コラム

想像を超える「ダイバシティ」社会の到来を見据えた、ICT×グローバル×英語教育

未来を見据える学校 関東学院六浦中学校高等学校
教育ジャーナリスト 中曽根陽子

のどかな環境でのびのび過ごせる伝統校というイメージだったが、ここ数年、ICTを活用したグローバル教育と英語教育に力を入れて、大きく変化していると聞いて訪ねてみた。「発展目覚ましいアジア諸国に伍していかなくてはならない子ども達に、将来を見据えて必要な力を身につけさせたい!」と熱く語る黒畑勝男校長に具体的な取り組みを聞いた。

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10年後20年後、日本はどうなっているかイメージできるか?

 のっけから「学校教育は何を見つめるべきか、学校の窓から生徒達にどんな景色を見せるのか」という黒畑校長の熱いメッセージから始まった今回の取材。5年前に現職に就いて以来、まず教職員の意識改革を行なってきたという黒畑校長。「国内にいると豊かさの横ばいが続いていて実感しづらいが、実際は、日本は発展停滞国で、このまま推移すると後退国になってしまう。しかも、今後国内人口は減り、子どもたちが社会に出る時に、仕事の椅子を争うのは、母国語と英語、そして日本語を話すトリリンガルの高度人材として日本に入ってくるアジア人だ。中途半端に大学合格実績を出すことを目指すような近視眼的教育ではなく、子どもたちが社会に出ていく10年から20年後の近未来をイメージして、グローバルスタンダードの教育を行なっていかなくてはならない」と生徒達が今後出会う現実について、データを提示しながら解説されます。
 グローバルスタンダードな教育とはなんなのかと質問すると、「それは、まず生徒の視野を広げ、意欲を掻き立てること。そして、アジアでの活躍をイメージして、コミュニケーション力を育てることだ」と言います。
 ここでいうコミュニケーション力とは、英語ができるということではなく、英語をツールとして多様な価値観の人と協働していくための力を指すのでしょう。今大企業の中にあっても、指示を待っているだけではダメで、課題意識を持って新しい価値を創造するアントレプレナーシップが求められていますが「そうした力の基礎を育てるのは、中学生の時期が大事。そのために、従来型の定型的な学びではなく、さまざまな体験を通した仕掛けが必要だ」と黒畑校長。では、どのような仕掛けを行なっているのでしょうか。

一人一台のPCを使って、授業のICT化を推進

 まず整えたのが、ICTの環境です。2015年から全教室にWi-Fi環境を整え、2018年に、中2以上は、一人一台のクロムブック(ノートPC)を持たせて、自主学習教材「すらら」を導入。授業でも活用し、双方向型の探究型学習を行いながら、思考力・表現力が問われる大学入試改革にも対応をさせていきます。(2020年から、中1の2学期からPCを導入)

 その一つの取り組みが、中2・中3を対象とした地球市民講座。これは、グループワークで様々な国の状況を自学し、SDGsの視点を取り入れながら地球全体の課題についても考え、文化祭で全員が発表するという取り組み。これにより、多文化共生への心構えを培うのが目的です。

 また、2018年から朝日中学生新聞電子版の記事配信を日本で初めて採用して、文章力向上に向けた取り組みを始めました。これは、自然科学や社会科学など多様な分野の記事を読み、そこから読み取れる事実と、それに対する自分の意見をまとめるというもの。この作業を通して、資料の読み取りや対話形式の課題に対応できる力、クリティカルな読解力や記述力を中学生のうちに身につけることを目指しているようです。

英語は生きるための力。多彩なコンテンツを英語で学ぶ

 さて、将来グローバル社会に出て行かなくてはならない子ども達にとって、英語を使ったコミュニケーション力は必須のスキルですが、残念ながら従来の英語教科学習では生きた英語力はなかなか身につかないのが現状ではないでしょうか。
 関東学院六浦では英語教育をどう捉えているのかを聞くと「本校では、英語は『教科』ではなく『生きるための力』と捉えている」という答え。
 特徴は英語を学ぶのではなく、英語で学ぶ授業。ナショナルジオグラフィック社がコンテンツを提供している教材を使い、生活に関係する内容を「英語」で学びながら、話題の中で使われる語彙や表現を覚えて、英語を必然的に習得していくCLIL(クリル:Content and Language Integrated Learning)という学び方です。
 関東学院六浦には、母語が異なる6カ国の多国籍の外国人教員GET( Global English Teachers)が常勤として教えています。担当するクラスを定期的に交代することで、多様な英語に触れる機会を作っているのも特徴です。これは、同じ英語でも出身によって、発音や話し方が違うことを実感させるのが狙いだとか。
 中学生の英語の授業は、外国人教員と日本人教員が2人1組で担当するTTが中心。1年生は週6時間の英語の授業のうち5時間をTTで行いますが、英検3級以上に合格している生徒や高いリスニング力・スピーキング力を持っている生徒は、通常のクラスとは別の取り出しクラスで授業を行っています。

