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かえつ有明中学校 2023年2/3午後 アクティブラーニング思考力特待入試レポート

かえつ有明中学校で2月3日の午後に行われたアクティブラーニング思考力特待入試の様子をレポートします。

かえつ有明中学校でアクティブラーニング思考力特待入試(以後AL入試)が初めて実施されたのは、2016年。「おそらく日本で最初にパフォーマンス評価の手法を中学入試に採り入れたのがこのAL入試」ということで、新タイプ入試の草分け的な存在と言えるでしょう。同校のアクティブラーニング思考力特待入試が2月3日の午後に行われましたので、その様子をレポートします。〈取材・撮影・文/中曽根陽子〉

史上最高の受験者数となったアクティブラーニング思考力特待入試

かえつ有明中学校でアクティブラーニング思考力特待入試(以後AL入試)が初めて実施されたのは、2016年。「おそらく日本で最初にパフォーマンス評価の手法を中学入試に採り入れたのがこのAL入試」ということで、新タイプ入試の草分け的な存在と言えるでしょう。

入試問題は学校からのラブレターと言われますが、かえつ有明が目指す教育の姿が体現しているとも言えるAL入試は、志願者数が年々増加し、2023年は定員10名のところ84名が出願。実際に75名が受験.という激戦になりました。

この日は、2科4科の特待入試も同時に行われ、入試開始1時間前にはすでに学校の入り口には開場を待つ受験生の列ができていました。

A L入試の会場は、1階のカフェテリア。会場には、円形にセットさた机と椅子の横に可動式のホワイトボードが置かれ、グループワークを行う準備が整えられていました。

1時間前には担当の先生たちが続々と集まってきて、試験前の打ち合わせが始まります。志願者が増えており、実際何人が受験するか分からない中、臨機応変なグループ編成と評価者の配置が必要になる。そのため段取りと細かい流れと役割について、入念に最終確認が行われていました。

聞けば、なんとこの入試の準備は、1年前から始まっていたそうで、打ち合わせの様子から、学校の入試にかける並々ならぬ思いを感じます。

今年のAL入試の作問チームのリーダーはAL入試に関わって3年目の若手ホープ三塚平先生。感謝の言葉と共に、この入試にかける思いを話す三塚先生を暖かく見守り、さりげなくサポートに入るベテランの先生。入試担当のチームワークが素敵でした。以前サイエンスの授業担当の先生による週1回の教科会議(兼研修)を取材させていただいた時にも感じたことですが、この学校は、先生も安心安全な場作りと対話を大事にされていて、普段の空気が反映されているのか、ここでもいい雰囲気を醸し出していました。

試験開始30分前から会場横のスペースに集まり始めた受験生たち。きっと午前入試の会場から駆けつけた子どもたちもいたはず。ギリギリに会場に入ってくる生徒もいるので、グループ分けも簡単ではありません。臨機応変にグループ分けをしなくてはならないのですが、子供達に笑顔で声をかけながら、男女のバランスや顔見知りの人が同じグループにならないように配慮しつつ、5人〜6人のグループ編成をしていきます。

一つのチームとして協働して受験に向き合う

14:30には全員がワークショップエリアに移動して着席。名前を書いたシールを胸と背中に貼るように指示され、「お互いに貼り合いましょう」という案内がありました。

AL入試の特徴は、個々のパフォーマンスよりも、チームで他のメンバーとどう関わっているか。他のグループにもどう貢献できるか等、チームの中での協働力が問われるそうですが、最初のこの作業から助け合う協働作業が始まっていたのです。

ウェルカムメッセージの後、この入試が大切にしてほしいこととして、

この場を楽しむこと

今ここに集中すること

という2つのメッセージが伝えられた後、

アイスブレイクとして自己紹介タイムです。

お題は好きなアニメと今一番ほしいもの。

一番ほしいものは

「受験が終わったらスイッチを買ってもらう約束をしているから、一番ほしいのはスイッチ!」という子から、「一番ほしいのはこの入試の合格です」という切実な願いを口にする子まで様々。

そんな子どもたちの会話を聞きながら、私は「ほんとだね。それ一番ほしいよね」と心の中で呟いていました。

無限の答えがある身近な課題を考え抜きチームで納得解を導き出す

場が温まったところで出された最初のお題は

「日本が外国に自信を持って紹介できるアニメといえば? グループで一つ決め、その理由も考えて」というもの。

ここでは自分の考えを述べると共に、時間内にチームで一つに絞ることが求められます。

いくつかのチームが話し合いの結果をシェアした後、「今回はドラえもんについて対話をしていく」ことが示され、ドラえもんの道具が書かれた紙が配られて「この中から未来デパートで買ってきたい道具を一つ選ぶように指示されます。

