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学校特集

聖学院中学校・高等学校2022

「ICEモデル」の学びが進化中。その鍵は「体験」と「対話」
教育コンセプトは「Student(教えられる存在)からLearner(主体的に学ぶ存在)へ」

掲載日:2022年9月1日(木)

 同校の教育理念は、キリスト教精神に根ざした「Only One for Others」。自分らしさ「Only One」と、他者のために「for Others」は一対であり、不可分のものです。「Only One」を見つけ、「for Others」の志を持つことで、「ものづくり(問題の解決策の創造)」と「ことづくり(新たな価値の創造)」ができる青年を育てるため、革新的な教育を展開しています。入り口の中学入試でも、教科型入試では見えにくい輝きを見つけるべく、他に先駆けて2013年から数種の「思考力入試」をスタート。ブロックを使って自分の考えを表現する「ものづくり思考力入試」は、同校で展開される教育の予告編ともいえるかもしれません。今回は、全教科に共通する同校の学びの設計図である「ICEモデル」について、そして「STEAM教育」「探究的授業」での実践例をご紹介します。広報部長であり、教育デザインセンター長の児浦良裕先生にお話を伺いました。

「情報プログラミング」での学びが、他教科に敷衍している

■気づきを共有し、活用法を身につけていく

聖学院_3Dプリンターやレーザーカッターがある「ファブラボ」は、授業以外でも使用できる人気スポットだ
3Dプリンターやレーザーカッターがある「ファブラボ」は、授業以外でも使用できる人気スポットだ

 昨年の中1から、STEAM教育の一環として「情報プログラミング」の授業をスタートさせた同校。インターネット活用の土台としての「情報リテラシー」や、課題解決のために「プログラミング」や「データ解析」を学びます。
 中1では「C言語で表現する」自己紹介動画を作成し、「プログラミングで表現する」ドローンを飛ばし、学校紹介をテーマに「3Dプリンターで表現する」立体ピクトグラムを作るなど、「情報プログラミング」を通して、生徒たちの表現手段は格段に広がりました。

聖学院_広報部長・教育デザインセンター長の児浦良裕先生
広報部長・教育デザインセンター長の児浦良裕先生

児浦先生:「情報プログラミングは週に1時間ですが、その学びが中心となり、他教科に敷延するようになっています。例えば、理科の『光』の単元では、360度カメラを使って『心が動く体験を通して、自分の中に埋もれている感性に気づく』ことをテーマにグループワークを行いました。授業の目的は『静かさ』や『穏やかさ』とは何かをグループごとに考えて意見を共有し、校内を巡って「静かな場所」を探して、心が動く自然体験の動画集を作ること。生徒たちは、雨音が聞こえる場所を探して撮影したり、木々の間にカメラを入れてジャングルにいるような映像を撮っていましたね」

 テーマである「埋もれた感性に気づくとはどういうこと?」という問いに対する生徒の答えは、授業の最初と最後では、内容の密度も文章量も、まったく違ったものになりました。
 また、「聖書」の授業では情報の教員とコラボレーションし、クリスマス・オーナメントを設計して3Dプリンターで製作。聖学院幼稚園や聖学院小学校、女子聖学院にプレゼントして、ツリーに飾り付けをするプロジェクトを実施し、大喜びされたそうです。

■「学びの旅」は、「問い」からスタートする

 このように、「情報プログラミング」の授業で動画を撮ったり、3Dプリンターでものを製作した経験が生徒たちの視界を広げ、自ら積極的に他教科の学びの中で活かしていっているのです。

聖学院_聖学院幼稚園で、クリスマス・オーナメントを飾り付け
聖学院幼稚園で、クリスマス・オーナメントを飾り付け

 ところで、児浦先生は、以前受け持っていた中学の数学で「サッカーチームが強くなるにはどうすればいいのだろう?」という問いから授業を始めました。グラフの描き方や、平均値や中央値の出し方を学んだ後、生徒たちは「パス回数は?」「スコアの平均値も見たい」「この場合は中央値のほうがいいんじゃない?」「じゃ、グラフを描いてみようよ」と、賑やかに意見を交わしていたそうです。
 このように「問い」から始めることが、同校の学びの設計図「ICEモデル」の土台です。

なぜ、「ICEモデル」で授業を行うのか? その意図と成果とは?

■生徒が、自ら学び進もうとする道筋を立てる

聖学院_iPadを活用して「理科探究」に取り組む生徒たち
iPadを活用して「理科探究」に取り組む生徒たち

 同校が授業設計に導入している「ICEモデル」は、カナダのスー・ヤング博士が提唱するもので、問いに重きを置く学習・評価方法のこと。ちなみに、「ICE」とは以下の3つのキーワードの頭文字からとったものです。
 つまり、問いを立てることで学びのフレームワークを作り、生徒が主体的に学んでいく道筋を立てるのです。

「ICEモデル」とは、「問い」によって学びのストーリーを作る学習法

● I:Ideas(基礎的な知識の定着)       →(問い)何か?
●C:Connections(知識と知識をつないで活用) →(問い)もしも? なぜか?
●E:Extensions(価値づくり・課題の解決)    →(問い)どうなのか? 何をするのか?


 同校の授業では、I・C・Eそれぞれに基づいた「問いのストーリー」を単元ごとに策定します。そして、「単元の学習ゴール」として「他者や世界に貢献するための価値づくりや課題解決」を設定し、その課題解決に向けた知識や知識の活用を、授業の中で「問い」として投げかけているのです。

児浦先生:「情報プログラミングは、この『ICE』のExtensionsの表現手段を増やすのに効果的だったのです。通常、授業ではEの問いに対しては発表やレポートなど、言葉で表現するものになりがちなのですが、ツールが増えたことでものを見る角度が広がり、表現する際の手法も多様になりました」

 ここでもう一つ、「ICEモデル」の理解を助ける「問いの粒度」についてご紹介します。「粒度」とは、レベルと捉えても良いでしょう。これは、アメリカのランディ・ベル博士が提唱したものです。

「問いの粒度」で表す学びの4段階

レベル❶:確認(Confirmation)
 理科実験のように、教員が問いやプロセスを与え、結果は一つに決まっているもの
レベル❷:構造化されている(Structured)
 問いやプロセスは教員が与えるが、答えは生徒が自分たちの考えやアイデアを表現するもの
 →ICEモデルの授業
レベル❸:ガイドされている(Guided)
 問いは教員が与えるが、プロセスは生徒が設計して答えをアウトプットする
 →2021年新設:高校GIC(Global Innovation Class)の「STEAM」などPBL型授業
レベル❹:オープン(Open or Free)
 問いからすべて生徒が考え、オールフリーで行う→GICの授業「PROJECT」
                      (参考:竹村詠美 著『新・エリート教育』)


児浦先生:「本校は、問いの粒度のレベル❷を実現するために、『ICE』の概念を使った授業設計を行っているわけです。そして、そのために何より大事にしているのは、生徒たちが答えを楽しんでアウトプットできるようにすることです」

■授業の要は「体験」と「対話」。つまり、「Connections」

「生徒たちが答えを楽しんでアウトプットできる」環境を整えるには、2つのポイントが重要だと児浦先生は言います。

聖学院_中1の数学。ポリドロンを組み立てる「幾何」の授業にて
中1の数学。ポリドロンを組み立てる「幾何」の授業にて

児浦先生:「それは、『体験』と『対話』です。授業では単に知識を覚えるのではなく、体験的に学ばせたいと思っていますが、その過程で生徒同士の対話や、校外プログラムであればインタビューなど、人との対話が欠かせません。そこで得られるものは、自分自身のコアを形成するうえで大きなポイントになると思っています」

 2020年に始まったコロナ禍のため、各校ともに対面とオンラインを併用して授業を実施していますが、同校も2020年からICT化が一気に加速しました。  そこで気になるのが、体験と対話を重視する「ICEモデル」で行う授業は、対面とオンラインでは違いがあるのかどうか、です。

