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LOVELY LIBRARY第11回・田園調布学園の図書館《司書への道と、寄り添う読書のすすめ》

情報誌『shuTOMO』10/1号の田園調布学園中高「LOVELY LIBRARY」の特別編です。

情報誌『shuTOMO』10/1号でご紹介した田園調布学園中高「LOVELY LIBRARY]取材時に、司書教諭の二井依里奈先生と学校司書の松井由記さんに伺った「司書への道と、寄り添う読書のすすめ」を、特別編としてWebでお伝えします。取材・撮影・文/ブランニュー・金子裕美〉

子どもの頃から好きだった読書と映画に導かれ、見つけたやりがい

 本が好き、人が好き、というお二人。天職ともいうべき司書の道に、どのようにして進んだのでしょうか。

二井先生  私は本がたくさんある家で育ちました。母が本好きで、例えば本校の書庫にもある「名著 復刻全集」(文豪の初版本が出た時の装丁や紙質をそのまま復元した本)が家に並んでいました。私は、広島生まれ、広島育ちなので『はだ しのゲン』も全巻が家に揃っていました。放課後学童クラブから帰ってきた後、暇なときには、普通の漫画としてこれを読んでいました。また『オバケのQ太郎』や『怪物くん』なども家にありよく読んでいましたね。

 両親が共働きでしたので、一人の時は小さい頃から娯楽として本を読んで過ごしました。当時から映画も好きで、両親が映画館に行く時は、私もいっしょに連れていってもらっていました。広島市には、今もありますが、広島市映像文化ライブラリーという施設があります。当時は大人も300円くらいの安価で名画が見られたように思います。こどもはもちろんタダ(今は大人380円らしいです)。思い出に残っているのは黒澤明の『羅生門』とか手塚治虫の『どろろと百鬼丸』などですね。特に忘れられないのは、手塚治虫本人がある日偶然来ていて、映像文化ライブラリーの階段で本人を見かけたことです。ベレー帽をやはりかぶっていて「あー! 写真と同じだ」と感激しました。優しそうな方でした。母はジャングル大帝のレオが好きで、それで私の弟の名前がリオになったくらいなんです(笑)。

 元々母は高校の国語教員で、演劇部の顧問をしていたこともあったためか、演劇もよく連れて行ってもらいました。広島市に市民公会堂(現在は広島国際会議場になっている)があり、そこで月1回程度あった市民劇場で大人の演劇を小学生の頃から一緒に母と並んで見ていた記憶があります。よく覚えているのは「欲望という名の列車」です。当時はよくわからなかったのですが、「なんか大人になったらすごいことが起きるんだ」と感じたように思います。大学生の頃戯曲を本で見て、私が小学生のころ観たのはテネシー・ウィリアムズのこの話だったのかと感動したのを覚えています。

 名作は、媒体は何であれ、出会う時期がいつであれ、とにかく触れておくと、その後に何かの形で生きてくるものかもしれません。たとえ、初めて出会った時は幼く、すべての意味が理解できていなくても、のちの人生のどこかで再会したとき、名前と本質がつながって真に文学や演劇などが自分の生きる糧になる瞬間が来るものだと思います。その種まきをするのが、小学生、中学生、高校生の頃でしょう。

 県の採用試験に合格し、司書教諭として最初に配属されたのは山間地域の小さな高校(広島県立御調高校)で した。当時は、車で1時間ほどかけて尾道市まで行かなければ公共図書館も書店もない町で、学校図書館がもつ役割の大きさを感じました。教頭先生も同じ考えで「地域に開かれる学校図書館を作ろう」と言ってくださり、地域の方が足を運んでくれる図書館になりました。教務の先生は「『総合的な学習の時間』を先行的に始めるところだからいっしょにやろう」と声をかけてくださり、私もかかわりました。

 夫の転勤により、東京の公立・私立学校に職場を探していた時に見つけたのが本校です。採用されてから新図書館ができるまで、一人で図書館を運営していました。その間に「司書」の資格を取りました。「司書教諭」とは別の資格です。この資格を取るには、司書教諭の資格取得に向けた勉強の何倍も勉強しなければなりません。「その勉強をぜひしてみたい」と管理職の先生に話すと快諾してくださり、勤務の傍ら大学に通いました。想像していたとおり司書の勉強は奥深く、ますますこの仕事がおもしろくなりました。

