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コラム

ICTをフル活用して、一人ひとりの才能を引き出す

中曽根陽子の未来を見据える学校ウォッチ
北鎌倉女子学園

音楽コースが有名なおとなし目の伝統女子校という印象だった北鎌倉女子学園が、ICTを活用して先進的な教育を行う21世紀型学校に大変身している。そんな情報を聞きつけて取材してきました。
今回お話を伺ったのは、2020年から学園長に就任された、元開成中学高等学校長、東大名誉教授の柳沢幸雄先生。ハーバードでも教鞭を取り、アクティブラーニングに精通されている先生も太鼓判を押す、その教育内容と...

全員Aplle認定ティーチャー ICTの力で生徒主体の学び

北鎌倉駅から歩いて10分ほど。急坂を登った山の上に建つ学園の正面玄関に掲げられていたのが、あのリンゴのマークのプレート。「Apple Distinguished School」の認定証です。
これは、イノベーション、リーダーシップ、優れた教育の​全てを兼ね備え、Appleのテクノロジーを活用して生徒の​クリエイティビティ、協働学習、批判的思考力を高めている学校として認められた証です。
全館WiFi整備、ひとり1台iPadを貸与という環境を整備。各教室には電子黒板機能つきのプロジェクターとApple TVが設置され、教師にはiPadとMacBook Airが1台ずつ支給されているそうですが、その贅沢な環境を使ってどのような授業が行われているのか、実際に見学させてもらいました。

一人一台のiPadを貸与して、アクティブ・ラーニング

どの教室でも、生徒たちはノートを持たず、iPadに直接書き込んでいます。それを瞬時に電子黒板に映し、互いに共有しながら学びあいをしているクラス。
向き合ってグループワークをしたり個別学習をしたりと、内容によってレイアウトを自在に変えながら進行するクラス。生徒たちも手慣れた感じで、iPadを操作しながら、分からない事があれば、すぐに調べて、それを友達と共有しながら話し合い、積極的に授業に参加していました。

どんなソフトを使用するかは先生に任されていて、以前よりオリジナル教材をどんどん授業に活用するようになったと言います。その一因がICTの環境が整ったことで、紙を使わなくなったため、仕事が効率化され時間ができたこと。その分を教材の開発や、授業研究に充てられるようになったのです。

また、ICTを活用することで、一方通行の授業スタイルから、生徒が主体的に考え話しあう双方向型の授業に切り替わり、レポート・動画などを作成し、プレゼンテーションする機会も格段に増えていきました。

アクティブ・ラーニングは、脳動学習

今学園のすべての授業を検証しているという柳沢先生に、アクティブ・ラーニングのメリットについて伺いました。
柳沢先生は、「アクティブラーニングは脳動学習だ」と言います。つまり、教師が一方的に知識を与えられ詰め込む学習ではなく、自身の脳を動かして、考え発信する活動。耳や目から入ってきた情報を一旦頭の中で定着しやすいように編集し、それを発信することによって、初めて知識は定着し、さらに発展するのです。そう言えば、声にだして繰り返したり、人に説明すると理解が深まったし、覚えられたな〜。
反対に残念なのが、「勉強したことを再現できない」勉強法。きっと皆さんも、先生が板書したことを一生懸命ノートにとっていても、後からそのほとんどを忘れてしまっていたという経験はあるはず。勉強したことが再現できない…。これは脳の動かし方に理由があったのか〜。今更ながら、目からウロコでした。

学校教育の中で一人ひとりの発信を可能にして脳動学習を行うには、少人数教育が最適だが、コスト面で課題がある。また、学校の果たす役割は知育だけではなく、集団の中で生きる力を身につけること(生育)である。それにはある程度の規模の集団が必要。
「その矛盾を解く鍵が、ICT技術だ」と柳沢先生。
北鎌倉女子学園の脳を動かす学びは、次の3つ。
① 振り返りの小テスト 授業の重要ポイントを1問だけ出題し、昨日の知識の定着を図る 
② グループディスカッション リラックスした雰囲気で意見を交換し、多様な意見に触れることで思考を深める。
③ プレゼンテーション 脳動学習の主体性。話のキーワードを抑えながら論理的に話す訓練をする。
この学校の生徒たちは、ICT技術を使いこなし脳動学習をすることで、生きた頭の使い方を身に着けていくのです。

