ミライ教育Watching座談会【探究学習・グローバル教育編】（25年7月実施）Vol.2

私学の教育者・先生方をお招きし、「ミライ教育Watching座談会未来の教育を語る（探究学習/グローバル教育編）」を開催しました。

近年、教育のあり方は変化し、知識の暗記に加え、思考力・創造力・問題解決能力が求められる時代となっています。座談会には各私学の教育者・先生方が集まり、未来の学びについて活発な議論が交わされました。受験を控える受験生や保護者の皆様にとって、進路選択の参考となる貴重な機会となるでしょう。

（主催・ファシリテーター：ミライクリエ）

今回の記事は、Webにて２部構成でご紹介しています。

ミライ教育Watching座談会【探究学習・グローバル教育編】（25年7月実施）Vol.1はコチラ

ミライ教育Watching座談会【探究学習・グローバル教育編】（25年7月実施）Vol.2はコチラ

【城西大学附属城西中学・高等学校】 αゼミ（高校1年～3年希望制）

城西大学附属城西のαゼミは予測不可能な未来社会で活躍できる人材を育成するキャリア特別講座です。外部団体と連携して、様々な分野で直面している社会的課題を発見し、徹底的に探究していくことで、課題解決力やキャリアプランニング力が養われます。αゼミに参加する生徒の多くは総合型選抜入試や学校推薦型入試を視野に入れ、難関大学合格を目指しています。αゼミに所属する高校2年生2名が、食品ロスの中でも「過剰除去」に着目し、社会課題の解決に取り組んでいます。過剰除去とは、見た目や形の理由で、食べられる部分まで捨てられてしまうこと。生徒たちはこの問題を広く知ってもらうため、他校の生徒たちと共に大学で開催された「SDGs実践発表会」にも出展し、大きな反響を呼びました。さらに、本校食堂を運営する公誠総合サービス株式会社と連携し、廃棄予定の野菜を活用した「ベジスクマフィン」を考案・開発。野菜の栄養や甘みを活かし、家庭でも作りやすいレシピに仕上げました。食堂で販売会を実施し、多くの生徒や教職員が購入。「美味しく食べながら、社会課題に目を向けてもらえたら嬉しい」という想いが込められた活動は、食品ロス削減への一歩として大きな意味を持ちます。身近なところから社会を変える力を信じて、今後も挑戦を続けていきます。

画像：城西大学附属城西　αゼミの様子

【かえつ有明中・高等学校】 帰国生教育プログラム

かえつ有明は、帰国生が自然に学び、成長できる環境づくりに力を入れている学校です。現在約350名の帰国生が在籍しており、学校全体で彼らを支える体制が整っています。教育の基本理念は、日本人としてのアイデンティティを大切にしながら、国際人としての素養を育むこと。帰国生専用のクラスを設けず、通常の学級で多様なバックグラウンドを持つ生徒が共に学ぶことで、互いの文化を尊重し合う姿勢が自然と育まれます。英語教育においては、独自の帰国生英語プログラムを導入。Honorsクラスではネイティブ教師が週6時間、LanguageArtsとPhilosophyを担当し、高度な英語力を養います。Advancedクラスでは、より基礎的な内容で英語力の土台を築きます。生徒のレベルに応じた柔軟な指導が特徴です。放課後には、国語・数学・社会・理科の補習講座を任意で受講可能。授業で理解しきれなかった内容を丁寧に補い、学習の定着を図ります。海外で培った学習スタイルを活かしながら、日本の教育にスムーズに適応できるよう支援しています。進路支援も充実しており、国内の難関大学はもちろん、海外大学への進学希望にも対応。個別相談や情報提供を通じて、生徒一人ひとりの目標に寄り添ったサポートを行っています。かえつ有明は様々なバックグラウンドを持った生徒同士がともに学び合うことで、グローバルな視野を持つ人材の育成に取り組んでいます。生徒たちは多様な価値観や考え方を持った仲間と、時にはぶつかり、時には励ましあいながら、未来への可能性を広げています。

