互いに協力し合いながら作業を進めます。
互いに協力し合いながら作業を進めます。

寺島先生:最初は一斉授業を行っていました。しかし、学習や作業が進まない子が取り残されていくという状況を目の当たりにし、進んでいる子が教えることのできる環境を作りたいと考え、導入したのがグループワークです。生徒に配布するプリントに明記している「『協働』班で助け合い、問題を解決する力を身につけよう!」というキャッチフレーズの通り、グループでの教え合い、助け合いを目的に、問題を解決する力が身につく授業を模索し始めたのがこの時期です。以来、すべての授業を記録し、改善点を書き出して、次の授業で実践できるよう内容をブラッシュアップし続けています。例えば先ほど述べた各係も、最初はリーダー(技術係)だけでした。生徒の様子を観察する中で、1人ひとりに責任を持たせたほうがいいと考え、全員に役割を持たせることにしました。私が手を出しすぎると、貴重な学び合い、助け合いの機会が失われてしまうので、作品の確認をする時は、各班1人の作品しか見ません。他のメンバーには「私が確認した生徒の作品と比較して、問題があれば自分たちで解決しなさい」と話しています。
そうした努力の結果4、5年前からグループワークが安定してきました。
中にはやんちゃな生徒がいて、道具を雑に扱うなど目に余る行動を取ることもあります。そうした時は「外で反省会をして来なさい」と言って、班員全員を教室の外に出したこともありました。リーダーがいる。仲間がいる。そういう中で何がいけなかったのかを一緒に考えさせるためです。こうした失敗をきっかけに、授業全体が良い方向にブラッシュアップされてきたと思っています。

人の暮らしに役立つものづくり体験がかけがえのない力を育む

実は元美術教師で、自らも作品づくりに取り組み、さまざまな大会で入賞するほどの腕前をもつ寺島先生。当然ものづくりにも妥協がありません。「人の暮らしに役立つものづくり」を実践するために、木材では箸、金属ではちりとり、プラスチックでは写真立て...というように、教材も厳選して授業を設計しています。

関東学院_良質の檜は使い心地も抜群!!
良質の檜は使い心地も抜群!!

寺島先生:今の時代、ものづくりはデザイン性がなければ認められません。生徒には「店で販売した時に、誰かが手に取りたくなるようなデザイン性に富んだものを作ろう」と話しています。
例えば電気の部品以外は既存のキットを使いませんし、箸を作る木材は木曽から取り寄せています。最初は教材を購入していましたが、良質な木材ではないため、直接、吉野や木曽などの産地に問い合わせると、分けてくださる箸製造工場が見つかりました。間伐材の学習に広げるため、木曽檜を取り寄せていますが、工場からは数種類の木材を送ってくださるので、生徒にはいろいろな面から比較をさせています。今後はその素材がどのように作られて、どのようなルートで私たちの手元に届くのかも考えて行きたいと思います。

ものづくりでは、木材・プラスチック・金属を扱いますが、すべて1枚の素材を切るところから始めるのも寺島先生のこだわりです。箸は四角い木材を適当な長さに切り、カンナで削って仕上げます。

寺島先生:カンナの刃は木材の硬さにより微妙な調整が必要になるので、まずは木曽檜で作り、それが成功したら硬い素材、次は高級な素材...というようにステップアップさせています。これがモチベーションとなるようです。こうして自ら作った作品には愛着がある様で、家に持ち帰り卒業まで使ったという生徒もいます。カンナを使う理由は、日本の伝統的工具や伝統的技法をなるべく体験させたいからです。中1で作る木製工具箱には組継ぎの技法を用いています。
また、箸の先は浸し塗りという技法で色付けを行います。塗りも1つの技法に留まらず、刷毛塗りなど複数の技法を経験したり学んだりできるように工夫しています。

未来の創り手を、より多く輩出したい

関東学院の「ものづくり」は中3の前期で終了し、後半は情報と制御の学習に入ります。

関東学院_レゴロボットを使ったプログラミングにも挑戦!
レゴロボットを使ったプログラミングにも挑戦!