叔母と母のおかげで物語が好きになった

松井さん  私が本を読むようになったのは、叔母と母のおかげです。私の叔母は保母で、私が幼い頃からわらべうたや昔話を語ってくれたので、物語が好きになりました。母もよく本を読んでいました。出版社の購読システムにも入っていたので、毎月家に本が届きました。文学に限らず、図鑑などいろいろな分野の本が家にありました。親が共働きだったこともあり、兄弟で過ごす時は本を読んで過ごしました。

 当時から映画も好きでした。高校時代は映画に携わる仕事に就くのもいいなと考えていて、美術系の大学で映像コースに進みました。ところが、大学時代に図書館でアルバイトを始めると楽しくて、結局卒業後もそこで臨時職員として一年間働きました。司書に興味を持ったのはその頃です。優秀な司書の方に出会い、児童サービスのお手伝いもしました。司書になるなら、ぜひ子どもと本をつなぐ児童サービスに就きたいと考えました。司書の資格を取って、たまたま採用されたところが小学校でした。敷地内に公共図書館がある非常に恵まれた環境でした。授業でも頻繁に学校図書館と公共図書館を使いました。学校図書館はやりがいがあると思い、今に至っています。

親が読書を楽しんでいれば子どももその姿に近づいていく

 中高生に日々、読書の楽しさを伝える工夫をされているお二人に、お子さんとともに読書の楽しさを育む方法を伺いました。

二井先生  私もそうでしたが、親が読書を楽しんでいれば、おのずと子どももその姿に近づいていくと思います。また「この本、面白かったなぁ」「ここがよかったなぁ」などとつぶやいて、お子さんの目が届くところに本を置いておくと意識が向くかもしれません。

松井さん  私が生徒に対して行っているのは、その本の中で一番面白かった一節を読んであげるということです。本の中の印象的なセリフや、フックになる一節をピックアップして、そこだけを読むのです。(学校でも)面白かった一文を紹介すると、その本を手に取る生徒がいます。

二井先生  おうちでもそういうことをやるといいですよね。

松井さん  物語が苦手な子どもには登場人物の名前など描いて、簡単な相関図みたいなものを作ってあげてもいいかもしれません。特に外国文学は、大人でも「覚えにくい名前ばかりで(ストーリーが)入ってこない」と言われる方もいます。パッと見ただけで関係性を確認できるものがあれば、案外物語に入り込めるかもしれません。

二井先生  きっと夢中になりますよね。

松井さん  私も家では、娘に「読んで!」とせがまれても、余裕がないときにはつい「あとで読むから、今は自分で読んでて」と言ってしまいます。本を好きになってもらうには、一緒に読んでこちらも楽しめるといいですね。最初の一文でも読んであげるとか、そういうことでも全然違うと思います。

二井先生  いっしょに挿絵を見て「この帽子、変だと思わない?」などという会話をするだけでもいいですよね。

松井さん  子どもたちは背表紙を見て本を選びがちですが、背表紙には情報がありません。本を開くと、意外と読み易そうな本もあれば、逆に難しい内容の本もあるので、まずは棚から本を選んで、子どもと一緒に本を開いてみるところまで寄り添うといいですね。

二井先生  そう。(本を)手に取ることが大事なんです。最後まで読みきれなくてもいいので、まずは(本が)手を通っていったという経験をさせることを大切にしてほしいです。自分は本が読めない、と思いこんでいる人もいますが、手に取って開いてみれば「こんなに絵がある。これなら読めそうだな」と思うかもしれません。「コミックだ」とわかれば、ますます読む気になると思います。逆にものすごく字が詰まっていて、読めそうもない、読む気がしない、と思ったら、他の本を探せばいいと思います。探究学習で本を探している高等部の生徒の中にも、背表紙で本を選んでいる生徒がいるので、「それでは必要としている本を探せないよ。まずは本を開いてみて、読めそうかどうかをざっと見て。目次や索引があるかどうかも確かめてごらん」と声をかけています。

 本との出会いは人との出会いと同じです。その時出会えるかどうかで運命が変わることもありますから。その宝物のようなチャンスを生かせるようそっと後押ししていきたいと、日々カウンターや本棚の陰から機会を伺っています。

 読書にもステップがあって、一つひとつのステップを越えるための声かけや興味づけが必要なのですね。この秋は、お子さんと読書を楽しむ時間を作って、楽しさを共有してみてはいかがでしょうか。同校の図書館にならって、お子さんに興味をもってもらいたいジャンルの本やグッズをさりげなく置いて、「これなあに?」というところから会話を広げていくのも、きっかけを作る一つの方法だと思いました。

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