学校特集
麴町学園女子中学校高等学校2025
掲載日:2025年11月1日(土)
今年、創立120周年を迎えた同校。教育目標に「聡明・端正」を掲げ、1905(明治35)年創立以来の伝統的な女子教育を継続しながら、「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性」の育成に取り組んできました。「みらい科(探究学習)」「Active English」「Active Science」の3つを柱に、同校オリジナルのさまざまな教育プログラムを展開しています。2025年4月に新校長に就任した大久保靖先生は、そうした過去の取り組みを継承しながら、「これからの社会を見据えた」新たな教育改革に着手し始めました。その一つは、2026年度から中学のコース制を廃止することです。そこに至った大久保校長の決断や今後の展望について、お話を伺いました。
幅広い人間関係の中で協働し、教育効果を全体化する新基軸とは?
地質学者の大築佛郎は「科学の目を開くことをはじめ、広い知識や教養を身につける新時代の良妻賢母を育成する」との決意から前身の麴町学園女子に受け継がれています。創立から120年。「豊かな人生を自らデザインできる自立した女性を育てる」教育ビジョンのもと、同校は「みらい科(探究学習)」「Active English」「Active Science」という3つの教育の柱をアップグレードすることに踏み出しました。
■2026年度の入学者から、中学ではフラットなクラス編成へ
校長が着手した教育改革の第一歩が、中学の入試改革です。同校では2026年度から、中学の「グローバルコース(英語選抜コース)」と「スタンダードコース(みらい探究コース)」の2コース制を廃止します。入試段階で進路のイメージを狭めることなく、中学入学者全員が同質の授業を受けて学び合うことで、それぞれの学びの効果をより高め、可能性を広げるカリキュラムを構築していくためです。
大久保校長:「『Active English』と『Active Science』は、現在でも基本的に全生徒が取り組んでおり、学習量や学びの深さに多少の違いはあるものの、2コースの授業内容そのものに大きな違いはなかったことが理由です。そうであるならコースの枠組みを取り払って、みんなが平等に同じ授業を受けるシステムに変え、授業内容を工夫することで教育の効果を全体化できると考えました」
■同校オリジナルの教育を、さらに発展させるために
改革のテーマは、「すべての生徒に麴町学園女子の特色に触れる機会」を提供すること。毎年クラス分けを行い、出会いを広げて幅広い人間関係の中で協働するなど、教育効果を全体化していこうというものです。
大久保校長:「学校をさらに進化させていくために私が新校長として課せられたミッションは、これまで本校が取り組んできた教育のあり方を検証し、改めて整理し直すことでした。そこで、まず2つの委員会を立ち上げました。過去の取り組みを見直す新教育検討委員会と、それに基づいて新たなカリキュラムを構築する委員会です。まず検討委員会では、学校としてどういう取り組みを行うべきか、その成果と課題を洗い直しました。言ってみれば、麴町版PDCA(PLAN=計画、DO=実行、CHECK=評価、ACTION=改善)です。検証して、本当に必要なものをきちんと残してブラッシュアップしていく作業です。1学期末に上がってきた最初の中間答申に基づいて、今カリキュラムの見直しを進めているところです」
ここで改めて、同校の特徴的な教育を紹介しましょう。
① Active English
「聞く・話す・読む・書く」の4技能を着実に習得し、「使える英語」を体得する活動型英語学習を実施。これは安河内哲也先生を英語科特別顧問に迎えて構築した、声に出して暗唱する音声教育で、英語の抑揚やリズム感を体に染み込ませていく独自の英語教育メソッド(通称「安河内メソッド」)のこと。
② Active Science
実験や観察を繰り返すことによってプロセスを考える能力、つまり、「論理的思考力・批判的思考力」を養い、課題解決に向けて「主体的に取り組む力」や「自主的に思考する力」を身につけていくことが狙い。
③ みらい科(探究学習)
自己肯定感を育み、さまざまな問題に「しなやかに逞しく」対峙していける女性になることを目指す学び。探究活動を通じて「なぜ?」を問い続ける力を育み、自分の「生き方」の基盤を作る総合的な行動能力「こうじまちコンピテンシー」と、予想外のものにも価値を見出せる力「こうじまちセレンディピティ」を体得する。
「Active English」がスタートしたのは2016年。4技能強化の英語教育は、今でこそ多くの学校が取り入れていますが、安河内メソッドに基づく「Active English」の開始当時は非常に斬新な試みとして注目されました。その流れの中で、2019年に「英語型入試」「帰国生入試」を導入し、英語力のある生徒たちを集めた「グローバルコース」を開設。「Active English」は、英語教育に定評がある同校の代名詞になりました。
続いて2021年には理系女子の育成を目的とした「Active Science」をスタートさせ、昨年から中2・中3(スタンダードコース生)を対象に「サイエンス探究クラス」を設置。理科好きな生徒や、理系志望の生徒を1クラスに集める取り組みです。
また、20年以上の歴史がある「みらい科」は、開始当初はキャリア教育を意図したものでしたが、現在は探究学習の一環として行っています。
校長は、同校の大きな教育目標の一つである「進路の保証」を達成するために、これまでの英語・理科に特化したプログラムを全体に浸透させ、教育効果を高めていこうとしているのです。では、どのようにアップグレードさせていくのでしょうか。
次世代社会で求められる能力を育むため、新しい教育の形に
■グローバル人材を育む「グローバル教育」とは何か?