さらに、選んだ道具によって引き起こされるトラブルについてそれぞれが考え、付箋に書き出し、その道具を安心安全に使うためのルールをチームで考えるという流れ。

出た意見を、ホワイトボードを使ってグループ分けするチーム。メリットデメリットに分けて話し合いを進めるチーム。それぞれのやり方で意見を集約していきます。

このように思考の拡散・チームでの話し合いによる意見の収束といったプロセスを繰り返しながら、徐々に本題に入っていくのです。

グループで協働しより良い解を導き出す。双方向で受け取る力も!

この後は、話しあいで考えたルールを、優先順位をつけて3つに整理し、作戦タイムでどのように発表するかを話し合い、隣のチームにプレゼンします。

聞き役のチームは、自分たちだったらどんなルールが考えられるか意見を出し、それを聞いたチームのメンバーは、一人一人感謝と共にその意見に対する感想を返して役割を交代します。

その様子を数人の先生がじっと観察していました。

最後は、この道具を誰に使ってほしいかを考え、その人に向けて手紙を書くというワークで、グループワークは終了。

最後にそれぞれの振り返りシートを記入して、2時間にわたる試験が全て終了しました。

三塚先生からは、みんなよく頑張ったという労いの言葉と共に、前提を持たずに使ってほしい相手の立場を想像してみること。視野を広げて考えることなど、子どもたちにさらに気づきを与えるようなメッセージが送られて解散になりました。

この試験はそのまま授業になるとおっしゃっていましたが、まさに試験ではなく授業を体験しているような気持ちになりました。

子どもたちはというと、どの子もこの時間を楽しみ、それぞれのワークに集中して力を出し切った満足気な表情をしていて、誰からともなくお互いの健闘を讃えあい会場を後にしていました。

入試の狙いと評価のポイント

最後にこの入試の狙いと評価のポイントについて話を聞きました。

「2科4科入試では測れない力を持った多様な生徒をとりたいというのがこの入試を実施する狙いです。今回は、対話をして終わりではなく、敢えて、自分の意見を出し合い、そこから一つに絞って決めるという負荷をかけました。さらに人の話を聞いて自分ごととして考えられるか、相手のフィードバックを感謝しながら受け止め、さらに対話を通して、その中身をブラッシュアップしていけるかといった、対話の先にある力も測ることを意識して作問しました。」と三塚先生。

評価については、「みんな違ってみんないいというのは前提です。子どもたちは、総じてレベルは高く、課題にも協力して取り組めていました。それぞれの良さはあるんだけれど、その中から、さらに突出してグループの対話をさらに回していく潤滑油的な役割や、違う視点を挟み込んで活性化させるなど、特に輝いている子を見つけたいと思っています」(三塚先生)

自身が前のめりになるだけでなく、周囲のメンバーが前のめりになるような声がけや受容的な姿勢が評価されました。 ただ、メンバー構成によって現れ方は異なるので、結果として現れたかよりも、その姿勢を示し続けてチームに関わっていたかということがポイントでした。(佐野和之副校長)

かなりの狭き門にはなりますが、こうした受験を通してペーパーテストでは測れない、多様な能力を持った子どもたちが入学できる機会を作るということはとても意味のある取り組みです。

多様性と国際性を受け入れ、早くからアクティブラーニングを実践してきた学校ならではのAL入試は、かえつ有明の教育への期待の表れとして、志願者も増えています。そんな中、入試で何を重要視していくのか、今後この入試の募集定員をもっと増やしていくのか、回を重ねてきたかえつ有明だけに、そろそろ変化の時期に来ているのかもしれません。

実際、終了後に大人の目を気にすることなく(アピールではなく)全チームのホワイトボードを丹念に見て帰った受験生がおり、この入試で測れていない一人ひとりの良さがあることも再認識し、本来であれば希望する受験生全員と1~2週間ともに過ごし、互いのマッチングを確認するような入試制度ができないものかなど、本来の意味での多様な生徒の受け入れとはどのようなことかと議論が広がったそうです。

これは、学校がどんな教育を目指していくのか。受け入れた子どもたちをどう育てていくのかということにも繋がる問いです。

最後に、この入試に真っ向からチャレンジした全ての受験生にエールを送ると共に、それぞれが今回の中学受験を通して、輝ける場所を見つけてほしいという願いを持って会場を後にしました。