プログラミングラボでロボットやドローンを動かす

ICTを活用した教育をさらに充実させるために、教室をすべてリニューアルしました。教室にはプロジェクターを設置して、電子黒板に。また、キャスター付きの机と椅子に一新して、アクティブな学びに対応できるようになっています。
特別教室もいくつか見せてもらいました。

【プログラミングラボ】
中学は、先進的な学びの時間。高校は情報の時間を使って、この部屋でプログラミングをしてロボットを動かしたり、ドローンを飛ばしたり、外部講師によるプロジェクションマッピングの授業などが行われます。
どちらかというと、文系女子が多い印象だった学校ですが、3Dプリンターまで設置されたこの空間でこれからどんな取り組みが行われていくのか、楽しみになりました。

English Room】
昼休みや放課後にネイティブ教員と英語で会話したり、英語ゲームや海外映画を楽しむ部屋。ときにはクッキングやパーティーイベントも行います。英検やTEAPなどの英語資格のトレーニングを受けることもできます。
北鎌倉女子学園は、殆どの生徒が推薦入試やAO入試などで大学に進学するため、受験英語ではなく、生きた英語力を身につけることを重視しているそうです。いわゆる4技能ですね。また、プロジェクト学習の機会も多く、取材時には、英語の授業で、中学生が「鎌倉CM選手権」に応募して、英語版の動画を作成していました。つまり英語を学ぶのではなく、英語を使って学んでいるのです。

【音楽校舎】
音楽コースがある学校ならではの施設です。かつて中学校の校舎だったところを完全リニューアル。ピアノを備えた防音効果の高い練習室が12室。レッスン室が9室作られました。生徒たちはここで、個人練習をしたり、マンツーマンレッスンを受けることができます。

生徒一人ひとりを大事にしている学校

そして、私が一番いいなあと思ったのが、実は職員室の作りです。
廊下との壁を取り払い、カウンターを設けたオープンスペースになっていて、生徒たちは通りすがりに先生に声をかけ、そのまま立ち話もできるし、反対側に設けられたスペースで個別相談や指導を受けることもできます。

そして、先生の休憩室もありました。楕円形のテーブルが置かれたオープンキッチン付きの部屋で、先生方がコーヒーを飲みながらリラックスして話ができるようになっているのです。こういうスペースは、海外の学校には必ずあるのですが、日本では見たことがなかったので、感激しました。なぜなら、先生同士が垣根なく話し合える雰囲気づくりを感じたからです。

実際、この学校では、ICT教育をとりいれることで、学校にいる時間が生徒にとって最良の時間となるために、先生方が4つのグループ(ICT、探究、ADS、授業改善)を作って、定期的にミーティングを行い、職員会議で振り返りや提言を行っているそうです。
今回の取材を通して、学校が一丸となって、学校を良くしていこう。そのためにICTを活用しようとしていることが伝わってきました。

今泉校長先生にもお会いできたので、この学校の良いところを伺うと、開口一番「教師と生徒の距離が近いところです」とおっしゃいました。
柳沢先生もこの学校に来てまず感じたことは、「生徒の仲がいい。先生が生徒を大事に扱っている」ということだったそうですから、間違いないのでしょう。

最後に柳沢先生の言葉を紹介しましょう。
「開成は、競争に打ち勝ってきた子どもたちに、勉強という軸だけでない、それぞれの軸をみつけられる場所を用意し、先輩が後輩を導いていく。北鎌倉では、競争を意識させない環境、生徒を煽らない対応で、繭玉から優しく糸を引き出すように生徒を伸ばしていく。アプローチは違うけれど、一人ひとりの子どもたちが持っている素質を伸ばしていくという点では同じ方向を見ている学校です」
この学校が、これからICTという新しい教育ツールを生かして、どのように生徒たちの資質を伸ばしていくのか、楽しみです。

●中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表

教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。

近著に『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)などがある。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」 マイナビ中学受験サイトで「しあわせな中学受験にするためにしっておきたいこと」「自分のやりたい!がある子はどう育ったのか」を連載中。
オフィシャルサイト  http://www.waiwainet.com/
マザークエスト  https://www.motherquest.net/