学校特集
聖徳学園中学・高等学校2024
掲載日:2024年8月7日(水)
2027年に創立100周年を迎える聖徳学園。オリジナリティあふれるグローバル教育に取り組んでいる同校は、1984年から交換留学制度を実施している国際教育先進校です。グローバル教育とSTEAM教育を両輪とした教育を展開しており、今年度からは高校で「データ・サイエンスコース」を設置。生徒の希望や時代に即した教育実践を行っています。
グローバル教育部長のネイサン・ソマーズ先生に同校のグローバル教育を、そして実際に海外研修を経験した高3の在校生に、参加した理由や自身にもたらした変化などについて伺いました。
体験を通じて身体で学ぶ
聖徳学園のグローバル教育
――聖徳学園ではそもそも「グローバル教育」というものをどのように捉えているのでしょうか。
ネイサン・ソマーズ先生「本校が大事にしている教育方針に『個性』『創造性』『国際性』があります。これらをステップバイステップで、着実に身につけることを大切にしています。
中1の民泊体験では、ファームステイをさせていただき、田植えなどを経験し、日本国内での異文化に触れていきます。
中2の関西研修は、日本の文化や伝統、歴史を学びつつ、民泊を通じてコミュニケーション能力を養っています。
まずは日本を知ることで、中3以降で本格的に始まる海外研修で日本について伝達できるようにするためです」
――中1の民泊に加えて、中2と中3、高2の研修旅行は必修ですね。
ソマーズ先生「はい。中3以降、研修以外のプログラムは選択制となりますが、国内に目が向いている生徒にも対応できるようにしています。国内コースでも、留学生と交流する機会を設けるなど、グローバルを感じられる観点を組み込んでいます。そうしたなかで、例えば中1のファームステイもそうですが、北海道や沖縄も、生徒たちの生活圏である東京とは大きく文化が異なります。ですから必ずしも海外に行かなくても、多様性を体感できる研修としています」
――それら研修旅行に至る前の学習はどうしているのでしょうか?
ソマーズ先生「本校には現在、イギリス、フィリピン、ニュージーランド、ガーナ出身の6名の外国人教員がいます。英語やその他の言語の授業などでは、ALTを含む教員が必ず入ります。こうした先生方と普段の学校生活の中で日常的に触れ合う機会が豊富です。教員の国籍は偶然でしたが、ひと言に英語と言っても多様さがあることがわかってもらえると思います。研修では英語を母語としないフィリピンやルワンダでも英語を使って世界を経験します」
――生徒が運営・企画し、中1から高3の幅広いメンバーが取り組む『国際交流ボランティア』などの活動もありますね。
ソマーズ先生「『国際交流ボランティア』は、お招きした外国人との交流パーティーや外部イベントでのワークショップ、途上国への寄付活動などを行っています。M・Sさんも入っているよね」
M・Sさん「はい、中3の時に先輩に誘われて入っています。自分たちで企画を考えられるので、ロシア・ウクライナ戦争が始まってすぐ、ウクライナへの募金を学校で行いました」
ソマーズ先生「『国際交流ボランティア』の活動は、現地だけでなく日本国内でも行います。まずは一歩踏み出して外に向けてアクションするという経験自体が、グローバルであると僕は思っています。これらを通じて、生徒自身が自分というものを探ることができる場面を作っていけたらいいですね」
――生徒が一歩踏み出すことで、自分の殻を破っていくというようにも聞こえます。
ソマーズ先生「もちろんそうした意味合いもあります。それぞれの生徒が考えて行動して、自分の経験を踏まえて成長へと繋げ、グローバル人材に進化していくという意識を持っています。これは英語だけではなく、他の教科にも共通しています」
――グローバル人材というのはどんな人のことを指すのでしょうか?
