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コラム

どうなる!?小学校英語教科化による今後の英語教育!(2/2)

上智大学言語教育研究センター特任教授
吉田研作先生へのインタビュー

こちらの記事は「どうなる!?小学校英語教科化による今後の英語教育!(1/2)」の続きになります。
前の記事をお読みでない方は下記よりご覧下さい
どうなる!?小学校英語教科化による今後の英語教育!(1/2)

(聞き手)
株式会社スタディエクステンション GLICC代表 鈴木裕之
首都圏模試センター取締役統括マネージャー 山下一








吉田研作先生プロフィール
1948年京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業。同大学大学院言語学専攻修士課程修了。ミシガン大学大学院博士課程修了。専門は応用言語学。
現在、上智大学言語教育研究センター特任教授、同センター長。
英語教育の第一人者で、TEAPの開発などに従事する。文部科学省「英語教育の在り方に関する有識者会議」で座長も務める。

小学校における英語教科化と英語指導のあり方

今後の小学校の英語教育についてお尋ねしたいと思います。5・6年生において英語が「教科」になることをめぐって様々な意見があります。特に教員の指導力や指導方法という面について懸念する声が聞こえてきます。

吉田先生:
少なくとも「外国語活動」が3・4年生に下りることは、大きな問題はないと思っています。「外国語活動」はすでに経験済みで、成果も上げていますから。問題があるとすれば5・6年生です。教科化においては、検定教科書も入ってくるし、評価もしなくてはいけなくなる。評価をするということは、専門的知識がないとできないわけで、そこに不安を持っている教員は多いですね。
文科省では、英語を専門的に教える「専科教員」について今年度は1000人採用する予算を確保しています。来年も1000人、2020年には2000人を採っていく予定です。ただ、教員免許を持っていることなど、結構厳しい要件を設けていますから、本当に小学生に合わせた英語の指導ができる教員がそろうかどうかは疑問です。
そうなると小学校の英語指導者を育成する機関などが必要になってきます。例えば私も関わっているJ-SHINEというNPOでは、そこだけで4万人以上の認定者がいます。必ずしも小学校の教員免許を持っているわけではありませんが、6割以上の人が英検2級から準1級レベルの英語力を持っています。そのような民間資格を持っている指導者を今後は活用していく方向を検討する必要があると思っています。

各都道府県には、「特別免許状」というのを発行できる制度がありますから、そういう制度を利用すれば、教員免許がなくてもある一定の条件を満たした人が外部指導者としてお手伝いに入ることができます。将来的には全部専科教員でやるのが理想でしょうが、そうなるには相当の年数が必要でしょう。小学校の教員で英語の免状を持っているのは5%もいませんから、5・6年生をカバーするだけでも相当の人数が不足することが予想されます。
そうかといって、現在中学や高校で教えている先生が小学生を教える場合、文法重視で訳読型の英語指導がそのまま行われて、英語嫌いが増える危険性もあるわけです。私たちが心配しているのはその教え方の部分ですね。そこについては、きちんとした研修をやってほしいと思っています。小学校の英語指導における学習指導要領というのはよくできているので、まずはそれをよく読んでほしい。

4技能英語テストが導入されることになれば、それに合わせて先生の指導スタイルが変わる必要があるのではないかと感じますが、今後小中学校における指導はどのように行われることが望ましいのでしょうか。

外国語活動としてコミュニケーション中心にやってきたことを、小学校高学年、また中学校へと継承していくことが大切です。外国語活動として経験したことに、「あのときやったことはこういうことなんだ」と気づきを与えていくという、いわば「帰納的文法」のあり方が求められているのです。現状中学校以降で行われている指導では、文法知識を先に与えて演繹的に教えがちですが、本来は逆であるべきなのです。

今回の学習指導要領では、中学では小学校の指導要領をよく読んで理解した上で指導するようにと書いてあります。高校では中学校の指導要領をよく読むようにと書いてあります。生徒が英語を使うということが大切なのであって、先生が一方的に文法を教えるのではないということを誤解ないようにしてもらわないといけません。
そもそも中学校では週に4時間ある英語の授業が、小学校では週に2時間しかないわけですから、同じようにできるわけがないのですね。正しい英語かどうかは最後に来るものであって、最初からそれを求める必要はないという考え方が中学校や高校でもわかってもらえればと思います。

