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学校特集

東洋大学京北中学高等学校2022

中高大連携による課題発見講座
「未来の科学者育成プロジェクト」

掲載日:2022年10月15日(土)

東洋大学の創設者である井上円了博士は「諸学の基礎は哲学にあり」の精神を基として、真の探究を図る青少年の育成に情熱を注いできました。井上博士の精神を脈々と受け継ぐ同校が東洋大学の教育提携校から附属校になり、女子生徒を迎えたのは2015年のこと。それから7年が経った今年、中学2期生たちが卒業して、大学へと巣立っていきました。
そんな同校で2019年から展開しているのが「未来の科学者育成プロジェクト」。東洋大学との中高大連携による課題発見講座です。科学的に探究する学習活動を通し、「思考力・判断力・表現力」などを育成するため、中3生に向けてスタートしました。さらにこのプロジェクトに参加した生徒を対象にした「KSST(京北スーパーサイエンスチーム)」も昨年から始動。将来に向けて生徒の可能性を広げる最先端のプログラムについて、副校長の亀澤信一先生と、理数教育推進委員会副委員長を務める赤石裕美恵先生(中3担任)に話を伺いました。

東洋大学の教員たちが研究チームを結成

東洋大京北_亀澤 信一 副校長
副校長 亀澤 信一先生

亀澤先生:「今年で『未来の科学者プロジェクト』は4年目を迎えました。この取り組みは毎年、プロジェクトリーダーである東洋大学食物環境科学部食環境科学科の後藤顕一教授のもと、同大学の5名の先生方が設定した研究テーマにより、AからEまで5つの共同研究チームを結成して行われます。
 研究テーマの内容は5月のキックオフガイダンスで発表され、中3生の中から各チームの希望者を募ります。募集人数は1チームにつき5名から10名程度です。
 3年前の第1回『未来の科学者育成プロジェクト』では、チームAが食物環境科学部食環境科学科の佐々木伸大教授(当時)による『食物酵素でチーズは作れるのか?』でした。チームBが同学部健康栄養学科の細谷孝博准教授による『食品に含まれるヒトの健康に役立つ成分を知ろう』、チームCが同学科の露久保美夏准教授による『油脂の種類によってクッキーの出来上がりは違う?』です。チームDが生命科学部応用生物科学科の小芝和子教授による『魚の体色に関する研究』、チームEが同学科の三浦健准教授による『洗濯機の中で起こっていることは?』でした。三浦准教授は本校の卒業生で、後輩に科学の素晴らしさを教えたいという気持ちから参加してくださっています」

チームA「食物酵素でチーズは作れるのか?」では、パイナップルやキウイ、生姜、舞茸など身の回りにある食べ物を使ってチーズを作れるのかを実験しました。チーズ作りには、子牛の胃袋から摂れるレンネットという物質が必要です。この代わりになる素材を探したのです。
チームB「食品に含まれるヒトの健康に役立つ成分を知ろう」では、お茶などに含まれるヒトの健康に役立つ成分について調査。茶殻の有効活用についても考えました。
チームC「油脂の種類によってクッキーの出来上がりは違う?」では、バターや植物油などの油脂の違いが、クッキーの出来上がりにどのような影響を及ぼすのか調べました。使用したのは無塩バターやラード、サラダ油、ココナッツオイル、ゴマ油、亜麻仁油などです。
チームD「魚の体色に関する研究」では、カラフルな体色の熱帯魚にはどのような色素胞が存在するのかなどを実験で確認。命の大切さも学びました。
チームE「洗濯機の中で起こっていることは?」では、洗濯洗剤を用いて、衣服の汚れが落ちていく様子を観察。また、土壌の中に存在する汚れを落とす極限環境生物の発見にチャレンジしました。

東洋大京北_未来の科学者教育プロジェクト 酵母の実験
酵母の実験

 今年、第4回となる「未来の科学者育成プロジェクト」では、チームAが生命科学部生命科学科の郡司芽久准教授による「動物のうごきを解析してみよう」。チームBが食環境科学部食環境科学科の高橋珠実准教授による「パフォーマンス向上のための睡眠について考える」。チームCが同学科の露久保美夏助教による「料理のなぜ?を解き明かそう」。チームDが文学部教育学科の長谷川勝久教授による「数学を使って◯◯を良くしていこう」、チームEが生命科学部応用生物科学科の三浦健准教授による「天然酵母を用いたパン作り~販売を目指して~」です。

ケーキなどのお菓子作りを科学的に分析

 理科(生物)教員である赤石先生は、第1回のチームD「魚の体色に関する研究」の高校担当者を務めて以来、このプロジェクトに関わってきました。今年は、チームA「動物のうごきを解析してみよう」を郡司助教とともに担当します。生徒の成長を見守ってきた赤石先生は次のように語りました。

東洋大京北_理数教育推進委員会副委員長を務める赤石裕美恵先生
理数教育推進委員会副委員長を務める赤石裕美恵先生

赤石先生:「郡司助教は、その著書『キリン解剖記』で有名な女性研究者です。哺乳類や鳥類を対象として首の構造や機能の進化について研究されている方で、その活躍はNHKなどテレビでも紹介されています。
 今年のチームAでは、ハト・イヌ・ネコなどが歩く時、手足をどんな順番でどのように動かしているのか、その様子を撮影した映像から運動解析をしています。このチームAに5名の中3生が集まりました。今後、このメンバーは、実際に動物園に行き、動物たちの動きを撮影する予定です。
 また、第1回のプロジェクトでチームCを担当された露久保准教授と、チームEを担当された三浦准教授は、今回のプロジェクトを含め、内容をさらに発展させた研究により、第2回と第3回も協力してくださっています。
 露久保准教授の研究テーマは、第2回が『ふわふわスポンジケーキを作る条件を作ろう』、第3回が『シュー皮の最適調製条件に迫る』でした。どちらの研究もコンセプトは共通しています。お菓子作りのレシピを読むと『しっかり泡立てる』『ちょうど良いところで火から下ろす』『ちょうど良い大きさに絞り出す』といった表現が使われています。では、この『しっかり』とはどれくらいなのか、『ちょうど良いところ』とは材料を火にかけて何秒後なのか、また、『ちょうど良い大きさ』とは直径何センチなのか? 曖昧な表現を数値化して明確にするために、様々な条件で作り比べて科学的な裏付けに基づいたお菓子作りをめざしました。

東洋大京北_シュー皮の最適調整条件に迫る 実験の様子
シュー皮の最適調整条件に迫る 実験の様子

 第3回の『シュー皮の最適調製条件に迫る』では、卵と水の量の割合や焼く温度を変えることで、シュークリームの皮にどのような影響が現れるのかを実験し、量や割合や温度を明確にして、サクサクのシュー皮づくりをめざしました。同じ50グラムの材料を作るのに、卵と水の配分を0:50、25:25、40:10、50:0の4パターンで試すなどの実験を重ねていったのです。その後のデータ処理も生徒の手で行いました。
 その結果、たとえばレシピにある『ちょうどよい固さで生地を混ぜるのをストップする』の『ちょうどよい固さ』とは『へらで生地をたっぷりとすくい上げた時に、3秒くらいでばさっと生地が落ち、逆三角形に垂れ下がるくらい』であることや、卵と水の適切な配分、生地を絞り出すときにベストな直径・高さが明らかとなりました。

 今年の第4回の『料理のなぜ?を解き明かそう』では、お肉をやわらかく焼くにはどうしたらよいのか、溶けないアイスは作れるのかなど、身近な料理や食材についてチームのメンバーで疑問や希望を挙げながらテーマを決め、様々な条件での実験や分析を行っています」

東洋大京北_

 一方、三浦准教授が担当するチームEでも、これまで培養など大学の研究室で行うような高度な実験を体験できます。第2回の研究テーマは「乳酸菌を発見してヨーグルト作りにチャレンジしよう」。市販のヨーグルトを分析した後、野菜や果物から乳酸菌を発見してヨーグルト作りに挑戦しました。第3回が「酵母を発見してパン作りにチャレンジしょう」でした。冷蔵庫の中に身近にある食材などを使って天然酵母を取り出す実験を繰り返し、市販された酵母と、自分たちが取り出した酵母を比較。どのようなパンができあがるのかを調べました。その結果、ブドウとナシから発見した8種類の天然酵母を混合したパン作りでは、「ドライイースト」と呼ばれる市販パン酵母よりもおいしく仕上がることが判明したのです。そこで、第4回のテーマは「天然酵母を用いたパン作り~販売を目指して~」になりました。

赤石先生:本校の卒業生でもある三浦准教授の今後の目標は、このテーマのタイトルにあるように、自分たちが作ったパンを本校の校内で販売することです。今年の3月に行われた発表会では、チームEのメンバーたちも演劇風の演出で自作のパンを校内で販売したいという願いを元気いっぱいに表現しました。第4回のチームEには、第3回のメンバーだった高1生5名も加わり、この目標を実現させようと奮闘しています」

 三浦准教授は、高1生たちの研究成果を来年3月の学会で発表させる予定だそうです。また、また第3回から数学分野がこのプロジェクトに加わり、「ブロックを用いた数学的活動を通して問題解決に挑戦してみよう」を文学部教育学科の長谷川教授が担当しました。
 長谷川教授が第4回で担当する「数学を使って◯◯をよくしていこう」では、数学の有用性を実証していきます。◯◯をよくするためにはどうすればよいか、この◯◯に入る言葉を決めて、そのための改善方法を明らかにする研究に取り組むのです。たとえば、クラスをよくするにはどうすればよいかいのかなどの課題に、数学の一分野である統計学を使って解決策を見出し、実際にそれがクラスをよくする上での有効だったかどうかの検証を行います。

ハワイのキラウエア火山などを訪れる「KSST」

 この「未来の科学者育成プロジェクト」を母体として、昨年から実施されているのが「KSST(京北スーパーサイエンスチーム)」。「未来の科学者育成プロジェクト」に参加した高1生と高2生の将来の進路選択への展望を大きく広げる、一歩進んだ探究プログラムです。

亀澤先生:「赤石教諭を始めとする理数教育推進委員会の教員の指導のもと、東洋大学の先生方のアドバイスをいただきながら、生徒が『未来の科学者育成プロジェクト』で取り組んだテーマをさらに発展・進化させた自主研究に取り組むプログラムです。 『未来の科学者育成プロジェクト』で研究のノウハウを学び、研究者としての姿勢を肌で感じた生徒たちの知的好奇心や探究心をさらに刺激するため、企業や博物館の訪問やフィールドワークも行っています」

東洋大京北_(株)サイフューズ訪問
(株)サイフューズ訪問

 昨年10月には「KSST」のメンバーである高校生が東京大学内にある㈱サイフューズを訪問。この企業は、最先端の技術で再生医療製品などを開発しています。翌月11月には、来校した同社の研究員を前に「細胞を利用した製品」というテーマでプレゼンテーションを行った後、研究員とディスカッションを繰り広げたそうです。

亀澤先生:今後は、国立遺伝学研究所の訪問や富士山の湧水の調査を行う『三島アカデミックフィールワーク』を始め、化石の採集や木の葉化石園の見学を行う『那須塩原地区アカデミックフィールドワーク』などを実施する予定です。
 そして最終的には、長期休業中に海外での研修を行いたいと考えています。現在、計画が進行しているのが『ハワイ島研修』です。国立ハワイ火山公園を訪れて、世界最大級の活火山であるキラウエラ火山のトレッキングを体験するなどのフィールドワークを行います。来年の夏または秋には実施できるように、近いうちに教員が実地調査に向かいます」

 この『ハワイ島研修』では、他にワイピオ渓谷やオニズカ・ビジターセンター、国立天文台ハワイ観測所山麓施設、ラバーツリー州立公園などを訪問。オニズカ・ビジターセンターでは、標高2800mの高地にある天体観測施設で星空の観察や高所順応の体験をし、国立天文台ハワイ観測所山麓施設では研究者との対談を行うことが計画されています。

中学生に向けた「臨海実習」も

「未来の科学者育成プロジェクト」に参加していない中学生に対しても科学と向き合えるプログラムができないか。そんな教員たちの願いから生まれたのが夏休みの「臨海実習」です。中1から中3までの希望者を対象にしています。

東洋大京北_臨海実習の様子1
臨海実習の様子1

赤石先生:「参加を呼びかけたところ、100名もの生徒が集まりました。実習する場所は、三浦半島の観音崎です。観音崎は、三浦半島の東端に位置する岬で、海や山でのフィールドワークができます。参加した生徒は、私たち理科の教員たちとともに変化に富んだ地形を観察したり、観音崎自然植物館見学で、海藻の標本を作ったり、磯での観察・採集を行ったりしました。次回の『臨海実習』では、千葉県勝浦市を訪れる予定です」

東洋大京北_臨海実習の様子2
臨海実習の様子2

亀澤先生:「この『臨海実習』を始めとする中学生に向けたフィールドワークや探究活動を『KSSTジュニア』と位置づけたいと考えています。そして、これを体験して刺激を受けた生徒が『未来の科学者育成プロジェクト』にも参加できるように、『臨海実習』の内容や規模をさらに充実させていきたいと思っています」

数多くの生徒が科学に触れる機会を

 では、2019年にこの『未来の科学者育成プロジェクト』がスタートしてから、生徒たちにどのような変化が生まれたのでしょうか。

赤石先生:「『未来の科学者育成プロジェクト』に参加したいという生徒がますます増えてきました。中1や中2の時に中3生の報告会に出席して『私も中3になったら、こんな研究がしてみたい』『僕もあの先輩のように下級生の前で堂々とプレゼンをしてみたい』というような目標や憧れをずっと抱き、その時期が来て『やっと参加できる!』と心の中で快哉を叫んだ生徒が数多くいることを示しています」

亀澤先生:「一貫生の高1の生徒たちについて調査したところ、理系を志望する生徒が多いことがわかりました。高入生よりも高い割合です。高校から入学した生徒は『未来の科学者育成プロジェクト』や『KSST』に参加していません。一貫生に理系志望者が増えた要因には、これらの取り組みの影響もあると考えてよいでしょう。そこで、高入生もこうしたプログラムに参加できないかを検討しているところです」

 来年の春には、これらのプログラムを経験した中学3期生が大学受験に臨みます。同校が「東洋大学京北」とした新たな一歩を踏み出した年に入学した中学1期生のうち、国立大学に3名が、早稲田や上智、東京理科大やGMARCHに合わせて35名が合格しました。中学2期生はその実績を大きく上回っています。国公立大学に7名が、早慶上智・東京理科大、GMARCHに合わせて134名が合格を果たしたのです。「KSST」を始めとする探究活動によって、知的好奇心や探究心を刺激され、明確な目的や高い志を抱いた中学3期生の理数系を含めた進学実績に大きな期待ができるでしょう。さらに今後は「KSST」の体験や成果を糧にして難関大学に総合型選抜で進学する生徒も増えてくるはずです。

東洋大京北_未来の科学者 研究発表
未来の科学者 研究発表

赤石先生:「『未来の科学者育成プロジェクト』が始まったのは、現在の高3生が中3の時でした。そのため、昨年、卒業した中学2期生はこれに参加できなかったのです。2期生に理科を担当してきた私はこの生徒たちが、3期生たちが楽しそうに研究に取り組んでいるのを目にして、うらやましがっている声をよく耳にしたものです。こうした生徒たちの気持ちをさらに大切にして、亀澤副校長が話したように今後は中1生や中2生、また高入生も参加できるプログラムをさらに数多く用意していきたいと考えています。
 ぜひ、本校に入学し、理数分野が得意・不得意に関わらず、アカデミックな体験ができるプログラムに積極的に取り組み、様々な課題にチャレンジしてほしいと思います」

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