ソマーズ先生「グローバル教育の根底は、自分と異なる価値観や考え方を認めることだと思っています。
異文化で苦しんだり苦労したりした体験が大きいほど、認めることへの理解が深まります。10代や20代前半のできるだけ早い段階で、そうしたカルチャーショックを経験することが大事だと考えています。そこで何を感じるかは生徒それぞれですが、そのためのフィールドをできるだけたくさん用意し続けてあげたいのです。
自分が苦労して乗り越えた経験があると、他者に対しても寛容になれます。自分と違う価値観や考え方に出合った時でも、まずは受け入れることができますし、受け入れられれば議論することが可能です。これらはグローバルを経験した人の強みだと思いますし、そういう世界はある意味平和と言えるのではないでしょうか」
初めての海外、豊富な研修旅行から学んだこととは
――M・Sさんご自身の海外研修経験について教えていただけますか。
M・Sさん「高1の時、12月にヨーロッパのマルタと3月にアメリカのユタ州でのホームステイ、高2で台湾とルワンダに行きました」
――それぞれ文化も歴史的背景もまるで異なりますね。行こうと思ったきっかけを教えてください。
M・Sさん「それまで海外に行ったことはなかったのですが、コロナ禍もありずっと家にこもっていて、もっと広い世界を見てみたいという気持ちがありました。そのタイミングでマルタ研修の希望者を募集していることを知り、両親に許可を得て行かせてもらいました。
英語の勉強をしながら、マルタ観光をして街並みも素晴らしく、とても楽しかったです」
ソマーズ先生「高2でのマルタなどの研修旅行は2023年度から必修になっています。M・Sさんが参加したその前年はコロナ禍から海外研修が希望者制で再開した頃です」
――マルタの研修前にはどんな事前学習をしましたか?
M・Sさん「マルタの高校生と交流するプログラムがあったので、グループに分かれて日本の文化を発表する準備をしました。けん玉やお手玉などを用意して、現地でみんなで遊ぶというプロジェクトです。
私自身、英語がそれほど話せるわけではなかったので、正直なところ意思の疎通があまりうまくいかず、もっと英語を喋れたらと感じました。ヨーロッパの文化や歴史もしっかり勉強したいと思いました」
――帰国後、自分の行動が何か変わったということはありましたか?
M・Sさん「私は元々、特に夢もなかったんです。なりたいものがないのに、ただ勉強するということが納得いかなくて、あまり勉強をしていませんでした。特に英語は、日本にいる限り使わないから必要がないと思っていて。でも海外に行ってみて、英語は共通語でありコミュニケーションを取るためのツールであることを改めて実感し、興味をもちましたし、もっと勉強したいと感じました」
――マルタでコミュニケーションがうまく取れなかったというもどかしい思いを持ったまま、ユタに行かれたような感じでしょうか。
M・Sさん「そうですね、文法にも自信がないし、伝わるか少し緊張していました。でも実際にユタに行ってみたら、ホストファミリーや行動を共にするバディが優しく何回も聞き直してくれたのです。一度で伝わらなかったら自分なりに言い方を変えてみたり、伝えたい気持ちを表したりしていたら、意外と通じるものだとわかりました」
ソマーズ先生「コロナ禍を挟んで、ユタでの研修を実施していますが、毎回何人かの生徒に劇的な変化が起こります。最も大きく変わるのは、英語力に長けていない生徒たち。英語学習へのモチベーションが非常に上がって『英検準1級を取ります』と宣言し、有言実行した生徒。ユタ州の大学に進学した卒業生や今年度は『ユタに絶対に戻る』と言って、1年間の留学を決めた生徒もいます」
――ユタのどんなところが生徒たちをそんなに惹きつけるのでしょうか?