小学生だけではなく、中学生以降も帰納的な文法教育ということが入ってくるということになりますか。

中1くらいだと小学生との連携もまだやりやすいのですが、ある先生によれば「中2ギャップ」があるということです。中2になると過去分詞が出てきたり受動態が出てきたりなど、色々な文法項目が出てきてしまうので、帰納的に教えている時間的余裕がなくなってしまうということがあります。
そういう意味では全面的に帰納的な文法とはいかないかもしれませんが、中学から高校にかけて段階的に考えていく必要はあるでしょうね。

中学受験における英語入試、高度な英語力の育成

今後グローバル化が進んで、帰国生やインターナショナルスクールで学んだ生徒、あるいは小学生のうちから英語を学んできた子どもたちのように、英語で議論するような高度な英語力を身につけた子どもが増えていくと予想されます。こういう状況に対して小中学校の現場ではどのように準備をしていけばよいでしょうか。

今回の学習指導要領の変更によって、全体的な英語力をかなり高いレベルにまで伸ばしていくことが可能になります。また、一部の私立校や、中等教育学校などを見ると、かなり高いレベルの指導をすでに行っています。帰国子女が入ってきても彼らが勉強になるというレベルの授業が実際に行われているのです。加藤学園のようなイマージョンもあるし、IB校も少しずつですが、増えています。
選択肢が増えているということは良いことで、このような多様性によって様々な生徒が吸収される場があればよいわけです。問題はそのような学校をどれだけ増やしていけるかということです。全体としては従来よりもずっと高いレベルになっていると言えます。

中学受験にも英語入試が入っています。慶應湘南藤沢も今年から国語算数プラス英語で入試を行うことが決まっています。英検で言うと2級から準1級レベルが出題されるということを公表していることもあり、塾が商売的な面から入試突破のためのテクニックに走ってしまう懸念もあります。中学受験段階で理想的な英語入試とはどういうものでしょう。

英語で他教科を学ぶようなイマージョン授業でもやるなら別ですが、そういう特別な事情でもない限り、私は中学入試に英語の試験はやらなくてよいと考えています。
入試によって英語力の高い生徒を選抜しなくても、入学後に十分に伸ばしていきますというスタンスの中学もかなりあります。最初からレベルの高い子を入れるということを表明するよりも、教育機関としてどのように生徒の英語力を伸ばすつもりなのか、そこをカリキュラムポリシーとして示すことが大切なのではないでしょうか。
大学でも我々はそのようなことをしています。どのような人材を輩出するかを考えてディプロマポリシーを考え、この人材を育てるためにどのようなカリキュラムにする必要があるかと考えてカリキュラムポリシーができるわけです。
当然入学時とその後の英語力の伸びも検証していく必要があります。例えば上智大学ではTEAPで高いスコアを取る生徒が入ってくるが、その英語力が入学後さらにどの程度伸びているのかを検証します。入学した際にはそれほど高い英語力ではなかった学生が入学後にどれほど英語を伸ばしているのかについても検証します。実際どちらの学生も本校において英語力を伸ばしているのですが、それは、常にカリキュラムを検証し改良していく努力を続けているからではないでしょうか。
中学や高校においては事情が異なる部分があるにしても、出題レベルを明示するだけではなく、その子どもたちがどのように伸びていくかということを示すことが大切だと感じます。

中学入試の世界に英語入試が増えていくことで、塾が色々な英語教材を用意しつつあります。中には4技能英語とはまったく違った性質の教材もあるかもしれません。小学英語をフォローするやり方として先生から何かご意見はありますか。

小学校でどういう英語が指導されているかということを塾なり教材会社なりが理解できていることが大切です。小学校でやるべきことができているかどうかをチェックし、学校で十分についていけない子どもに助けとなるような中身のものであればよいと思います。
一方で、特定の学校に入りたいという生徒に対して特別な教材を用意することも塾としては期待されていることでしょうから、学習指導要領という基本を押さえたうえであれば、高度な英語を身につけていく機会を与えるということは、それはそれで必要になってくるでしょうね。

これまで中学校の英語の先生は、小学校から中学校の接続という局面、特にアドミッションに関わってくる機会は限られていました。しかし、今後はその接続を意識しておくことがとても重要になってくると考えられます。今回吉田先生にお話いただいた内容は、小学校と中学校のカリキュラムの接続という面から考えて非常に有効なメッセージになると思います。貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございました。