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(前編)東大との提携で生まれた新教科「海洋人間学」が探究心を刺激

発見!私学の輝き 逗子開成中学校・高等学校
教育ジャーナリスト おおたとしまさ

逗子湾の目の前にある逗子開成中学校・高等学校(筆者撮影)


歴史ある「海洋教育」から「海洋人間学」が誕生

海の目の前にある逗子開成は、1980年代からヨット実習や遠泳実習などの「海洋教育」に取り組んできた。ヨットと遠泳は逗子開成の象徴であり、生徒たちの誇りの源にもなっている。

しかし一方で、その教育的意義はずっと曖昧だった。「心身を鍛える教育の手段として海を使っているだけでした。社会に出てからこの経験がどんな風に役立っているのか、われわれ教員にも把握できていなかったのです」と小和田亜土教頭。教員たちがそんなうっすらとした問題意識をもっていたところ、東京大学理工学部内にある海洋教育についての研究所とのつながりができた。

まず逗子開成の海洋教育が生徒たちに何をもたらしているのか、学術的に調査しようということになった。さらに、ヨットと遠泳だけでなく、理科的な観点にも、社会的な観点にも海が利用できるのではないかという発想から、合教科型の学びのプラットフォーム「海洋人間学」という概念が生まれた。現在、東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターと提携し、随時カリキュラムを拡充・体系化している。

中学生に関しては、年1回、学年ごとに東大の海洋研究の専門家が最新の研究についての講義をしてくれる。

「海洋物理学の先生が、海洋深層循環について話してくれました。海水の垂直方向の移動がなぜ起こるのかは、現在の科学でもはっきりとは証明されていないんだそうです。大人が答えのわからない問題に挑み続けている姿勢を目の当たりにしたことは、生徒たちにとっても大いに刺激になったようです」(小和田さん)

質疑応答の時間には30人くらいの手が挙がった。講義が終わってからも質問の行列に50人くらいが並んだ。「それなら、みんなで研究室にいらっしゃい!」ということになった。実際に後日20-30人が研究室を訪れて、研究の現場を見学させてもらい、さらに、「高校の教科書に載っている海洋深層循環の実験方法よりももっと良い実験方法を考えてごらん」という課題までもらった。

東大の研究者に刺激され探究プロジェクトが発足

それに刺激を受けた一部の高校生たちが自主的に海に関する研究を始め、いまでは「先端的海洋教育・高校生プロジェクト」という組織名で継続的に活動している。まさに主体的な探究学習だ。毎週木曜日と土曜日に活動し、「海洋教育サミット」や「JpGU(日本地球惑星科学連合)」などのセッションに参加したりしている。高1・2の中心メンバー5人が集まってくれた。

----現在メンバーは何人くらいいるのか。

生徒A ここにいるメンバーとあと2人くらいです。あとはときどき顔を出してくれるメンバー7−8人ですかね。

----どんな研究をしているのか。

生徒A 海を利用した発電とか、海洋プラスティックゴミとか……。

生徒B 深層海流とか、深海魚とかもあるよね。

----この活動の醍醐味は何か。

生徒C 実験方法を自分で考えるのが楽しいですね。実験結果が自分の予測と違ったときには「なんで?」っていう感じになって、さらに好奇心がそそられます。

生徒D 実験は楽しいし、うまくいくと嬉しいです。準備は大変ですけれど。

生徒E 自分で実験をして新しいことを発見できると嬉しいです。海洋プラスチックごみを環境保護の観点からとらえる研究はたくさんあるのですが、僕たちはそれを物理学の観点から研究してみたいと思っています。

----どういう意味?

生徒A 海洋プラスチックごみについては国際的な問題になっていますが、水に浮くはずのプラスチックが海底からも見つかるらしいんです。なぜ沈むのかという観点から調べてみたら面白そうだなと思うんです。まだあまり解明されていないようなんです。

----そういう身近なこともまだわかっていないことがたくさんあるんですね。

生徒B 僕は深層海流に興味をもちました。海水が沈むのは説明できるけど、なぜ浮き上がってくるのかがわかっていなかったので、それを解明するためにすでに卒業した先輩たちといっしょに実験を繰り返しました。

----どういう実験?

生徒B 水槽の中に海底の地形を再現して、どう水が流れるかを調べました。「こういう理屈なんじゃないか」というのは自分たちの中ではある程度合点がいく結論が得られましたので、いまは新しいテーマとして波力発電に興味をもっています。まだあんまり注目されていないので、自分たちが研究すればその分野では結構いい発見ができるかもしれないと思って目をつけました。

----へー、なるほど。ほかにはこの活動の醍醐味は?