聖学院_ロボコンの最終調整をする生徒たち
ロボコンの最終調整をする生徒たち

児浦先生:「自分の考えや意見を紙に書くことが多かった時は全員で共有することは難しかったですが、今はデバイスで瞬時に共有できます。コロナ禍が始まって以降、初めて対面授業ができることになった時、教員間で『対面でこそ効率的、効果的にできることは何か』と議論を重ねたのですが、行き着いたのは『Connections』でした。オンラインの場合は1台のデバイスで画面共有することに難点があるため、『Connections』を行うことが難しいですが、対面であれば、リアルな空間とデバイスを瞬時に行き来できます」

 直接顔を合わせる対面授業では、「これ、すごいね!」「どうやったの?」と会話が飛び交うそうです。仲間の発想に触発されたりインスピレーションを受けることができる、その場の空気感こそがConnections の土台なのです。

「授業以上」を求める中学生には
「Global Innovation Lab(GIL)」も用意。
そして、高校「Global Innovation Class(GIC)」は次世代の学びの象徴

■中学のGILは「もっと!」に応える放課後ラボ

聖学院_「Scratchトースター」でクッキー作りの実験中!
「Scratchトースター」でクッキー作りの実験中!

「情報プログラミング」の授業で仲間と切磋琢磨するなかで開眼し、「もっと学びたい!」という生徒のために、課外活動「GIL」があります。中1の2学期から中3の3学期まで参加できる、希望制の放課後ラボです。
 年間約40回実施されるこのラボでは、「プログラミング」に始まり、「データサイエンス」「宇宙探索」「SDGs & LEGO」「Global体験」「起業体験」などをテーマに体験型ワークショップを実施。
 また、パナソニック株式会社の協力の下、どうすれば美味しいクッキーをプログラミングで作ることができるか実験を行う「Scratchトースター」など、企業とのコラボもあります。

 これらは、次にご紹介する高校に新設されたGICの学習手法を中学に波及させたものでもあります。

■高校のGICは、グローバルイノベーターを育成するクラス

聖学院_GICの「STEAM」数学の授業にて
GICの「STEAM」数学の授業にて

 昨年度、同校はこれまでの学びの発展・深化版として、高校に「GIC」を新設しました。
 GICでは「ものづくり・ことづくりを通して世界に貢献できる人材を育てる」というコンセプトの下、徹底した英語教育やSTEAM教育を行っています。ちなみに、このクラスに入るための条件は、英検準2級以上の取得。
 グローバル課題やSDGsを自分事としてとらえ、高次の研究力・協働力・創造力を育成するこのクラスでは、以下の4つの独自科目を設定しています。

「GIC」で展開される独自科目

● Liberal Arts(週2時間)
社会で起きている出来事は、さまざまな問題が複雑に絡み合っているため、バイアスを排除してフラットに情報を捉え、論理的・客観的に考える力が必要です。そこで、書籍やニュース記事を題材に、ディスカッションやディベートを行い、ロジカルシンキングやクリティカルシンキング、ビジョンメイキングの力を獲得していきます。

● Immersion(週3時間)
公共(社会科)や家庭科などの内容を中心にSDGsを英語で学び、英語でプレゼンテーションやディスカッションを実施。思考戦略やリーダーシップなど、世界課題を解決するために重要なスキルとマインドを「英語で獲得する」プログラムです。

● STEAM(週6時間)
 「サイエンス」「デザイン」を軸に、ICTスキルを活用しながら「ものづくり」「ことづくり」に必要なツールを学び、論理と感性の両面から創造力を育てます。授業はすべてPBL型で行われ、課題解決・価値創造のための問いからスタート。設定したテーマに基づき、知識や思考スキルを習得していく構成になります。

● PROJECT(週2〜4時間)
 ゼミ形式で授業を行い、国際系・社会系・環境系などのテーマから任意に一つ選び、課題を設定し、学内外で連携しながら協働・研究活動を行います。高3では探究論文を完成させ、これがGICでの学びの集大成となります。


児浦先生:「GICは、世界に貢献できる『グローバルイノベーター』を育成するためのクラスです。『Only One for Others』を真に具現化できる人財の育成を目指していますので、聖学院の次世代教育の象徴的なクラスという位置づけです。今後、このクラスがどのように拡大・発展していくか、とても楽しみですね」

すべては「Only One for Others」、他者のために生きる人になるために

■「聖学」とは「聖人(Only One)」になること

 先述の通り、「Only One for Others」の精神は同校のDNAとして受け継がれるものですが、その理念の下、教育の柱として据えられているのは「オンリーワン教育」「探究的授業」「STEAM教育」「グローバル教育」の4つ。

聖学院_始業前の15分間、講堂で礼拝を捧げることから1日が始まる
始業前の15分間、講堂で礼拝を捧げることから1日が始まる

児浦先生:「初代校長の言葉に『聖学とは聖人を学び、聖人となることだ』というものがありますが、聖人とは『Only One』を指しています。つまり、誰かに依存したり、周囲の状況に左右されずに、自分の賜物を信じて、それを他者のためにどう用いていくのかを考える。この教育理念は、自分の使命を追求できる人になることを目指すものです。今日明日の生活に困っている人のサポートをすることも、政策の提案など社会のシステムを大きく動かすことも大切ですが、何より、まず『誰のためか』ということに思いを馳せることができるようになってほしいのです」

聖学院_高校生有志による「みつばちプロジェクト」。同校とつながりの深いタイ山岳少数民族の子どもに養蜂技術支援を行うなど、プロジェクトはさまざまな広がりを見せている
高校生有志による「みつばちプロジェクト」。同校とつながりの深いタイ山岳少数民族の子どもに養蜂技術支援を行うなど、プロジェクトはさまざまな広がりを見せている

 課題解決型の学びとはいえ、中1・2のうちは好きなこと、関心の高いことに夢中になって楽しんで学び、「Only One」を自分で見出していくことを大切にしていますが、企業などが主催する外部プログラムやコンテストに積極的にチャレンジする生徒たちも大勢います。
 そして、そのような過程を経て、先生方は徐々に「for Others」の視点を持つことを促していきます。

■貢献の志は「具体」から生まれる

児浦先生:「放っておくと男子は自己満足に陥りがちですから(笑)、中3後半くらいからは、そのテーマが『誰のためになるのか』という、対象者を明確にすることを求めていきますね。対象者が明確で、その人にどれだけ寄り添い、その人のために自分たちに何ができるのか、その人にどうなってほしいのかという願いが強ければ強いほど、良いプロジェクトになります」

 児浦先生は今、GICの高2の独自科目「STEAM」や「PROJECT」を受け持っていますが、生徒との以下のような問答は日常茶飯事だそうです。

生徒:この企画は、◯◯県◯◯町を良くするためのものです。
先生:誰がダーゲット?
生徒:若い世代です。
先生:それは何十代? 男性? 女性? もともと住んでいる人? それとも移住してきた人?
   その人にどうなってほしいの?
生徒:幸せになってほしい。
先生:どういうふうに?


聖学院_「Only One」が集って協働すれば、世界は変わる
「Only One」が集って協働すれば、世界は変わる

児浦先生:「対象者に思いを馳せていれば、さまざまなことを想定して具体的に考えるはずです。ただ漠然としたイメージを抱いているだけでは、本当に貢献しようという志は持てませんから、超具体を求めます」

 「ものづくり」「ことづくり」を通して地域や世界に貢献する人を育てる。この授業でのやり取りは、「ものづくり」「ことづくり」のための第一歩といえます。

 物事には物語性が重要ですが、学びも同様です。学びにストーリー性を持たせる同校の各プログラムは、文字で眺めるとどれも先進的に思えますが、じつは、次代に生きる一人の大人として、グローバル・シチズンとしての土台作りに他ならないことがわかります。

 汎用性の高い思考力とともに、自分の思いや考えを人にわかりやすく、具体的に伝えるためのスキルを身につけさせる同校。そして何より、思考力とは社会とのつながりを意識した「創造的思考力」「協働的思考力」であり、そこを起点に社会貢献への志を培っているところに、同校が実践する教育の真髄があります。
 だからこそ、先生方はDNAである「Only One for Others」ただ一点を見つめ、聖学院ならではの学びの創造に努め、日々、全力を尽くして生徒たちをサポートしているのです。

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