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学校特集

麹町学園女子中学校・高等学校2024

データサイエンスの時代を生き抜く「探究力」を育む
新たに編成した「サイエンス探究クラス」と、新たな「みらい科」の試み

掲載日:2024年9月1日(日)

「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性の育成」を教育ビジョンに掲げる麹町学園女子。「みらい科」「アクティブイングリッシュ」「思考型授業」「グローバルプログラム」、そしてみらいを科学する心を育てる「アクティブサイエンス」の5つを教育の柱とする同校ですが、今年、中2に「サイエンス探究クラス」を編成し、キャリア教育「みらい科」を探究活動にシフトするなど、次代に対応する新たな取り組みを始めました。この改革は、地質学者でもあった創立者・大築佛郎の「科学の目を開くことをはじめ、広い知識や教養を身につけた女性を育てる」という意思に合致するものでもあります。新たな取り組みについて、理科教員でもある校長の堀口千秋先生と、「みらい科」特別顧問の難波俊樹先生にお話を伺いました。

探究的アプローチで取り組む「サイエンス探究クラス」

■新たにスタートした「サイエンス探究クラス」1期生は35人

 2024年度4月からスタートした「サイエンス探究クラス」は、中1の「アクティブサイエンス」の授業を通して理科への興味・関心を高めた生徒の学びを後押しするために、中学2年次から編成するクラスです。中1は「グローバルコース(英語選抜コース)」と「スタンダードコース(みらい探究コース)」の2コース制、中2・中3で「サイエンス探究クラス」が加わります。
「サイエンス探究クラス」のカリキュラムは、基本的に他の2コースと同じ。理系特進クラスというわけではありません。「理科好きな」生徒たちが実験と考察を繰り返して、探究的かつ創造的な学びを深め、高校進級時に理系にも文系にも進めるように選択肢を増やすことが狙いです。

麹町学園女子_「おもしろい!」「なぜ?」から探究的な学びは始まる
「おもしろい!」「なぜ?」から探究的な学びは始まる

 まず、「サイエンス探究クラス」誕生の背景となった、「アクティブサイエンス」についてご説明しましょう。
 この取り組みは2021年にスタート。そして2023年、校長に着任した理科教員でもある堀口校長は、自ら中1の授業を行うなど「理科好きを育てる」試みを加速させてきました。
 同校には生物・地学・物理と分野によって使い分けられる3つの理科室があり、1人1台の顕微鏡など、恵まれた施設環境が整っています。

「アクティブサイエンス」に取り組む中学の理科は週4時間。実際に手や体を動かしながら思考を深める「実験」授業を連続2時間、残り2時間を座学中心で知識を学ぶ時間としています。そして、生徒が「もっと知りたい!」「この先を考えたい」と主体的に取り組む姿勢を身につけさせ、「論理的思考力・批判的思考力」を養うことを目的としています。

■「アクティブサイエンス」のアプローチ

「アクティブサイエンス」は、以下のような手法でさまざまなコンピテンシー(資質・能力)を養い、総合的な効果を高めていきます。
① 実験・観察を繰り返す→プロセスを考える能力=「論理的思考力・批判的思考力」を養う
② 生徒の活動中心の授業を展開→問題解決に向けて「主体的に取り組む力」「自主的に思考する力」を身につける
③ グループ学習を行い、生徒間で積極的に話し合う→「言語能力」「コミュニケーション能力」を育成する
④ 身近な素材や教材を扱う→理科に対する苦手意識をなくし、学習意欲を高める


■「サイエンス探究クラス」の最初の授業は、4時間の顕微鏡実験

 上記のような3年間の「アクティブサイエンス」の取り組みを経て、2024年度4月から「サイエンス探究クラス」がスタートしました。
 昨秋、新クラスの設置にあたり中1に事前アンケートで希望を募った結果、「サイエンス探究クラス」1期生35人が集まりました。「想定していた人数より多かったです」と、堀口校長。「それだけ『アクティブサインエス』の取り組みがおもしろいと感じてくれたのだと思います」
 現在、「サイエンス探究クラス」では、堀口校長自ら週4時間の理科の授業を受け持っています。

麹町学園女子_校長の堀口千秋先生
校長の堀口千秋先生

堀口校長:中2の最初の授業では、顕微鏡の実験だけで2コマ4時間を使いました。すると、ほぼクラス全員が400倍までピントを合わせられるようになりました。実は顕微鏡のピント合わせは案外難しいのですが、なかには600倍まで合わせられるようになった生徒もいます。これができるようになると、さまざまな観察もできるようになります。

 大切なのは、「何をやるか」ではなく、「どうやるか」。実験に必要なノウハウをきちんと身につけた生徒が、主体的にテーマを深掘りできるようになるのです。
 授業で、植物の葉裏にある葉緑体や気孔を観察する実験、唾液に含まれる消化酵素アミラーゼのヨウ素でんぷん反応の実験などの課題を与えると、生徒たちはまず実験方法を調べるところから始めます。そして、iPadに外付けレンズを装着して拡大した観察データをロイロノートにアップしていきます。堀口校長のPC上に設定された「提出箱」には、35人分の観察データがアップされていました。
 より正確な観察データを得るために、生徒たちは光を加えたり温度を変えてみたり、自ら実験方法を工夫するようになりました。先生が指示したわけではないのに、実験プロセスを図式化して提出したグループもいて、堀口校長も生徒たちの創意工夫に驚かされたそうです。

堀口校長:植物の気孔やアミラーゼのでんぷん反応などは教科書に写真も載っていますし、試験にもよく出されますが、教科書で写真を見て覚えたのと自分で見つけ出したものでは、記憶の定着がまったく違います。最初から教員がやり方を手解きするのではなく、自分で頑張って10分でも15分でもトライすることが大事です。うまくいかなくて苦しんでいる時に教えてあげると、頭にスッと入りますから。そうしないと、いつまでたっても自分で解けるようにはなりません。そうしたアプローチは理科に限らず、どの教科にも共通していえることだと思います。

「サイエンス探究クラス」では、自身の手や体を動かしつつ思考を深める「アクティブサイエンス」で培った力をもとに、さらに自ら問いを立てて掘り下げる「探究力」に磨きをかけていくのです。

■文系でもない理系でもない、理科の学びの楽しさ

 堀口校長は、成功も失敗も含めた「実験・観察」のプロセスを大切にする一方で、理科の分野を超えた「余計な話」もたくさんするそうです。
 例えば、今年新1万円札のデザインが渋沢栄一の肖像に変わったという話題を導入に、渋沢の生家が藍を栽培し、染料となる藍玉を製造していたことから、藍染に由来する諺『青は藍より出でて藍より青し』にまで話を展開していきます。そんなふうに、理科の分野を超えたさまざまな話題を盛り込むことで、理科の学びが身近な生活や社会につながり、広がりを持っていることに気づいてほしいと考えているのです。

麹町学園女子_座学の授業でも、活発なコミュニケーションが繰り広げられる
座学の授業でも、活発なコミュニケーションが繰り広げられる

堀口校長:「サイエンス探究クラス」では、理科の学びの楽しさを伝えたい。授業の中で生徒たちが発見や気づきを得て、自分のやりたいこと、なりたいものを見つけるきっかけになってくれれば良いと思っています。興味が深まって学び進めれば、後々、科学的なデータを解析し、外国の論文を読まなければいけなくなるかもしれません。そのためには、数学も英語もできなければなりません。もはやデータサイエンスの時代です。進路が文系であろうと理系であろうと、ビッグデータを扱ったりDX化に対応しなくてはいけない場面が増えることでしょう。そうした社会の需要に応えられるだけの、基礎学力を持った生徒を育てたいというのが私の願いです。

 とある会合で、堀口校長は高校での教え子に遭遇しました。英語が得意だった教え子に、「今、何をしているの?」と尋ねると、「筑波大学で生物を教えています」という答えが返ってきました。「高校で堀口先生に生物を習ったことで、生物のおもしろさにハマってしまいました。今があるのは、先生のおかげです」と。その話を聞いた校長は、まさに「藍より青くなった」と感動したそうです。
 理科好きな生徒たちが集まる「サイエンス探究クラス」では、生徒たちの興味・関心をさらに引き出し、そして未来に羽ばたくためのコンピテンシー(資質・能力)を増幅させています。

「みらい科」探究活動のキーワードは「Beyond AI」

■時代に即して改定された「みらい科」の探究授業

 同校オリジナルのキャリア教育「みらい科」の授業も、今年度から「探究」を主軸にした活動を展開しています。これまでの「みらい科」は、自己肯定感を高め、物事にたくましく、しなやかに対応できるようになるための「生き方教育」であり、「自分の在り方・生き方」の基盤を作る活動と位置づけていました。それを、もう一歩踏み込む形にしたのです。

 加速度的に技術革新が進む現代においては、目まぐるしく変わっていく時代の変遷に柔軟に対応していけるコンピテンシー(資質・能力)が求められます。そうした時代の要請に応えるため、今年度から「みらい科」は、中1・中2、中3・高1の2学年で1セットとし、学年縦割りで4〜5人のグループを編成。そして、それぞれ前期・後期に分かれ、以下のような8つのプログラムの中から、各期に1つずつ(4年間で4つ)自分が興味あるプログラムを選び、活動しています。

■探究活動プログラム(今年度例)

【SDGs】社会課題の解決(食品ロス問題)/環境化学(大気汚染)
【地方創生】「地域創生★制作アイデアコンテスト」(内閣府主催)への参加
【食と科学】おいしさの定量化/保存食品をつくろう
【地域と歴史】江戸時代の麹町を考える/平和学習
【国際交流】リモートで海外の高校生と協働する探究活動
【地域企業連携】麹町近辺にある企業とのコラボレーション探究
【STEAM】ロボットを活用したプログラミング/社会課題の解決
【ビジネスプラン】「高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)への参加 など


 各期の最後に、探究成果をプレゼンや論文、映像作品などそれぞれが得意な形でアウトプットするまでが、一連の活動の流れです。また、中1〜高1はグループ活動が中心ですが、高2ではそれまでに得た自身の4つの体験を俯瞰しながら、最終的に選んだテーマを一人で掘り下げていくゼミ形式の活動となります。

■「みらい科」の授業は、体育館で合同で実施

 今年度からみらい科特別顧問に就任した難波先生に授業内容をお聞きすると、中3・高1の生徒たちが体育館に集合している写真を見せてくださいました。今年度の前期の授業は、基本的に体育館で行っていました。その理由を、難波先生は次のように語ります。

麹町学園女子_「みらい科」特別顧問の難波俊樹先生
「みらい科」特別顧問の難波俊樹先生

難波先生:まず、普段の授業とは違ったイメージを持って取り組んでもらいたかったからです。教室で教員と生徒が対面する授業形式では、どうしても正しい答えを求めようとする気持ちが強くなります。でも、「みらい科」の探究活動に正解はなく、幾通りもの答えがあるので、普段とは違う気持ちで臨んでほしいと考えました。頭の使い方が通常とは違う異空間が必要だったのです。環境が変わると、発想も新鮮になりますから。

 中3・高1の2学年約200人の生徒が計64グループに分かれ、授業は難波先生を含む3人のコアメンバーの先生方が担当しています。基本的には週1回(通年22時間)の授業ですが、その枠にはこだわらず、2週に1回、時には2時間連続で行うなど、フレキシブルな体制をとっています。
 前期授業の前半は、中学生や高校でも扱えそうな統計データやマンダラチャートなど、分析ツールの見方や使い方に時間を割きました。

麹町学園女子_体育館での「合同授業」の様子
体育館での「合同授業」の様子

難波先生:特に、解析データの扱い方や資料の探し方など、思考の基礎となる学びに時間をかけています。そうすれば、どのようなプログラム、テーマを選んでも生徒自身が細かく肉付けすることができるようになるはずです。プランを実行できる力を身につけるまでが、重要な準備段階と考えています。

 例えば、「地域創生★制作アイデアコンテスト」に取り組む生徒たちには、同コンテストで入賞した過去の事例を分析させました。どのような課題や問題点に着目したのか、どのような解決策を提案しているのかなど学びながら、生徒たちはプランニングの骨格となる具体的な活動をイメージさせていくのです。

難波先生:ちょっと実現するのは無理かもしれないと思えるようなアイデアでも、よほど荒唐無稽なものでない限り、そのまま通します。途中で行き詰まったり、挫けそうになることも含めて経験ですし、生徒が「行き詰まっています」と言えるようになることが進歩ですから。正解のない、マニュアルがない中で、とにかく生徒自身が行動することを大切にしています。

■「Beyond AI」をキーワードに自己効力感を高める

麹町学園女子_高い成果を挙げる「アクティブイングリッシュ」も、同校の強みの一つ
高い成果を挙げる「アクティブイングリッシュ」も、同校の強みの一つ

 データ分析は、日進月歩で発達する情報化社会を生き抜くために必須の能力ですが、「みらい科」の探究活動で最も重要なことは、生徒たちが「おもしろい!」と感じること、好奇心を持つことです。「小学生の延長のような、既成観念にとらわれない無邪気な発想こそが大事です」と、難波先生。
 今後は、ChatGPTなどの生成AIを取り入れた活動も視野に入れていますが、同時に、フィールドワークなど体験型の取り組みを増やしていく予定です。

難波先生:結局、AIと人間の競争はどこまで行ってもイタチごっこですから、むしろ体感することで初めてわかる発想や発見を大事にしたい。結局、人間がAIに勝てるものは生身で感じる感動や気づきですから、「Beyond AI」をキーワードに取り組んでいこうと考えています。

麹町学園女子_英語・国際理解教育「グローバルプログラム」も生徒に人気
英語・国際理解教育「グローバルプログラム」も生徒に人気

 そして、「『みらい科』の学びによって『自分ならできる』と思える自己効力感を持ってほしいと考えています」と難波先生は言います。
 自己効力感とは、目標を達成するための能力を自ら持っていると認識すること。

難波先生:自己肯定感に加えて、生徒たちには「自分の力を信じる」気持ちや「やればできる!」という気持ちを強く持ってほしいのです。そして、好奇心を持ってトライできるようになってほしい。思考力と実行力の育成を目指す「みらい科」の探究的な試みは、そのための基盤作りになると思っています。

■地域企業とコラボでお煎餅づくりも

 探究活動を主軸とした「みらい科」の大改革は始まったばかり。生徒たちの「なぜ?」「どうして?」という好奇心を刺激しながら、教科の学びに閉じこもることなく、実社会と接点を持った活動をしていくことで、日々の勉強が自分たちの実生活と繋がっていることに気づかせていきます。そして、学びを本気で楽しみながら、生涯を貫く「学びに向かう力」「生きていく力」を身につけさせることが「みらい科」の目的です。

難波先生:例えば、数学の連立方程式が実社会でどれぐらい役立つのかと、疑問に思うかもしれません。でも、文化祭でカレーの屋台を出そうとした時、材料費にいくらかかるのか、何人分を作るのかと計算しなければなりません。そこでは自然に、生徒たちは「生きた連立方程式」を使って考えているはずです。そのように、身近な事例を引き寄せて考えられるようになれば、「ちょっと面倒だけれど、数学の勉強もおもしろいかも」と思えるのではないでしょうか。

麹町学園女子_体育祭をはじめ、各行事は生徒主体で運営される
体育祭をはじめ、各行事は生徒主体で運営される

 後期には、さまざまな体験授業やフィールドワークが予定されています。また、山形県の老舗銘菓店とコラボして、生徒たちが新しい「お煎餅の味」を提案するプランも進行中です。

難波先生:お煎餅の味の提案をする前に、現地の状況を調べたり採算ベースを考えたりしなければなりません。包装ラベルも作るので法律の学びも必要ですし、ほかにどのような情報が必要なのかといった具合に、お煎餅一つ、さまざまな学びの要素が入っているプログラムにしていきます。

 純粋に「おもしろい! でも、なぜだろう?」を喚起する「アクティブサイエンス」。「どうすれば、私たちの社会はもっと良くになるのだろう?」と身近な課題にトライする「みらい科」。どちらも、基本的な知識を得た後は、心をフルに動かす学びになります。心を動かして考え、行動を起こし、思いを形にする。同校では、まさに生徒たちの未来の姿に直結する学びが展開されています。

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