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ロケット大会やプログラミング大会で中高生は何を学んでいるのか?

発見!私学の輝き 普連土学園中学校・高等学校(後編)
教育ジャーナリスト おおたとしまさ

ロケット甲子園で優勝した理科部ロケット班のメンバー

(前編)讃美歌も説教もない「沈黙の礼拝」に込める教育理念

2年連続「国際ロケット大会」出場権獲得

普連土学園中学校・高等学校は、1学年が約130名の女子校。都会のど真ん中にあるが、大通りからは奥まった丘の上にある、隠れ家的学校だ。「普連土」は、キリスト教フレンド派の思想をベースとする学校であることを意味する。こぢんまりしたイメージの学校ではあるが、このところ連続して国際大会に出場している課外活動が2つある。

1つめは理科部ロケット班。2019年、2020年と2年連続で「国際モデルロケット大会」への出場権を獲得した。

インタビューに答えてくれたのは、2019年の「ロケット甲子園」で優勝し、2020年の「国際モデルロケット大会」への出場権を獲得したチームのメンバー、江川結菜さん(高1)、中川香乃さん(高1)、向井琴羽さん(中3)の3人だ。

2019年10月に「ロケット甲子園」が開催された。当時、江川さんと中川さんは中3、向井さんは中2。全出場チームのなかで最年少チームであり、最少人数であり、また唯一の女子だけによるチームだった。「ロケット甲子園」で競われるのは、以下の3つ。

(1)打ち上げの高さを800フィートにできるだけ近づける。800フィート(約244メートル)から離れた分だけ減点。
(2)滞空時間は40〜43秒の間に収める。そこからずれた分だけ減点。
(3)ロケットに搭乗する宇宙飛行士に見立てた生卵を無傷で回収すること。少しでもひびが入れば失格。

高度と滞空時間がぴったりになるようにロケットの重さやパラシュートの形態を調整する。ロケットの構造が歪でまっすぐに飛ばなければ当然計算も狂う。

性格も特技も違うからうまく役割分担できた

————「ロケット甲子園」で優勝できた要因は何か。

中川 私たちは性格も特技も違うバラバラなチームです。うまく役割分担できたことが良かったと思います。私はロケットの重さと高度の関係をパソコンでシミュレーションしたり、パラシュートの滞空時間を計算したりしました。

江川 私は手先が器用なので、ロケットのボディーの制作を担当しました。

向井 私は先輩たちの分析結果をもとにして、ロケットの設計図を描きました。

江川 実は2018年の大会では私たち、惨敗しました。ただし、普連土の先輩たちのチームが優勝して、国際大会に出場しました。一度負けた悔しさをバネにして、さらに先輩たちからのアドバイスをもらって、2回目に雪辱を果たすことができました。

中川 私たちのチームの強みは、実験の多さにもあると思います。毎週火曜日と土曜日に活動していますが、毎週のように打ち上げ実験をします。

向井 さまざまな試行錯誤を経て、究極の1つをつくりあげるんです。

江川 顧問の先生は、大会の情報などを見つけて私たちに教えてくれます。そうやって経験値を増やしていくことも大切だと思います。

————現在はどんなことに取り組んでいるのか。

江川 イギリスでの開催が予定されていた2020年度の国際大会はコロナ禍で中止されましたが、もし2021年に国際大会が開催される場合は、私たちに日本代表としての出場権があります。来年国際大会が開催されるかはわかりませんが、時間はあるので、国際大会でのプレゼンで使用するための模型をつくっています。

向井 せっかく時間ができたので、世界に通用するものをつくりたいと思います。


————なぜ理科部ロケット班に入ったのか。将来の夢は何か。

江川 小学生のとき、普連土の学校体験ツアーに参加して、理科部ロケット班の活動を知りました。それがきっかけで普連土でロケットをやろうと決めました。そして実際にロケットを飛ばしてみて、いまは航空宇宙関係の研究開発に関わる仕事に就きたいと思うようになりました。

向井 もともと機械とか電気とかが好きでした。いまは宇宙工学系に進もうと思っています。できればJAXA(宇宙航空研究開発機構)のようなところで働きたいです。

中川 私は設計するのが好きなので、宇宙にこだわらず建築系に進んでもいいかなと思っています。

プログラミングの国際大会に3度出場

次に「Friends Fab」の活動を見学した。こちらは名目上は部活ではなく、世界最大規模の国際的なロボット競技会「ファースト・レゴ・リーグ(FLL)」に出場するための「教養講座」という扱いである。「Friends Fab」は日本代表に、2017年、2019年、2020年の3度にわたって選ばれている。FLLは3つの部門の総合成績で勝敗が決められる。

(1)ロボット部門……「LEGO(R) マインドストーム」という機材を用いてつくったロボットをプログラミングで動かし、時間内での得点を競う。競技の得点とロボット製作の意図を説明するプレゼンの得点の総合で評価される。

(2)プロジェクト部門……与えられたテーマに沿って自分たちで社会問題を発見し、その解決策を審査員の前でプレゼンする。

(3)コアバリュー部門……自分たちのチーム全体の価値をプレゼンする。

世界大会に出るためには、東日本大会を10位以内で通過、全国大会を11位以内で通過しなければならない。Friends Fabは、2019年の東日本大会を10位でギリギリ通過、全国大会では総合3位の好成績で通過し、世界大会への出場権を獲得した。しかしコロナ禍で、世界大会は中止になった。

本来であればブラジルで開催される世界大会に出場していたはずの高2のメンバー9人のうち7人に集まってもらった。どうして普連土のFriends FabはFLLで好成績が残せるのか、リーダーに聞いた。

「先生たちに頼らず、できるだけ自分たちでやろうとすることが私たちの強みだと思っています。中3で出場したときには私たちは2チームに分かれて出場しました。でもいずれのチームも東日本大会ですら下から何番目かという残念な成績でした。そこで高1のときには1チームにまとまり、世界大会出場を目標にしました。国際大会に出ていた1学年上の先輩たちからのアドバイスを受けて、昨年度は国際大会への出場権を獲得できました」

Friends Fabの今後の目標は何か。

「残念ながら世界大会はなくなってしまったので、いまは後輩の指導に当たっています。1つ下の学年はメンバーが20人以上います。2つ下の学年は30人以上います。学校体験会でFriends Fabの活動を見て入学を決めてくれた生徒たちも多いんです。だから今後はさらに好成績を残せる可能性が高いと期待しています」

学んだのはプログラミングよりもチームビルディング

Friends Fabでの経験と将来のビジョンについて、メンバーの一人一人に聞いてみた。

ひなこ 大会とあんまり関係ないんですが、メディア関係の仕事に就きたいと思っています。

はるか ものづくりが好きなので、Friend Fabにも興味をもちました。この2年間の活動が将来につなげられるんじゃないかと思います。

ひな みんなで1つのことをやりとげることが昔から好きでしたが、この2年間でもみんなで新しいアイディアを生み出すことが本当に楽しくて、将来も新しいものを生み出すようなことができればいいなと思っています。

りこ 私はバリバリ文系人間なんですが、この活動を通して自分から動くことの楽しさを知りました。将来はもっと広い舞台で活動したいと思うようになりました。

かな 私はもともとリーダーをやるのが好きでしたが、このFriends Fabのリーダーは、いままで経験した単なる組織上の意味でのリーダーとは違う役割を求められていた気がします。

りの 私はものづくりが好きで、ここではロボットの製作を担当しましたし、理科部のロケット班にも所属していました。そういう世界って素敵だなって憧れています。

れえな この活動を通してわかったことが1つあります。チームの一員であるならば、自分から積極的に活動しないとチームが機能しないんだなということです。言ってしまうと当たり前のことなんですけど……。せっかく意見をもっていても口に出さないでそのままにしていると、相手もそれを引き出すのに余計なエネルギーを使わなければいけなくなるし、チームがぐちゃぐちゃになります。だから自分から積極的に動かなくちゃいけないんだということに気づかされました。

理系のマニアックな話が聞けるのかと思ったら、多くの生徒の口から出てきたのは、チームワークやコラボレーションの大切さだった。

以下、蛇足。

もし社会のみんなが自分こそ勝ち組になろうと思っていたら、社会はあっという間に崩壊する。逆に社会のみんなが自分のもてる力を他者のために使おうとすれば、社会は一層強固になり、社会の総力は向上する。つまり人類の生存戦略は競争よりも共栄だ。頭では誰でもわかるはずだ。

しかし、それをいきなり社会のレベルで実感することは難しく、小さなコミュニティーの中で経験していくしかない。子どものうちにこのような体験をするシステムをもたない社会は長い目で見て衰退するに違いない。

それなのにいま大人たちは、“変化の激しい時代を生き抜くために”という文脈で子どもたちを脅し、ますます競争を煽っていないだろうか。教育改革もそういう文脈で語られているように私には見える。それがますます将来に対する不安を大きくしているのではないだろうか。悪循環を止めなければいけない。

→学校ホームページ https://www.friends.ac.jp