 大学入試での外部検定試験の導入は見送られましたが、「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能をバランスよく育成することが大切なのは変わりません。この学校の英語教育は、4技能の中でも「聞く」「話す」機会を授業中にも多く取り入れながら、生きた英語を学ぶことを目指しているのです。
 また、放課後のクラブ活動までの時間を活用した校内英会話教室(有料)もある。学内のGET教員が作成した教材を使って、外部講師が個人に合わせたレベル別レッスンを行なっており、やる気のある生徒はさらなるレベルアップを目指すことができます。

「世界を体験」する多彩な選択制体験行事で生徒の心を揺さぶる

 このように、生きた英語を身につける教育に力を入れているのですが、私がなるほどと思ったのが、多彩な選択制体験行事があること。なぜなら、そもそも、「もっと話せるようになりたい!」「英語を学びたい!」という気持ちは、実際にコミュニケーションを取りたい相手がいて初めて出てくる感情だと思うから。しかも、特に心が柔らかい時期に、異文化社会の中に身をおき、多様な人々と交流を持つという経験をすることは、さらに生徒達に新しい視点や考えを生み出すきっかけとなるはず。ですから、「学校で教育が完結できる時代はすでに終わっている」として、外に出て行く機会をたくさん設けているのが、この学校の教育のもっとも大きな魅力だと感じました。
 具体的には、アラスカ大学で教えている日本人教員から解説を受けながらオーロラ観測などの自然体験をするアラスカ研修や、フィリピン・オルティガスでの8週間の語学研修など、テーマごとに適齢学年に行う学年横断型の選択制体験行事がいくつもあります。
 その一つ、カンボジアサービス・ラーニング研修は、カンボジアの小学校や中学校を訪問して交流し、教育ボランティアを経験するというもの。生徒達は、カンボジアの大量虐殺などの暗い歴史や文化についても学んだ上で、現場でさまざまな現実を見聞きし、活動を通してリアルな学びをしてきます。

 こうした選択制体験行事を重ねた結果、短期・長期の留学をする生徒の数が飛躍的に増えたという。さらに、そうした生徒の中から、将来を見据えて、オセアニアやアジア圏(台湾・マレーシア)、ハワイの大学進学を目指す生徒達も出てきています。しかも、彼らは従来の学力的に言えば中間にいる生徒達だそうです。やはり体験を通して獲得する学びには、人を動かす力があるのでしょう。実際に体験を重ねる中で、もっと学びたいという意欲が芽生え、その結果いわゆる従来の学力を底上げすることにつながったのだと感じました。
 「主体的に歩む力をつけないとこれからは苦労するし、今後はどこに行っても多文化多様性の社会になる。その中でしっかりとした人生を歩む力を育むことを目指す」という黒畑校長。特に思春期はそれまでの概念を打ち壊す時期。大人の考え方を形成していくときに、できるだけ多くの広い世界を見せて、多文化共生を肌で感じること。その中で自分も生きることになるということを知ることが、今後社会に出て生きる上では必要なことだという意思の元に、生徒が主体的に研修先を選べるようにさまざまなプログラムが組まれています。さらに生徒達が自主的に研修を企画できる制度もあります。実現するには、5名以上の仲間を集める。安全を確保できるか、明確な研修目的があるか、旅行代理店との交渉、保護者への説明などいくつもの条件をクリアしなくてはなりませんが、そのプロセス自体が研修になっているし、この企画を実現できたら、生徒達は大きな自信を持てるでしょう。ぜひたくさんの企画が実現してほしいと思います。

 これからは、ますます主体的に生きることが求められる時代に入ると思いますが、この学校では、生徒の主体性を身につけさせるために、非日常の体験の機会をたくさん作って、生徒の心に種まきをしていました。
 関東学院六浦はキリスト教の精神をもって「人になれ 奉仕せよ」という校訓を掲げていますが、「生徒達には、『世界規模で地球市民として、奉仕せよ』と伝えている」という言葉に、この学校の「グローバル教育」が目指している方向が表現されていました。

●中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表

教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。
オフィシャルサイト  http://www.waiwainet.com/
マザークエスト  https://www.motherquest.net/