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(後編)女の子の楽園で民主主義の本質を学ぶ

発見!私学の輝き 日本女子大学附属中学校・高等学校
教育ジャーナリスト おおたとしまさ

校舎中央に位置する「もみじ劇場」。例年の文化祭では軽音楽クラブのライブ会場になる

(前編)→ 国語の授業で結婚式のスピーチがうまくなる!?

日本で初めて学校教育に自治活動を取り入れた学校

日本女子大学附属中学校・高等学校の教育方針は「自念自動」。学校教育に自治活動を取り入れた最初の学校といわれている。中学校・高等学校の生徒会はそれぞれ独立しており、中学生は中学校の、高校生は高等学校の自治を自らの手で執り行う。

学校の規則については、代表委員会が毎年一字一句見直す。「規則を守れるひとになるだけではなく、規則そのものを吟味できるひとになることが、この学校の自治に対する考え方です。多数決が間違った結果をまねく可能性を学ぶこともあります。だから話し合い、少数意見にも耳を傾ける姿勢を重んじます」と言うのは町妙子校長だ。

「十月祭(文化祭)」の運営も、同校の生徒自治力が発揮される大きな場面である。しかし2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインでの開催となった。

「私たち教員は、どんなものができるか、ハラハラドキドキしながら見守りましたが、知らないがゆえの大胆さというのでしょうか、生徒たちは初めてのことにも臆することなく、新しい文化祭の形をつくりあげてくれました。できないことを嘆くのではなく、やれることをやろうという気概が感じられましたね。一方で、やろうと思えばやれたことはもっとあっとも思います。そこはあえて苦言を呈していきたいと思います」(町校長)

中2の後半になると、次年度の自治会幹部メンバーを選出する前提としての話し合いが始まる。どんな学校を目指すべきか、どんな3年生を目指すべきか、そのためにどんな自治会にすべきか、ではどんなリーダーが必要か……と、学年全体での10時間にもおよぶ話合いのなかで、まず自分たちが目指すべきビジョンを明確にしていくのである。そのうえで、幹部メンバー候補が決まり、選挙管理委員会によって選挙が行われる。

個人が自分の損得勘定に基づいて好き勝手なことを考えて投票する多数決民主主義ではなく、本来の民主主義のあるべき姿を体験的に学んでいるわけである。

自治会の幹部は「総務」と呼ばれる。議長、書記、会計の3役で、それぞれ3人いるので、合計9人。彼らが生徒総会や代表委員会をとりしきる。議長の3人に集まってもらった。

書く宿題が多いけど、先生のコメントがうれしい

————議長をやろうと思った理由は何ですか?

生徒A ひとをまとめるのが好きなので、やってみたいと思いました。バレー部にも所属していて、両立できるか不安でしたが、それに挑戦してこその達成感もあるだろうと思って立候補することにしました。

生徒B 最初はやりたくなかったのですが、推薦されて、迷いました。でもやらないで後悔するよりはやってみようという気持ちがわいてきて、人前に立つ経験は将来に役立つかもしれないとも思い、やってみることにしました。

生徒C 私はもともと選挙管理委員会をやっていたのですが、さらに議長に推薦されました。なんでなったかというよりも、なってから気づいたことのほうが大きいように思います。議長の責任は大きいですし、成績も保っていないと追試のために活動に支障を来すこともあるので、プレッシャーを感じたりすることもあるんですけど、やりがいもすごく感じます。

————今年の「十月祭(文化祭)」は例年とは違うオンラインで開催されました。

生徒A 例年だと自分の展示や発表をやることで精一杯になってしまいほかの展示を見る余裕がありませんが、今年はむしろ友達の展示や発表をゆっくり見ることができました。

生徒B オンラインだったからこそ、地方に住んでいる祖父母にも、親戚の従兄弟にも自分たちの活動を見てもらえたのは良かったと思います。でも、ショッキングだったのは、クッキングクラブのお菓子を食べられなかったことです。クッキングクラブが毎年やる喫茶店のお菓子がおいしいんですよ!