画像：かえつ有明　 帰国生（国際生）パンフレットより

【西武学園文理】 ガチ・プロジェクト

西武学園文理中学・高等学校では、2024年より新たな教育プログラム「ガチ・プロジェクト」がスタートしました。このプロジェクトは、生徒が主体的に学び、実社会とつながる探究的な活動を通じて、非認知能力を育むことを目的としています。「ガチ・プロジェクト」は、メディアマネジメント（収録サポート）、文理広報（学校説明会運営、公式ＳＮＳ運営、パンフレット・ウェブサイト制作）、ハロウィンイベント、制服デザイン、商品開発、スポーツデータ分析など、多様なプロジェクトが用意され、生徒は自分の興味のあるものを選択しています。それぞれの分野で専門家の指導を受けながら、実践的なスキルを身につけることができます。「文理広報プロジェクト」は、西武学園文理の魅力を生徒自身が発信する活動です。学校説明会の企画運営、SNSの情報発信などを通じて、広報スキルや表現力を実践的に学びます。生徒の視点で学校を伝えることで、主体性や協働力を育み、将来のキャリア形成にもつながる貴重な経験となります。また、「ハロウィンイベントプロジェクト」では、狭山市との連携により地域住民を招いた大規模イベントを開催します。生徒は地域とのつながりを深めながら、協働の大切さを学ぶことができます。校長のマルケス先生は、生徒の主体性を引き出す「生徒中心型教育」を提唱しており、「ガチ・プロジェクト」はその理念を体現する取り組みです。生徒が自ら考え、行動することで、未来を切り拓く力を育んでいます。

画像：西武学園文理　ガチ・プロジェク ト「文理広報（説明会体験講座）」 の様子

未来の教育のあるべき姿に関する考えを教えてください。

【マルケス先生】今、教育の現場は大きな転換期を迎えています。デジタル技術の進化、グローバル化、そして子どもたちの生活環境の変化。こうした流れの中で、学校の役割もまた、従来の「知識を教える場」から「人間を育てる場」へと変わっていく必要があります。現在、勉強はスマートフォンやタブレットを使って、いつでもどこでもできる時代です。世界中の大学の講義がオンラインで受けられ、AIが個別に学習をサポートしてくれる。こうした環境の中で、学校が「勉強だけ」を提供していては、子どもたちにとって魅力ある場所にはなりません。では、学校が提供すべき価値とは何か。それは「人との関わり」や「感情の理解」「自己表現」といった、人間らしさを育む体験だと私は考えています。AIと人間の先生が共存する教室。AIが学習の個別最適化を担い、先生が子どもたちの心に寄り添い、関係性を築いていく。そんな未来の教室が理想です。また、今の子どもたちは人間関係の数が減り、孤独や不安を抱えやすくなっています。公園で友達と遊ぶ時間も減り、家庭でも一人で過ごす時間が増えている。こうした背景から、精神的なケアの重要性が高まっています。

海外では、学校にメンタルサポートルームやリラクゼーションスペースが整備されているのが一般的です。中国では、どの学校にも「心の部屋」があり、子どもたちが自由に利用できます。さらに、SNSの影響も見逃せません。子どもたちは常に誰かと比べられ、「自分は劣っている」と感じてしまう。こうした「SNSうつ病」とも言える現象に対して、学校はもっと積極的に対応すべきです。SNSとの付き合い方、情報の見極め方、心の守り方。これらを教えることも、現代の教育の一部だと考えています。教育は「型にはめる」ものではなく、「個を支える」ものです。一人ひとりの違いを認め、それぞれの成長を支える場へと、学校は変わっていかなければなりません。未来の教育とは、デジタルと人間の心の両方を理解し、子どもたちが安心して自分らしく生きられる力を育むこと。そのために、私たち教育者も日々学び、変化していく覚悟が必要です。

【神杉先生】教育の現場は、今まさに大きな転換期を迎えています。子どもたちの価値観や生活環境が多様化する中で、学校の役割もまた、従来の枠組みを超えて再定義されるべき時代に入っていると感じています。私は、学校とは単なる知識の習得の場ではなく、人と人とが関わり合い、互いに育ち合う場であるべきだと考えています。デジタル技術の進展により、個別最適化された学びが可能になった一方で、対面での関係性や五感を通じた体験の価値が改めて問われています。特に、自然環境の中での活動や、身体を使った学びは、子どもたちの感性や人間性を育むうえで欠かせない要素です。もちろん、ICTの活用は今後の教育において不可欠です。遠隔地の教育資源を共有したり、海外の子どもたちと交流したりすることは、子どもたちの視野を広げる貴重な機会となります。デジタルはあくまで“手段”であり、“目的”ではないという視点を持ち続けることが重要です。将来的には、各学校といった区分を超えた、柔軟で多様な学びの場が増えていくことを期待しています。地域の特色を活かした教育、個々のニーズに応じた学びの選択肢が広がることで、不登校や学びに困難を抱える子どもたちにも、より良い居場所が提供されるはずです。教育は、社会の根幹を支える営みです。私たち教育者は、子どもたち一人ひとりの可能性を信じ、未来を見据えた学校づくりに取り組んでまいります。

【佐野先生】かえつ有明では、現在「ウェルネスセンター」の設置を進めています。子どもたちが安心して立ち寄れる場所、専門職の方も教師も垣根を越えて話を聴いてくれる空間、教育とケアの融合した取り組みがこれからの学校には必要だと思っています。特に重要なのは、感情を丁寧に扱う力、そして身体が持つ知性への理解です。人は本来、身体を通して多くのことを感じ、学んでいます。しかし成長するにつれ、その感覚を閉じ、理性や論理に偏る傾向があります。今こそ、身体が発する微細な声に耳を傾け、感情とともに自分自身を深く理解する力を養うことが求められています。加えて、これからの時代に必要とされるのは、哲学的な思考力です。AIの進展により、私たちは日々、迅速な判断を迫られる場面に直面しています。そのような状況下で、自分の主観だけでなく、他者の視点や社会的な文脈を踏まえた上で、冷静かつ柔軟に物事を判断する力が不可欠です。これは一朝一夕に身につくものではなく、日々の対話や思索を通じて鍛えられるものです。哲学とは、問いを立て、考え続ける営みであり、まさにその訓練が現代において重要性を増しています。学校は、こうした力を育むための土壌でありたいと私は願っています。感情を受け止め、身体の声に耳を傾け、深く考える力を養うことは、学力以上に人生を豊かにする礎となります。生徒の皆さん一人ひとりが、自分自身の感覚と向き合い、他者と対話しながら、より良い判断を下せる人へと成長していくことを、私は心から期待しています。

座談会後記

今回の座談会では、探究学習に加え、グローバル教育の重要性についても深く掘り下げました。自ら問いを立て、答えを導く力。そして異なる価値観を受け入れ、世界とつながる力。これらは、これからの時代を生き抜く中高生にとって不可欠な力です。受験という大きな節目を前に、不安や迷いを抱える皆さんへ。学びは受験のためだけでなく、自分の未来を切り拓く武器になります。保護者の皆様にも、ぜひお子様の「学びたい」という気持ちに寄り添っていただければと思います。この座談会が、進路を考えるうえでの一つのヒントとなり、未来への一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

（ミライクリエ代表菅原祐二）

『MyTYPE』は、首都圏模試センターが発行する中学入試情報誌で、最新の入試動向や学校情報をわかりやすく紹介しています。偏差値データや合格者分析に加え、受験生の「タイプ」に応じた学校選びの視点が特徴です。学力だけでなく個性や学び方に合った進路を考えるヒントが得られ、保護者にとっても教育方針や学校生活を知る貴重な情報源となります。受験を通じて子どもの未来を見つめるきっかけとなる一冊です。今回は、2025年9月21日発行のmy TYPE第14号に掲載しました記事をご紹介します。