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帰国生は苦労も多い!? 啓明学園

教育ジャーナリスト おおたとしまさ

帰国生は苦労も多い!? 啓明学園が実践するダイバーシティへの配慮

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帰国生をさらに伸ばすためにできた学校

 休み時間の教室からは、英語、日本語、中国語などさまざまな言語の会話が聞こえてくる。東京都昭島市にある啓明学園中学校・高等学校だ。三井家総本家第11代三井八郎右衛門の実弟、三井高維が、1940年、帰国子女のために開いたのがその始まり。
 帰国子女を日本の文化に適応させるための学校ではなく、帰国子女が海外生活の中でせっかく身に付けたものをさらに伸ばすための学校としてつくられた。もともと帰国生のための学校として始まった学校は極めて珍しい。
 現在、「一般生」のほかに、「国際生」として、1年以上海外に在住していた者、日本国内のインターナショナルスクールに2年以上在籍していた者、多言語環境にある者、外国籍の者を生徒として受け入れている。「国際生」の割合は、中学校で約35%、高校で約31%。生徒の出身国は46カ国にもなる。それぞれの文化的アイデンティティーを尊重した教育が行われている。

 現在、多くの私立中学で「帰国生枠」を設けている。クラスの中にダイバーシティが生まれることを狙っているとともに、英語が得意な生徒は大学受験でも良い結果を出しやすいという理由もある。「帰国生」が引っ張りだこになっている面もあり、「帰国生」として中学受験ができる受験生は「うらやましい」ともよく言われる。
 しかし、「帰国生は戸惑いを感じることも多く、場合によっては傷ついていることもある」と、同校国際センター主任の中山宗美さんは言う。
 制服を着なければいけなかったり、集会で整列させられたり、日本の学校文化は海外のそれとは違う。用事があって部活を休めば、「やる気がない」と言われてしまう。時間に関する感覚も違うため、「時間にルーズ」というレッテルを貼られることもある。海外ではうまくやっていたのに、日本の社会では「ダメなひと」になってしまう。
 その点、啓明学園では、それぞれの生徒が異なる文化の中で育ってきたことを前提としているから、いきなり日本の文化的価値観で帰国生が否定されることはない。生徒にとっても教員にとっても、「みんな違って、みんないい」が当たり前なのだ。
 日本に帰国して、日本の特に公立学校になじめず、啓明学園の存在を知り、転校してくる生徒もなかにはいる。

主要教科では「取り出し授業」で個別指導

 生徒たちが海外で受けてきた教育と、日本の教育には違いがある。そのうえ特に受験主要教科の学習を理解するには日本語力が大きくものをいう。そこで啓明学園では、「取り出し授業」を充実させている。単なる習熟度別授業ではない。一般生向けの授業についていくのが難しい生徒たちは、「取り出し授業用の教室」に来て、個別指導の形や少人数クラスのなかで、それぞれのレベルとペースで学習を進めるのだ。
 複数の学年の生徒が同じ教室で学ぶ。海外の一部の進歩的学校で採用されている「イエナプラン教育」や「フレネ教育」の「個別授業」に似ている方法だ。日本語国語や数学の定期テストのレベルもそれぞれのレベルに合わせてカスタマイズする。
 「日本のインターナショナルスクールで教育を受けてきた生徒も、取り出し授業を受けるケースが多い」とも中山さんは言う。生活言語は日本語でも、学習言語が外国語であるため、実生活と知的活動を統合できずに苦労するケースが少なくないのだ。

 「取り出し授業」のために異学年が学ぶ「国際学級」の教室を覗いた。
 国語のエリアでは2人の中1生と6人の中2生がそれぞれの課題に取り組んでいる。英語と日本語の両方の言語が飛び交い、ときどき笑いも起こる。リラックスした雰囲気だ。数学のエリアでは高1生8人が、やはりそれぞれの課題に取り組んでいた。
 さまざまなバックグラウンドをもつ生徒たちだ。

 ある高1の男子は、小2から中2までシンガポールに在住し、インターナショナルスクールに通っていた。帰国後、公立中学に在籍し、高校から啓明学園に入学した。
 また別の高1男子は、幼少期にオランダのブリティッシュスクールに通い、中学生でドイツのインターナショナルスクールに通った。高校から啓明学園。「小さいころは英語をしゃべっていたそうですが、小学校時代を日本で過ごしたのですっかり忘れてしまいました。一般的な日本の生徒に比べれば英語ができるほうだと思いますが、流暢に話せるわけではありません」と言う。
 もう一人の高1男子は、10歳から4年間アメリカの現地校に通っており、中3の2学期から啓明。「僕は普段はあまり英語を使いませんが、友達が英語で話しかけてきたら英語で返します」とのこと。
 ある高1の女子は、5歳から15歳までイランのインターナショナルスクールで学んだが、「啓明ではストレスなく過ごせる」と言う。
 また別の高1女子は、6歳から15歳までドイツの現地校で学んだ。「両親は日本人なので、日本語は不自由なく話せる。ドイツ語もできる。ドイツで英語も学んだが、ネイティブのようには話せない。日本の勉強に慣れていなかったけれど、この学校には国際クラスがあって少しずつ慣れることができるので良かった」と言う。

帰国生が抱える困難さに細やかな配慮を

 日本語をほとんどいちから学ばなければいけない外国籍などの生徒たちは、そのための教室で指導を受ける。
 ある女子生徒は「仕立てる」という言葉を使った文章を考えるのに苦労していた。
 「先生、『校長先生はぬいぐるみを仕立てた』っていう文章はどうですか?」
 「うーん、まあ、ありかな(笑)」
 というようなやりとり。いちから日本語を学ぶのだから、大変だ。教室の壁には、原稿用紙に丁寧な字で書かれた作文が掲示されている。立派な文章になっている。彼らの努力の証しである。
 翻って、親の仕事の都合などで、日本から海外に移住した日本の子供たちは、その逆を経験しているわけだ。
 バイリンガル教育は人気だし、帰国生は受験で有利ともいわれるが、多言語環境や異文化での生活は、成長期の子供に想像以上の負荷をかけていることを忘れてはいけない。日本国内で普通に教育を受けているだけでは経験するはずもないその負荷をなんとか乗り越えることができれば大きな成長が得られるが、その負荷が子供を傷つけてしまうこともある。
 文化をまたいで成長する子供たちは、決して楽をして多言語や多文化を身に付けているわけではない。異文化での生活の長さや、日本の文化との違いによって千差万別の困難さを抱えている。そのことへの細やかな配慮が、これからのグローバルな世の中にはますます求められるようになるだろう。