生徒C 8月にZOOMで行われた学校説明会で、受験生のみなさんから私たちの学校に対する質問を募りました。10月の文化祭で回答しますという約束で。集まった質問に対して生徒会総務メンバーで回答し、それをPDFにまとめて、オンライン文化祭で公開しました。その課程で、自分たちの学校について改めて客観的に知ることができたと思います。

————なんだかいろいろなものをお持ちいただいたようですね。見せてください。

生徒B これは、国語では夏休みの宿題として出された作者調べのレポートです。みんなのレポートが廊下に貼り出されるので、そこから刺激を受けて、自分のレポートももっと工夫したいと思うようになります。新聞から気になった記事を切り出して、その内容を要約して、自分の意見を書くという活動もあります。それぞれのレポートを先生が丁寧に読み込んで、コメントを書き加えてくれるのがうれしいです。

生徒C 図書委員のひとが中心になって開催される「読書会」というイベントがあります。図書委員のひとや先生が推薦する本を読んで、感想を共有したり、解釈を議論したりします。そのときに読んだこの本『一年四組の窓から』(あさのあつこ著)がとても良くて、印象に残っています。この学校は女子校なので、男の子がいませんが、「男の子がいると学校ってこんな感じなんだ!」みたいなことを想像したり(笑)。国語の授業のスピーチの時間に「私の羅針盤」というテーマがあって、自分の意見をはっきり言葉にするのも楽しかったし、みんなの話を聞いていろんな考え方があることを知れたことも印象的でした。これは、「1年間のまとめ」というレポートです。毎学年の終わりに1年を振り返り、原稿用紙8〜10枚のレポートを書きます。中3では「3年間のまとめ」で、もっと長くなります。先生もしっかり読み込んでコメントをくれるので、先生とのコミュニケーションの場でもあります。この学校では、書く宿題が多いですね。

生徒A 国語の授業は文庫本をそのまま教材にすることが多いです。これは中1の国語の授業で教材として使用した宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』の文庫本です。先生はあんまり板書をせず、口頭で要点を話してくれます。それを生徒たちは思い思いの方法で書き留めます。ひとによってはノートに書きますし、ひとによっては文庫本に直接書き込みます。先生がやり方を決めてしまうのではなく、授業の受け方にそれぞれの生徒の個性が表れるのが面白いです。私は文庫本に直接書き込むのが好きだったので、こんなにマーカーだらけ、メモだらけの文庫本になりました。

————将来の夢や目標があれば教えてください。

生徒C 私は食べたものの素材がわかる特殊能力があるみたいなんです。それを活かして、ただ美味しい料理をつくるだけでなく、スポーツ管理栄養士としてスポーツ選手をサポートしていっしょにオリンピックまで行けたらいいなと思っています。もう一つは、社会の公民の授業が最近すごく楽しくて、社会のしくみに関わる仕事をしてみてもいいかなと思うようになりました。公民の先生が、教科書に書かれていること以外に、実社会の面白い話をたくさんしてくれるんです。

生徒A ちょっとマニアックかもしれませんけど、弁理士になりたいと思っています。知的財産を守ったり、特許を出願したりする仕事です。私もCさんと同じように、公民の授業が大好きなんですけど、いま日本の人口は減り続けていて、衰退していくんじゃないかという話を聞きました。そういう流れのなかで日本社会が国際的な競争力を保つためには、知的財産を守っていくことが重要になるんじゃないかと思うんです。

生徒B 私は小さいころからお花屋さんになりたいという夢がありました。だってお花って、みんなを笑顔にしてくれますよね(笑)。でも、この学校で開かれた「国際理解教室」に参加してからは、国連で働いてみたいと思うようになりました。国連で働いても、みんなを幸せにして、みんなを笑顔にできるかなと思って。それなら、お花といっしょじゃないですか!

大学キャンパスの大自然に囲まれ、おおらかなつくりの校舎の中で、女子校ならではののびのびとした空気に浸り、生徒たちは、思い思いの個性を表現している。しかも4人に3人は内部進学で日本女子大に進む。つまり大学受験勉強のストレスもない。多感な時期の女の子たちの楽園が、西生田の緑の中にあった。

→学校ホームページ http://www.jwu.ac.jp/hsc.html