同校では、グローバル教育の一環として「Active English」を推進してきましたが、その結果、生徒たちの英語への関心は非常に高いものとなっています。
大久保校長:「コースに関係なく、『Active English』では、常に教室の中で生徒同士が英語の音読をしたり、グループで会話をしたり、活動的な授業を行っています。その中で、多少英語力がある生徒がリーダー的な役割を担って互いに学び合っていく。コースをなくしてフラット化することには、そういった教育的効果も考えられると思います」
ちなみに、小学校卒業段階で英検準2級を持っている生徒や、すでに英語力が高い帰国生もいるため、そうした生徒だけを対象としたネイティブ教員による「取り出し授業」は継続します。ただ、「グローバル教育のあり方については見直しが必要」と、大久保校長。
大久保校長:「『使える英語を身につける=グローバル』ではありません。グローバル人材に求められる能力とは、単に英語を話すだけでなく、英語を使って自己表現できる力です。異文化理解を深める方法としては研修や留学などもありますが、日本の中でも異文化を体験できる方法はたくさんあります」
そこで、例えば英語を母語としない国の外国人講師と英語のみの授業を展開するなど、グローバルコンピテンシーを伸ばすプログラムの導入などを検討しています。
大久保校長:「生徒たちに気づいてほしいのは、英語を使ってコミュニケーションする時に、伝えたいこと、伝えるべきものがあることが不可欠だということ。英語の勉強は好きだけれど、では『英語を使って何をするの?』と聞いた時に『?』となる生徒も、現状ではまだ少なくないのです。伝えたいことがなければ、いくらスピーキング力を上げても意味がありません。そこが、今後の課題だと思っています」
校長は、英語の教え方を学ぶためにアメリカの大学に短期留学した、ある英語の先生のエピソードを話してくれました。英語はもちろん話せるわけですが、例えば「寿司にはなぜ酢飯を使うのか?」「日本の風呂敷文化はいつからあるのか?」などと質問をされた時に、答えられなかったというのです。歌舞伎や能、狂言もそうですが、外国人が興味を持つ日本の文化について、自分が知らなければ何も話せない。「あなた日本人でしょ?」と言われても、「I don't know. I'm sorry」と言うばかりで、とても恥ずかしかったのだそうです。
同校は東京都心にあり、さまざまな日本文化に触れる機会が豊富にあります。日本を知り、世界を知り、多様な価値観に触れる。校長は、そうした機会をさらに増やしていこうと考えています。
■「みらい科(探究学習)」の授業は、成長に合わせて学年ごとに実践
同校は、女性が自立して生きていくためには「自分を信じる力」や「出会う力」「繋がる力」、そして困難に立ち向かう「心の強さ」が必要だと考え、それらを「こうじまちコンピテンシー」と名づけています。同校のオリジナル教育である「みらい科」は、探究活動を通して「こうじまちコンピテンシー」を涵養し、「自分のあり方や生き方」の基盤をつくる重要な学びとなっています。
昨年度の探究活動では、前期は内閣府主催の「地方創生★アイデアコンテスト2024」に中1から高1の生徒が参加し、1グループがファイナリストとなりました。テーマとして多良間村を取り上げたことから、沖縄総合事務局長賞を受賞。
後期は山形県に本社をもつ酒田米菓株式会社と連携して、新商品の開発に取り組みました。こうした成果を踏まえながらも、そもそもの根本に立ち返ることを校長は重要視しています。
