学校特集
聖徳学園中学・高等学校2025
掲載日:2025年10月29日(水)
日本の高校で初となる「データサイエンスコース(以下、DSコース)」を開設した聖徳学園中学・高等学校。プログラミングや統計学といった、データサイエンスをベースとしたPBL(Project Based Learning・課題解決型学習)などを通じて、探究しながら論理的思考力や表現力を育む実践的な教育を行っています。
データサイエンス部長のドゥラゴ英理花先生と同コースに在籍する高校1年生と2年生に、文理融合・探究型の学びを行う「データサイエンスコース」について伺いました。
なぜこれからの子どもたちにとって
データサイエンスが必要なのか
1927年創立の伝統校ながら、1982年より交換留学制度を取り入れ海外との交流を深めたり、2015年には一人1台のiPadを導入し創造性の高い学びを推進したりと、常に時代の先端をいき、生徒たちの未来を見据えた教育を実践している聖徳学園中学・高等学校。
2024年には、未来を切り拓く新しい価値を創造することを目的とした「データサイエンスコース」を高校で開設しました。データサイエンス部長のドゥラゴ英理花先生はこのコース開設の意義について、このように話します。
ドゥラゴ英理花先生:「これからの時代に求められているのは、自分自身で物事を考え、理解し、新しい価値を創造できる資質や能力を持った人材です。そういった力を育成するためには、自己理解とともに、社会の中で自分が何をしたいか、何ができるかを思考しながら学ぶことが重要です」
聖徳学園ではこれまでも、新たな価値を生み出す創造性の養成を重視し、探究学習を通じたさまざまな取り組みの中から、自由な発想でアウトプットすること、行動に移せる力を育成してきました。
今回DSコースを開設したことで、より生徒たちの将来を見据え、時代の要請に応える学びを確立したといえます。
ドゥラゴ先生:「教養としてのデータサイエンスを学生時代に習得することで、科学的根拠に基づいた効率的かつ合理的に意思決定をしたり、物事を考えたりできる力を身につけるカリキュラムを組んでいます」
DSコースは、「データサイエンス探究」・「グローバル探究」・「SDGs」・「グローバルシチズンシップ探究」・「STEAM」という5つの探究科目を統計的課題解決(PPDAC)サイクルを援用しながら、文理融合・教科横断型で相互に作用させていることが特徴です。
カリキュラムは3年間で探究準備期間・探究実践期間・探究展開期間を得て、探究学習を完成する仕組みを敷いています。
各探究科目には、以下のような教科が組み込まれています。
・データサイエンス探究:数学Ⅰ+情報Ⅰ+統計学
・グローバル探究:歴史総合+総合的な探究の時間
・SDGs:家庭基礎+総合的な探究の時間
・グローバルシチズンシップ探究:英語コミュニケーションⅠ+総合的な探究の時間
・STEAM:美術Ⅰ+総合的な探究の時間
これらを含めた複数の教科が柔軟性を持ちつつ展開し、さらに一部の教科では英語イマージョン(英語での授業)を取り入れた学びを深めています。
また知識習得型教育の授業も探究学習の知識習得部分に取り入れ、一般科目として実施することで日本の学習指導要領を網羅しています。
DSコースで学ぶ生徒たちのきっかけや思いとは
DSコースでは現在、高2は6名全員が女子、高1は5名(うち女子1名)が学んでいます。
保護者と塾の先生に勧められこのコースを知り、志望した高2のN.S.さん。公立中学校から同校のDSコースに進学しました。
N.Sさん:「中学までは先生に言われたことをやっていればよかったのですが、今は自分で課題を見つけ、探究することが求められます。自分のやりたい活動や自分なりの発表をできる楽しさはありますが、逆に自由すぎることに難しさも感じます。これまでレポートや論文は書いたことがなかったので大変だと感じる部分もありますが、論文を書くスキルや自分の思考を言語化する力が徐々についてきました」
高1のR.Tさんは聖徳学園中学校出身ですが、DSコースの説明会で1期生に話を聞き、「おもしろそう! かっこいい!」と感じ、同コースへ進むことを決めました。
聖徳学園高校の別コース(難関国公立・文理進学クラス)で学ぶ中学時代の友だちにどんな授業を行っているか聞かれるそうですが、「学びが多様なので、ひと言で表現することは難しいんです」と笑います。
R.Tさん:「基本的に学習方法は聖徳学園中学の頃と似ていますが、いちばん違うのは学びの深さだと感じます。中学では各教科長くても1か月程度で課題を提出していましたが、今はひとつの学期や1年ほどをかけて、じっくり取り組んでいます。好きなテーマを探究できることは楽しいですが、全てを考え通さなければならない難しさや手が抜けない大変さがあります」
ドゥラゴ先生は生徒たちに、最も興味関心のある一つの探究テーマから学びを広げ、各教科に応じた形で深めていくようにアドバイスしているそうです。
ドゥラゴ先生:「各探究教科で課題がそれぞれ出るので、生徒たちは大変だと思います。だからこそどのような課題にするかを一緒に考えて、生徒の興味や関心に基づいたテーマ選択を丹念に行い、将来の学習や研究に結びつけています」
なお、2026年度からはDSコースへの入学を希望する聖徳学園中学校の生徒たちも、内部進学の優遇措置が適用されます。
ドゥラゴ先生:「内部生対象のDSコース進学説明会を実施したところ、半数以上の方が参加されました。内部進学生は中学時代から探究の授業を実施しているので、探究学習に馴染みがあり、文理融合・探究型の教育に特にご理解が深いのかもしれません」
「STEAM&GLOBAL」をキーワードに教育を展開し、中学から映画制作などのクリエイティブな授業や異文化理解教育などにも注力している聖徳学園。DSコースにそうした学びに親しんでいる内部進学生が増えることで、探究の深度や解像度が上がることが期待されます。
R.Tさんが高校入学後に感じたことを教えてくれました。
R.Tさん:「中学3年間、同じ人たちと関わってきましたが、高校ではさらにさまざまな場所から集まってきた人たちと協働することで、自分が当然だと考えていたことより、もっと広い考え方があることがわかりました。
そして聖徳学園の先生たちは話しやすいだけでなく、生徒たちにたくさん関わってくれていたことにも改めて気づきました。他の中学から来た人たちは当初、先生に相談することにハードルを感じていたようで、僕がそれならあの先生に聞きにいけばいいよと気軽に言ったら、びっくりされたことに驚きました」
教員が教科などの壁も超えて一丸となり、生徒たちの学びを支えている距離感の近さは同校の魅力のひとつです。
教科が融合した生きた学びで、新たな価値を創造する
探究型の教科は実社会でのデータを使いながら、生徒一人ひとりが課題を見つけ、問いを立て、探究的な学びを深めているDSコース。
ドゥラゴ先生:「論文を書いたり、英語でプレゼンしたり、STEAM(Science, Technology, Engineering, Arts, Math)で具現化するなど、教科横断型で各教科が相補し合っています。教員たちも教科で分断しておらず、常にミーティングを重ねながら、各探究での学びを横断的に実施することにより、生徒が目標とするアウトプットに近づけるような授業を行っています」
N.Sさんは高1で取り組んだ、「グローバル探究」内の現代国語・文献研究の授業が特に印象深かったと話します。
N.Sさん:「『銀河鉄道の夜』と自分が選んだ『天気の子』を読み比べ、"幸福とは何か"を導き出す論文を書きました。両作品で共通していることは自己犠牲です。悩みましたが、私は個人の幸せがあってこその全体の幸せという結論に至りました。
今だったらまた異なる結論を導くかもしれませんが、哲学的なことをじっくり考える機会・経験になりました」
ドゥラゴ先生:「多角的に思考を深められる題材を選んでいます。『グローバル探究』においては、歴史総合を含んでいますので、授業では日本だけでなく海外の文献も使用します。歴史的な背景や宗教観なども含め、各地に根付く文化を知ることで知識を構築し歴史的な探究を進めるといった、網羅的な学習につなげていけたらと考えています」
N.SさんはDSコースの魅力をこう話します。
N.Sさん:「一見すると理系や情報的な学びが多いコースのように感じるかもしれません。もちろんそれらにも取り組みますが、論文を書くための国語力、学会で発表するためのプレゼンテーション力や英語力なども身につき、教科横断型で学ぶことが魅力です。正解のない課題に対して、データによる根拠を含めながら自分なりの答えを見つけることはこれからの時代にとても大事なことです。自分の考えを深め、磨き、自分自身の軸を育てられるコースだと感じています」
高3ではより発展的な形で探究に取り組みます。
ドゥラゴ先生:「高1・高2は探究の基礎・応用段階ですので、探究自体の学び方を多教科の面から教えていると捉えています。その知識やスキルをベースとして、高3で自己の研究へと発展できるよう、知識とスキルの両輪から現在は学んでいるといえます」
なおDSコースの英語演習とSTEAMの授業は、高1と高2の2学年混合で行われます。
ドゥラゴ先生:「英語演習は海外大学や国内大学進学でも有効な英語資格(IELTS)の対策を主に行っており、生徒が自分に見合ったスコアを目指して学習を進めています。STEAMも縦割りで授業を実施するため、研究に必要なことを協働的に取り組み、議論を行い、お互いが高め合っており、大学のゼミのような雰囲気です。異学年が共に学ぶことで互いに視野が開かれるような深い学びにつなげたいと考えています」
DSコースでは全カリキュラムを履修することで、総合型選抜を突破できるように設計されています。
ドゥラゴ先生:「他クラスが大学入学共通テストを目指しているように、DSコースもきちんと進学実績を出せるカリキュラムを設定しています。
総合型選抜では、どのような探究をしてきたかに加え、高校3年間でどういった活動をしてきたのかということも評価されます。各学年で2単位設定されている『ウェルビーイング』では、生徒たちは学外で自分の興味や関心に基づいた活動に取り組んでいます。例えば保育に興味がある生徒は、放課後に幼稚園でのボランティア活動を行っていたり、将来は国際機関で働くことを希望し、国際協力のために海外へ出る生徒がいたり。中にはバンドが好きで音楽活動を通じてコンテストに出る生徒や動画研究部の活動を通して映画を制作する生徒などもおり、学校では補えない課外活動を行っています」
学外や課外活動へと広がる充実の学び
今年の8月には、高2DSコースの全生徒が各自の探究を論文に仕上げて、初めて学会へ提出しました。その結果、全員が「コンピュータ利用教育学会(CIEC・シーク)」のU-18(18歳以下)部門の審査を通過。鹿児島大学で行われたこの学会にて、優秀論文賞と口頭発表賞という栄誉ある成績を収めました。
また高1の生徒たちが「データサイエンス探究」と「グローバルシチズンシップ探究」を融合させた学びとして挑戦したのが、ビジネスプランを考え、英語で紹介するコンテスト「Model Entrepreneur Competition(MEC) LEGACY Tokyo2025」です。予選を突破し、日本で3校のみという出場枠に残り、8月に一橋大学で開催された世界大会に出場しました。
チームでプランを進めていくときの醍醐味はどんなところにあったのでしょう。
R.Tさん:「ビジネスプランを作ること自体が初めての経験だったので、何が正しいのか、何をすべきかに戸惑いましたが、先生などいろいろな人たちが助けてくれました。
クラスのメンバーのバックグラウンドもさまざまで、それぞれの考え方があるので、自分が思いつかなかったアイデアが出てきたり、一見関係なさそうなところから言葉が飛んできたりすることが楽しく、多くの刺激を受けました。僕らは日常生活の中からアイデアを出し合い、先生方が校内のどこにいらっしゃるのか、端末で居場所がわかるアプリを作ることにしました。在校生や先生にアンケートを実施して実際の声を聞き、どんな機能をもたせるか、改善点などを話し合って固めました」
ドゥラゴ先生:「生徒たちは平日の放課後に集まるだけでなく、夜や週末もオンライン上でも打ち合わせるなど、熱心に取り組んでいました。
協働的に物事を進める方法やチームでの自分の役割を考えることからプレゼンの方法まで、実際のアントレプレナー(起業・経営)のあり方を実践的に学ぶことができたと思います」
最後に、R.TさんにDSコースに興味がある方へのメッセージをいただきました。
R.Tさん:「自分で何かを目指したい人や自分自分で考えて結論を出せる人はもちろんですが、そのような自分になりたいという人には、本当に楽しいコースだと思います」
自分自身と向き合い、視野を広げながらデータに基づいた緻密さを伴って思考すること、前向きに挑戦していく若者を育成する聖徳学園の学び。これからの世界に出ていく子どもたちに必要な生きる術が詰まっています。


