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コラム

創造的思考力と高度な語学力を育くむ、21世紀型教育の先進校

未来を見据える学校 工学院大学附属中学高等学校
教育ジャーナリスト 中曽根陽子

いち早く21世紀型教育を推進してきた工学院大学附属中学高等学校。創造的改革に着手してから7年目。その成果が生徒たちの活躍の中に現れてきたようだ。その改革の陣頭指揮をとってきた平方邦行校長先生は、「すでに次の段階に入っている」と言う。そこで、同校が謳う「グローバル教育3.0」とは何なのかを聞いた。

子ども達の20年後を見据えて、進化する21世紀型教育

「2000年過ぎから海外の学校を視察して、日本の知識偏重教育に疑問を持っていた」という平方校長先生。当時すでに海外の先進的な学校ではレクチャー型の授業はどこもやっておらず、その様子を見て、21世紀にはいっても、20世紀の教育が今なお続いている日本の教育に危機感を募ら前任校でも授業改革に取り組んできたそうです。現在行われている教育改革についても、「まだまだ知識の応用レベルで、真の創造的思考力を育てるものになっていない。2020年に行われようとしている大学入学共通テストの中身も20.5世紀型だ」と厳しく指摘します。
遅々として進まない現状に「世の中が変わっているのに、これまでの教育を続けていていいのか」という疑問を感じていたところ、積極的に改革を進めたいという同校に請われて校長に着任し、創造的改革に着手したのが2013年でした。着任後は教員の研修から始め、2015年に、ハイブリッドインターナショナルクラス、ハイブリッド特進クラス、ハイブリッド特進理数クラスという3コースを作り募集を始めました。ハイブリッドとは、多言語・多文化つまり多様性を強く意識し、20年後30年後の未来を見据えた教育を表しているそうで、「例えば2030年頃社会に出て行く子どもたちが、変化をしていく時代を生きていくための基盤を学校教育の中で作って行くことを目標に作ったコースだが、1期生が入学してから5年目。今の段階では未来を見据えた教育が深化と拡大しつつあり、手ごたえを感じるようになってきた。」と平方校長。具体的にはどのような授業が行われているのでしょうか。

ケンブリッジイングリッシュスクールに認定され進化する英語教育

同校は2017年に、日本初のCambridge English Schoolに認定されました。これは、ケンブリッジ大学出版が発行する“Uncover” “Unlock”をメインテキストとして英語教育を行い、ケンブリッジ英語検定で英語4技能の成果を測定する。ハイブリッドインターナショナルクラスでは、英語の授業6時間に加えて理科・数学もネイティブスピーカー教員が、英語で授業を行うイマージョン教育を実施し、CEFRのC1(英検1級相当)レベルの英語力の取得を目指しています。
認定から2年で世界のケンブリッジイングリッシュスクールが参加して行われた「Cambridge Englishスクール・コンペティション2019」で世界一に選ばれたことからも、生徒達がこのプログラムに主体的に取り組んでいる様子が伺えます。使われる教材は身近な話題から、社会問題まで多様な話題をトピックとして取り上げているので、生徒も関心を持って学ぶことができるようです。取材当日、ネイティブの教員による授業を見学しましたが、タブレットやPCも活用して、活発にやり取りをしながら進めていました。

海外大学と協定。日本と海外両方の大学を視野にいれたグローバル...

英語教育に力を入れるとともに、世界大学ランキング(タイムス・ハイヤー・エデュケイション)で100位以内に入るイギリスの名門大学も含む欧米の20大学との海外協定推薦制度があり、海外大学と国内の大学両方のグローバル併願も視野に入れた進路指導も行なっています。本年度(現高校3年)はすでにイギリス・アメリカの4大学への合格を決めているそうです。海外大学進学と日本の大学の併願はなかなか難しいのが現状なので、これは興味深い取り組みです。
授業だけでなく、ユニークな海外プログラムが充実しているのも特徴です。中学3年の夏期には、全員が参加する海外研修を実施しています。特進理数・特進クラスはオーストラリアでホームステイをしながら現地校の授業に参加し、異文化を体験し、理解するプログラム。インターナショナルクラスは、アメリカのスペースキャンプとロボティックスキャンプに参加して、宇宙開発全般に関するさまざまなプログラムを体験したり、多様な国からやってくる同年代の子ども達とともにロボット製作に取り組んだりと、他にない体験をしてくるとか。全員参加のプログラム以外にも、3ヶ月留学、マルタ島短期研修など希望する生徒達が海外に出ていく機会は多数あります。

課題発見解決力を育てる多彩な探究型海外プログラム

シンガポールで開催された、Asian Students Leadership Conferenceに参加した中学2年生(4名)のチームは、アジアの国々か集まった300名の生徒達とアジアの様々な問題について意見交換を重ね、最後にインターネット中毒の解決を図るアプリを考案し金賞を受賞しました。

高校2年生のグローバルプロジェクトは、修学旅行の進化形。アメリカ、カンボジア、タイ、沖縄の4カ国の中から自分で行き先を選び、SDG’sの目標からそれぞれの国や地域が直面する課題を現地での体験を通して学び、解決に貢献するための取り組みを目指すというもの。インターナショナルクラスの生徒は、社会事業家がそれぞれの地域で抱える課題の解決に挑む実践型教育プログラムMOGに参加します。
驚いたことに、こうしたプロジェクトが、学校がお膳立てしたメニューにただ乗るのではなく、生徒主体で進められて行くのです。MOGに参加した生徒は、自分たちでスケジュールを組み、企画を練り、現地で実際に行動をする中で、実践的なビジネス戦略や問題解決能力を身につけられたと言います。
この学校の海外プログラムは、単なる語学研修や海外体験ではなく、世界をよくするために、自分にはなにができるのかという意識までも育てる取り組み。まさに、問題解決型授業=PBL(プロジェクトベースドラーニング)の最たるもので、海外をフィールドにした探究学習になっていると感じました。来年には、世界50カ国180校からなる私立学校連盟ラウンドスクエアの正式な会員になるので、益々海外とつながる機会が増えることでしょう。

電子図書館、デザイン思考の授業など他にないユニークな取り組み

通常の学校生活の中にも探究学習の機会は数多くあります。ユニークな取り組みとして、デザイン思考の授業があり、この日はちょうど中学3年生が、図書館で小説を作っていました。生徒達は、数ヶ月かけてこのプロジェクトに取り組みます。まず読書をしながら小説の構造を学び、ビブリオバトルで作品の分析を行いながら、自分の作品のあらすじを考えて執筆。作品は電子書籍化して学校の電子図書架に収録されます。
この学校の図書館は日本の中高では初の電子図書館。教職員と生徒全員にカード(IDパスワード)を付与し所有のiPadはもちろん、個人のPCやスマホからもアクセスして、洋書を借りることができます。また、3Dプリンターや映像製作などの設備も備えたFabラボとしての機能も備えており、施設面からも、創造力を育てる探究学習を支えているのです。

隣には工学院大学があり、大学の先生によるプログラミングの講義や探究論文の指導など、高大連携も広がっています。
このように、現時点で考えられる限りの、先進的な教育を展開している工学院大学附属中学校。遠方ということもあり、現時点で入学時の偏差値はそれほど高くはないですが、偏差値の枠組みの外にいる帰国生や国内インターナショナルスクールで学んだ子供たちがそれなりにいることを感じた学校訪問でした。八王子駅からの直行バスに加えて、新宿から学校までのシャトルバスも出して利便性を高めています。
受験勉強の型に染まっていない子ども達が入学している可能性が高く、ここから、どんな人が育って行くのか、これからが楽しみな学校の一つです。

●中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表

教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。
オフィシャルサイト  http://www.waiwainet.com/
マザークエスト  https://www.motherquest.net/