大久保校長:「探究学習において一番大切なことは、自分で考え、問いを立てることです。『みらい科(探究学習)』の取り組みを通して、生徒たちの力をどのように伸ばすべきかという根本を、改めて問い直していきたいと考えています。それを基本に置きながら、1年の半分は探究の作法ともいうべき最低限のスキル(情報収集力・プレゼン力・ロジカルシンキングの手法など)を学ぶことにあて、残り半分を、自分事にして立てた問いを検証するため、ゼミ形式のグループワークで情報収集・分析・発表という探究学習のサイクルを構築していきます」
これまでは中1・2、中3・高1と2学年合同の授業を行っていましたが、学年によって思考力や表現力に差があることから、来年度からは学年ごとの授業に変更。生徒たちの発達段階に応じた目的をきちんと定め、中1なりの、中2なりのレベルに見合ったスキルと活動を組み合わせる見直し作業を進めています。
まずは、何のために探究学習を行うのか、生徒自身が腑に落ちるような目的意識を組み込んでいく。そうした作業の結果として、種々のコンテストへの応募や企業とコラボする取り組みも継続していく予定です。
大久保校長:「どのようなゼミを設定するかは現在検討中ですが、大枠で言うと、STEAM探究、ソーシャルサイエンス探究、グローバル・ローカル探究、キャリア探究などの領域を設定してゼミを設け、最終的には社会課題と繋がる『社会実装型探究』へと発展させていく予定です」
■学びの枠組みがフラットな中学3年間をヘて、高校では主体的に進路を選択できるコース制に
こうした学びを全体化した中学3年間をへて、高校では従来のコース制を維持。自分に適した学びは何かとじっくりと探りながら、「豊かな人生を自らデザインする自立した女性」として成長していくために、生徒自身が主体的に進路を選択し、自走できる学力を身につけていくのです。
高1 GA・SAコース(グローバルアクティブコース/サイエンスアクティブコース)
Aコース(アクティブコース)
高2・高3 GAコース(文系)<進路目標>難関私大・海外大学
SAコース(理系)<進路目標>難関私大・海外大学
Aコース(文理)<進路目標>総合型・高大連携・有名私大
VUCAの時代と言われて久しく、世界のあり方そのものが音を立てて変動していますが、生徒たちが社会に出ていく時代に求められるのは、もはやかつての理系・文系という型にはまったものではなく、新たな分野融合を目指す力です。生徒たちが中高時代に多様な文化や価値観と出会い、さらに成長していくことを願って、創立120周年の節目を迎えた今、麴町学園女子は新たな教育の形を創出しようとしています。
大久保校長:「『平等』と『公平』の違いは何かといえば、『平等』はみんなの踏み台の高さが同じであり、『公平』はその人に合わせた高さの踏み台であるということです。平等にすれば、柵の向こう側が見える生徒も見えない生徒も出てきます。でも、公平にすれば誰もが柵の向こう側を見ることができる。学校教育においては公平性を大事にしながら、状況に応じて適切に対処していく必要があると思っています」
同校では生徒が学習意欲を高め、希望する進路を実現するために、複数の大学と高大連携を締結しています。入学後に「思っていたのと違う」というミスマッチをなくそうと、高大連携の取り組みでは大学を理解する多様な機会を設けており、大学の講座や行事などに生徒が参加したり、大学の先生による出張講義といった教育交流を活発に行っています。また、高校の評定平均や英検の取得級などの基準によって連携校に進学することが可能になるなど、じっくりと自分を見つめ、持続・発展可能な学びができる体制を整えています。
■高大連携校 成城大学経済学部・文芸学部/共立女子大学各学部・短期大学/女子栄養大学各学科・短期大学部/東京女子大学現代教養学部国際英語学科(国際英語専攻)/日本女子大学(国際文化学部国際文化学科・家政学部被服学科・同児童学科・文学部英文学科・理学部数物情報科学科・化学生命科学科
