受験情報ブログ

2019年入試で新設の「湘南学園ESD入試」をレポート

「湘南学園ESD入試」が、2月1日午前に実施されました。これまでの教育の蓄積から生まれた入試でした。

「湘南学園ESD入試」は2月1日午前、記述・論述の試験が行われました。この入試は2019年に新設されたもので、出願に際して「小学校時代に取り組んだこと」と「湘南学園に入学したら挑戦したいこと」について90秒以内で本人が語る「動画」を提出。この「動画」と「論述・記述試験」とで合否を判定するというものでした。入試導入の背景と、初めての入試をレポートします。(取材・撮影・文/市川理香)...

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入試当日の流れ

2月1日午前。小田急江ノ島線鵠沼海岸駅、あるいは江ノ島電鉄鵠沼駅から、受験生が湘南学園をめざします。集合時間は10時50分と従来の入試に比べ遅めとあって太陽も高くのぼり、前日の雪模様がうそのように気持ちよく晴れわたっていました。
校門前で塾の先生の応援を受け、試験会場への移動まで、受験生と付き添いの方はカフェテリアで待機。カフェテリア特製の校章入りクッキーやコーヒーなどの販売もあり、緊張した中にも穏やかな雰囲気が漂います。

10時20分、在校生の誘導で受験生は荷物を持って試験会場へ移動。

10時50分からの諸注意を聞いた後は、サンプル問題で練習した記述を読み返したり(用紙いっぱいに書かれています!)、目をつむって心を落ち着けたり、思い思いに時が来るのを静かに待っていました。そんな受験生の姿とともに印象的だったのは、初めての入試に応えてくれた受験生を目の前にして、緊張と興奮の交錯する監督の先生方の表情です。

定刻の11時10分。チャイムと共に、「論述・記述」50分がスタート。

控え室の付き添いの方のために、試験開始30分後には、在校生がカフェテリアに問題を掲出し案内。見入ったり、スマートフォンで撮影したりする保護者からは、「予想と違うテーマだった」「別のテーマばかり練習していた」「どんなことを書いているかしら」という声。受験生の解答を気にするというよりも、一緒に楽しみにしているかのようなおおらかな雰囲気があり、この入試の性質の一端が伺えた気がします。「湘南学園EDS入試」受験者の多くは全日程出願あるいは複数日程出願者とのことで、湘南学園の教育に価値を見出したご家庭が多いと思われますが、この新しい入試を知って中学受験を決めたという受験生もあったそうです。

試験終了後、会場から出てきた受験生と保護者は合流し、午後の湘南学園A日程のために学校に残るもの、他校の午後入試への移動や帰宅で駅に向かうもの、いずれのまなざしにも達成感が浮かびんで見えました。

なぜ「湘南学園ESD入試」を導入したか

「あるマスコミが『湘南学園ESD入試』を取り上げてくれたのですが、“入試に動画を導入”という点に注目されていたので、実は戸惑いました」と話すのは、「湘南学園ESD入試」のプロジェクトをまとめてきた、伊藤眞哉教頭先生と企画課主任の吉川謙太郎先生。

戸惑い・・・。それはなぜでしょうか。

湘南学園独自の教育「湘南学園ESD」は、教科教育や総合学習を軸に、学校生活の全ての分野に展開されています。ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」と訳されますが、湘南学園では、「私たち(まだ生まれていない、私たちの子孫も含めて)が生きていくことを困難にするような問題について考え、立ち向かい、解決するための学びです。即ち、『持続可能な社会の担い手を育成する教育』」と考えています。
なかでも総合学習は、6年間の発達段階に応じてフィールドワークや経験、議論をとおした体験型実社会で行動できる人になることを目指す、人格形成のカリキュラムです。HPでは、下記のように解説されています。

中1では、ひとり一人に「個性=違い」があること学びます。
中2では、身近な地域に生きる人々から協力と協働を学び、
中3では、湘南だけでなく(過密・過疎など)日本各地の異なった地域に生きる人びとの生き方に出会います。
高1・高2では、SDGsに着目しながら、生命や個人の尊厳、さらには、現代の諸問題を調査学習して深め、地球規模の課題にも目を向けられるだけの人間観・世界観を深めていきます。
高3では、社会を支えている人々の生き方に学ぶ機会を設け、「人間らしく生きられる社会をつくる主体者として、自分はどう生きるのか」を考えます。

例えば、中3研修旅行は約10年間にわたり、周防大島町で民泊や体験学習を行ってきました。昨年10月、本州と周防大島を結ぶ大島大橋に大型貨物船の衝突による断水の影響で修学旅行は、復旧を待つ形で延期。今年2月に、実施されましたが、衝突事故後にも、「がんばろう!!周防大島」という応援サイトを紹介したり、島の野菜を湘南子ども食堂で使うよう働きかけたり、支援を行動で示したのも、湘南学園ESD教育の成果と言えるでしょう。

「かのや100チャレ」(首都圏の中高生が考える「鹿児島県鹿屋市が抱える100の課題」チャレンジ事業)への参加や歯ブラシ回収プロジェクトなども、湘南学園ESD教育が、学校内に止まらず校外にも目を向けていること、また外部機関や、卒業生・保護者・地域の人々、他のユネスコスクール(海外も含む)との協力を得ながら行われていることの、一つの事例です。活躍するのも一部の生徒ではなく、興味関心の在り様で一人ひとりに可能性があるのも、湘南学園らしさ。

総合学習や有志活動の取り組みが、2月3日【SDGs全国フォーラム】で発表されました。 SDGsの活動は、特設サイトからもご覧になれます。

2月8日の校長通信で木下貴志校長先生は、「湘南学園ESD入試に寄せる期待」に、現場の先生たちから、「受験生は、学力のみならず人としての豊かな力を持っている。だからそういう力を発見するような入試をしたい!」という願いから始まった背景や推移が記されています。そこにもあるように「受験して良かったと思ってくれる入試」のために、教科という枠を超えて立候補した若手中心のプロジェクトチームが検討を重ねていったのでした。それゆえ先生方にとって、動画の導入はその一部であり、学園の行ってきた教育からすれば新しい入試の誕生は「必然」であったと言えるでしょう。

新しい入試への反応と入試問題

「新入試プロジェクト」を立ち上げたときから、湘南学園ESD教育、SDGsに関連させた問題にしようということは最初からイメージとしてあったそうです。サンプル問題には、SDGsの17のゴールのうち、いずれか一つに関する出題と提示されていました。そして迎えた初めての「湘南学園ESD入試」本番。今年は「質の高い教育をみんなに」という「ゴール4」に関する問いでした。

まず、提示された資料をもとに読み取れることを挙げます(問1)。
次に、「質の高い教育」とはどのような教育か、そのような教育を受けられない場合にどのようなことが起こるかを、経験を踏まえて説明。考えがえられることを書けるだけ書き出してもらいます(問2)。
問3では、ゴールを達成するために関わると考えるゴールをSDGsから選び、その理由を説明。
最後の問4では、2つのゴールを達成するためのアイデアを考え、説明。

受験生はこの4つの問いに50分間、一生懸命、向き合いました。

学校として、記述内容について想定するとか何かを期待するとかなく、まっさらの状態で待っていたといいます。そのために作問題作成にあたっても、その子なりの意見を出せるように、設問でこういうふうに書かせようと誘導しているのではないかと思わせることがないよう、細心の注意を払ったと吐露。問題を作りながら教師自身も成長することがあった、と振り返るほど、先生方にも新しい発見があったようです。

「湘南学園ESD入試」の導入を発表してから、受験生や受験塾から、「どんな子がほしいんですか」と聞かれると同時に、「どんな評価基準や観点から見るんですか」という質問が多く寄せられたそうです。しかし、評価の詳細を伝えて、それに沿うような内容ではなく、自由な発想を示して欲しいと考え、評価ついての公表、コメントは控えたと言います。「内容が想像できないので受験しない、という判断にもなったかもしれない」と苦笑しますが、「新しいことをやるのに、従来と同じ発想、同じ対応はしない」と、特に若手メンバーの熱意は一方ならぬものだったようです。

保護者からの、動画の提出に関する「どんな内容がよいのか」と対策を考えた質問にも、「私たちも想像もしないようなものを示してくれるのがうれしいので、その子の持ち味が出ている動画ならそれが一番」と答えて来たそうです。

試験前にお話を伺った時点で、動画は、再生できるかどうかのチェックをした担当者以外は誰一人、見ていない状態。試験終了後、論述・筆記チームと動画チームが別々に採点し点数化したものを判定会議にかける、ということでした。
全5回の入試を行うだけに、湘南学園ESD入試の募集定員は10名程度とされており、「判定は悩ましいだろう」と苦しい胸の内を語る伊藤教頭先生でした。


後日、改めてお話を伺いました。

動画チームは、「全員を見る時間は、アッという間に過ぎた」と感じたようです。練習はしたのだろうけれど飾らない姿に温かみを感じ、素顔をうかがえたと言い、採点基準は伺えませんでしたが、自分の言葉で率直に話せたかどうかを大切にされたと感じました。先に触れた校長通信では、動画について「家族や周囲と語り合う場を持ってもらえるのではないか」「(これまで自分に起こったことを)温かい気持ちで振り返ってくれるのではないか」「自分自身を肯定する気持ちへ繋がり希望のきっかけになるのではないか」と期待したとあります。

一方、論述チームはルーブリック評価を作っていたものの、大変時間がかかり、採点は悩ましいものだったようです。絵や図の工夫までしっかり書けていた受験生も多かったようです。
「前に出るタイプでないとしても、幅広く世の中や世界に目配りができて、困った状況では自分だったらどうするか、いろいろ考えられる子は、行動もできていくと思うんです」と生徒像を思い描く湘南学園。論述のポイントは、自分の体験に引きつけて、その思いを言葉にできていたかどうか。解答用紙のスペースを埋める量が必要なわけではないのです。

「自分に引きつける力は、日頃の家庭での会話などが大きな影響を与えると思います。相手目線に立つことは、とってつけたようにはできないことです」

結果的に13名の合格者を発表。
動画の課題である「小学校時代に取り組んだこと」と「湘南学園に入学したら挑戦したいこと」から伺えるように、やりたいことが明確な人たちであると受け止めているそうです

2年目に向けて

「どういう生徒を育てていきたいか、湘南学園ESD入試のプロジェクトのなかでは共有できました」と評価。そして、メンバーそれぞれがこんなことをやりたいという思い、将来の学園像を持っていることがわかったという点でも有意義だったと振り返ります。 この入試プロジェクトが学園を動かす原動力となっているという自負を頼もしく感じる一方、「今度はそれをもっと広く学校全体に浸透させたい」というのが、2年目の課題と受け止めています。

ESD教育を柱にした湘南学園の多様な学びを、受験生に対し打ち出せた2019年入試。
これからのさらなる展開に注目したいと思います。

2月23日(土)に、4・5年生対象の「体験入学」が実施されます。 
2月7日に満席となりましたが、キャンセルが出た場合、お申し込みできますので、適時学校ホームページをご確認ください。
また新年度にも多彩な学校行事が開かれることでしょう。目で耳で、心で、湘南学園の教育と成果をお確かめください。