寺島先生:中学生の授業では初めてのパソコン操作となるため、情報科の教員協力のもと、まずは基本的なパソコン操作から取り組みます。続いてインターネットでラディッシュに関する調べ学習を行い、集めた情報と、前期に取り組んだラディッシュの栽培記録をもとにB4の用紙にまとめてレポートを作ります。スマホ世代の生徒たちにとってキーボードの操作は新鮮で、楽しく集中できる課題となっています。
制御では、昨年度よりLEDや音を制御できる多機能時計とLEGO-EV3を使ったプログラミング実習を取り入れています。
多機能時計では、班で協力して交差点の信号機を再現しました。歩行者用の信号を作る人と、自動車用の信号を作る人に分かれて、それぞれが赤を何秒間光らせる、歩行者用の青色は何秒間点滅させるなどといったプログラムを組み、事故が起きないように操作します。LEGO-EV3では、話題になった小惑星探査機はやぶさ2を課題の動機付けにし、離れた場所にある物体を回収する課題にチャレンジしました。そうした課題にも難なく取り組む生徒の姿を目の当たりにすると、改めて手作業のものづくりで体得する力の大きさを実感できます。
本校では各教科でPDCA(計画→実行→評価→改善)サイクルを体得しますが、生徒たちは円滑に、正確に、ものづくりを進めるための思考が鍛えられていますので、プログラミングに移行しても違和感なく作業を進めることができるのです。
おかげで最近は私も生徒を叱ることが少なくなりました(笑)。いろいろな価値観や考え方の生徒たちが1つの目的に向かって学び合い、助け合いながら進行できる力をつけることは、明らかに人間形成にも良い影響を与えていると思います。日本の将来を考えた時に、ものづくりが楽しい、アイデアを出せる、 デザイン的にも優れたものを作れる、チームを組んで目的を果たせる...。そういう人に育ってもらいたいと思い、本校ではこだわりを持って授業を設計しています。まだまだ発展途上ですが、近年は理工系に進学する生徒たちも増えてきました。「技術」の授業が未来の創り手を送り出すひとつの要因となっているのであれば、こんなにうれしいことはありません。

エコランで活躍する技術部員も活動の記録を力に難関大を突破

関東学院_昨年の大会に挑戦したエコカーとの記念写真です!
昨年の大会に挑戦したエコカーとの記念写真です!

関東学院の「技術部」は毎年、エコラン(自作自動車による燃料競争のエコマイレッジチャレンジ)に挑戦しています。寺島先生が技術科の教員になったばかりの頃、放課後になるとなんとなく技術室に集まってくる生徒たちがいたそうです。最初は先生のお手伝いをしてくれたお礼に、簡単なものづくりを教えていましたが、そのうち「もっと大きなものを作ってみたい」との意見が多くなり、たまたまテレビで見ていた「エコランに挑戦しよう!」と言う企画に興味を持ち、同好会が発足(2012年より部に発展)しました。
卒業生をはじめ多くの方々にバックアップしていただき、レースに出られるようになりましたが、昨年度は145チーム中35位の成績を修めました。技術系の学校が上位を占める中では大健闘と言えるでしょう。

関東学院_今年の準備も着々と進められています。
今年の準備も着々と進められています。

技術部員の進学先は理工系が多く、部活経験が勉強へのモチベーションにも反映され、東京工業大学や北海道大学などの国立大学に合格しています。また、技術部では毎日の活動記録をとり、プレゼンテーションすることも習慣づけています。その記録と日々の活動で培った力をAO 入試でアピールし、部員たちは名古屋工業大学や明治大学などの難関校に進学しています。中にはAO 入試で横浜国立大学に進学し、大学院を経て、神奈川県の技術の教員になったOBもいます。歴史はまだ浅いですが、創意工夫する楽しさが部員たちの間で継承されていることは間違いありません。

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