生徒A 研究成果を第三者から評価されることも励みになります。

----たとえばどういう機会?

生徒A 北海道大学が主催する「海の宝アカデミックコンテスト」というのに海洋ゴミの動き方についての研究結果を発表したら、賞をいただくことができて、嬉しかったです。

生徒C 僕はバイオウェーブに興味をもっています。海藻が波に揺られる力を利用して発電する方法です。それを水槽の中で再現して実験しています。実験結果をまとめてJpGUで発表したいなと思っています。開成祭(文化祭)でもブースを設けて発表したりしたことはあるのですが、学校以外の場所で発表する経験をしてみたいです。

生徒D 僕は将来研究者になりたいと思っています。科学者としての考え方や作法を、この海洋研究から学んで、将来に活かしたいと思っています。

----最後に、逗子開成のいいところと残念ところを教えてください。

生徒E 文化祭は盛り上がるし、映画を見たりするのもユニークでいいと思います。残念なところは、洋式トイレが少ないことですね(笑)

生徒B 中学生のうちは海との関わりが多いのに、高校になるとほとんどなくなっちゃうのがもったいないと思います。

生徒C いいところは、面白い先生が多いことです。それに、男子校だからってところが大きいかもしれないですけれど、友達とわいわいできて楽しい。

生徒A うーん、小学生に伝えるとしたら、女の子と仲良くしたいなら逗子開成はちょっと厳しいかもしれないということですね。

生徒E ほんと、あれよ。俺、5年間同じ年の女子と喋ったことないからね。

----それはなんとかしないと!

生徒A でもほんとにそうなっちゃうんですよ。

----それは学校のせいにしちゃダメでしょ。どんどん学校の外に出て、いろんな活動に参加して、女子と知り合う機会は自分でつくらないと。

生徒E あ、そうか。僕らの責任か。

生徒C さっきから彼の視線が気になるんですけど、え、もしかしてお前カノジョいるの?

生徒B う、うん。

生徒E こういう積極性のあるやつはいけるんですね。

生徒C ちょっとやめときますか、この話。暗くなっちゃうから……。

----大丈夫! がんばれ!

東大や東工大に推薦入試で合格したメンバーも

最後はおまけのオチがついたが、逗子開成の「先端的海洋教育・高校生プロジェクト」からはすでに東大や東工大の推薦入試で合格者が出ている。

「海洋教育がこんな形で生徒たちの主体性を刺激するとは私たち教員も予想していませんでしたから、びっくりしました。教科を教え込むだけでなく、やっぱりちょっと背伸びをさせてみるって大事なことなんですね」(小和田さん)

そこで、高1・2を対象に、土曜講座の一環として「海洋人間学講座」を開設することにした。たとえば2019年度には「わたしたちにとっての『海』とは何か」「海の『探究』をどのように進めるか」「東京湾の環境変遷から学ぶ人と海とのかかわり」の3講座を、東大の教員が担当した。

これまで行事的な意味合いが強かった逗子開成の「海洋教育」が、探究型学習としての意味合いの強い「海洋人間学」へと進化を遂げたのだ。実際、すでに2015年の段階で、逗子開成は文科省の教育課程特例校としての認定を受けており、「海洋人間学」は正式な教科として認められている。人と海との関わりについて探究的に学ぶ学問である。

探究学習は新しい学習指導要領の目玉でもあるが、「自ら調べ発表しなさい」と押しつけられる探究学習は本当の探究学習になり得ない。理念がいくら崇高であったとしても、理念だけを現場に無茶振りするだけでは、いわゆる「ゆとり教育」の二の舞になりかねない。その点、逗子開成では、その独自の環境を活かした独自の探究学習プログラムがすでに始動し、軌道に乗り始めているということだ。

逗子開成のように大海原が目の前に広がる学校は全国でも数えるほどしかないだろう。それをまねする必要はない。しかし、それぞれの学校にその学校にしかない独自の素材があるはずだ。逗子開成の生徒たちが毎日見ている海を特別なものだととらえていなかったのと同じように、あまりに身近すぎてその存在すら普段は意識しないようなものが、生徒たちにとっては探究の対象になり得る。いきなりグローバルな視点で探究活動を始めるのも結構だが、より主体的で切実な探究学習を継続するのなら、素材はきっと、身近で愛着の湧くものがいい。そこからきっとグローバルな視点につながる。

(後編)ホームグラウンドは大海原!? 自作ヨットで航海に出る進学校




→学校ホームページ https://www.zushi-kaisei.ac.jp