ソマーズ先生「ユタ州はモルモン教徒が多いのですが、人々がとても親切なのです。教義的に飲酒や喫煙をしないことも高校生や初めてのホームステイ体験者にとって、いい場所なのだと思います。生徒にとってはずっと英語を使わないといけない環境なのでなかなかハードです。しかし、優しい方たちと交流を重ねて信頼関係を深めていくと、自分の拙い英語でも伝わるのだという喜びがあるようです」
――ユタの方たちが優しいから、安心して一歩踏み出してみようかなと思うのですね。
ソマーズ先生「そうですね。自分の英語で通じたという自信が持てますが、もっと仲良くなろうとするためには自分の語学力では足りないという、その両方が経験できることがとても大事で、そこが肝だと思っています。
その両方を知るために18日間はちょうどいい長さ。これが1週間程度だったら、それを感じたり、何よりも関係性を深める前に終わって帰ってくることになると思うのです。
アメリカでの生活にだんだん慣れてきて、少しずつ英語が伝わるようになり楽しくなってきて、もうちょっといたいなと思った頃に帰るんです」
M・Sさん「ホストファミリーやバディと仲良くなった時に、もう帰るの⁉︎という感じでした。もっと一緒にいたかったし、もっと英語でコミュニケーションを取りたかった、と思いました」
――M・Sさんはさらに台湾とルワンダという国を体験されています。
M・Sさん「はい、いろいろな国の文化を見て、まったく違うからおもしろいと感じました。たくさんの方と交流して関わりたいので、さまざまな国に行ってみたいと思いました。台湾は5日間と短かったのですが、家庭料理についてあらかじめインターネットで調べていた情報と現地での経験がかけ離れていて、ネットで書いてあることと、実際に見ることは違うのだなと驚きました」
ソマーズ先生「実際に行かないとわからないことって、たくさんあるよね」
M・Sさん「自分自身で実際に見て触れて、いろいろと感じたり、考えたりすることが大切だと思いました。アフリカは開発途上で貧しいというイメージをもっていましたが、ルワンダの人たちは本当にみんなすごくフレンドリーで、日本人よりイキイキと生活しているように見えました。単に経済やテクノロジーの発展という側面だけで判断するのではなく、幸せにも多彩さがあるのではと考えました」
――行き先も含めて、これだけ多様にしている狙いはどこにあるのでしょうか?
ソマーズ先生「今はどの学校でもグローバル教育に熱心です。そうしたなかで、本校のグローバル教育の特徴は『海外の諸問題について、自分に何ができるかを考えて行動する』ことに主眼を置いています。今、どんな深刻な問題があり、それに対して日本に居ながらにしてどのように能動的にアプローチできるのかを総合学習の授業などを通じて考えていきます。真剣に取り組むに従って、実際に現地を見てみたい、肌で知りたいと思った時のために必修や希望制の海外研修を設けています。自分から湧いてくる感情をもって、いかに現地に行きたいと思うかで成果がまるで違ってきます」
――M・Sさんが話された通り、目的なく学ぶことは大変ですものね。
ソマーズ先生「生徒たちにいちばん伝えたいのは、海外のハードルは高くないということです。行くと英語を勉強したくなるし、英語が話せると楽しさが何倍にも大きくなるというポジティブなサイクルが生まれていくことを目指しています。
あわせて英語力だけではなく、どんな場面でも、自分を出して他の人とコミュニケーションを取れること、経験を積むことも大事にしています」
――M・Sさんは自分自身の目で海外を見てきて、自分には何ができるのかということをどのように考えられましたか?
M・Sさん「私は命について関心があり、医療に関わる仕事がしたいという思いが漠然とありました。子どもが好きなので、NICU(新生児集中治療室)に入る子どもたちを助けたい、医師になりたいと、高1の頃から医学部への進学を考え始めるようになりました。でも日本の医学部は早い時期からずっと勉強を頑張ってきた人しか入れない傾向があります。
先生に相談したところ『ハンガリー医科大学事務局』という、医師を目指す日本人を支援する組織を教えていただきました。利用していた卒業生とも直接話す機会にも恵まれました」
――海外大学進学のノウハウはあるのでしょうか?
ソマーズ先生「今春の卒業生では6名が海外大学に合格し、3人が進学しました。1人はUPAAという海外協定大学推薦制度を使って9月から進学予定です。ヨーロッパなど英語圏以外でも日本の学生を歓迎していることもわかってきて、そういうご縁のおかげで、海外大学の推薦枠や機会が増えています。M・Sさんも参加している『海外大学進学セミナー』を高1から開き、IELTS(アイエルツ。海外留学時の英語力証明テスト)の学びをはじめとした海外大受験のためのサポートを行っています」
海外へのコンタクトの豊富さや教育内容を横断的かつ有機的に結びつけている聖徳学園。M・Sさんは「聖徳に入ってよかったと思っています。やりたいことを探せる機会がたくさんありましたし、見つけられました。そのための準備も丁寧に行い、一人ひとりに寄り添ってくれる学校です」と話します。
聖徳学園のグローバル教育から見えてくる同校の姿。ぜひ一度学校へ足を運び、伸びやかな校風と生徒たちのチャーミングさを実感してみてください。