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新たな世の中と大学入試で問われる力Vol.1

公立中高一貫校と私立中の「適性検査」から学ぶ

my TYPE第14号(2025年9月21日発行)掲載


聞き手/首都圏模試センター・北 一成、野尻幸義 文/金子茉由、池崎由布子、市村幸妙

「適性検査」が導入された背景とは

学力試験では見抜けない力を重視。 「適性検査」が導入された背景とは

適性検査型の入試が初めて導入されたのは、公立中高一貫校でした。公立という性質上、「学力試験による選抜を行わない」という原則があったため、当初は抽選による入学者決定の案も検討されていました。しかし、多様な個性をもつ子どもたちを受け入れ、育成するには、従来型の学力試験とは異なる形で思考力や判断力を評価する方法が有効だと判断されました。そのような経緯から導入されたのが「適性検査」です。適性検査型入試の導入にあたっては、私学協会と教育委員会の間で何度も協議が重ねられたといいます。この背景について、東京都立桜修館中等教育学校の立ち上げに携わった元校長・石坂康倫先生にお話を伺いました。

都立中高一貫校の適性検査は、 設立当初は各校オリジナル問題が中心だった

---都立の中高一貫校に適性検査が導入された当初のコンセプトについて教えてください。

石坂先生:知識そのものを問うのではなく、小学生がそれまでの経験や社会の動きなどをもとに「その場で考えて、その場で答えを出す」という力を見ることが、適性検査の基本的なコンセプトでした。さらに、それぞれの学校のビジョンに合わせて独自の問題を作ることも、当初の方針としてありました。

---具体的に、学校ごとにどのような工夫があったのでしょうか?

石坂先生:たとえば、桜修館では論理的思考力を重視していました。両国は文章力や科学的な視点を含めた言語力、白鷗は日本の伝統文化への理解、小石川は理科や算数が好きな生徒を対象にするなど、それぞれの学校の特色を反映させた問題作りをしていました。

---現在の適性検査はどのように変化していますか?

石坂先生:以前は各校オリジナルの問題が中心でしたが、いまでは適性検査I(文章表現)と適性検査Ⅱ(算数分野、社会分野、理科分野)という形で共通問題が整備され、半分以上を共通問題にする学校も増えています。すべてを共通問題にする学校もあれば、一部をオリジナル問題にする学校や適性検査Ⅲを導入する学校もあり、運用はさまざまです。

求められる「総合力」

正解がひとつではない時代に求められる「総合力」

適性検査型入試で評価される力は、これからの社会で求められる力と深く結びついています。実際の社会で必要とされる能力とは何か。それを踏まえ、各校の「適性検査」がどのような力を重視しているのか、石坂先生に伺いました。

社会で活躍する力を育てる中高一貫教育。 そのスタートを担う適性検査型入試

「適性検査型入試」が、公立中高一貫校の「適性検査」だけでなく、私立中学校にも広がりを見せています。特に2020年の大学入試改革以降、知識偏重から脱却し、思考力・判断力・表現力といった力を重視する流れが強まり、私立中でも「適性検査型入試」を導入する学校が増えてきました。いまの子どもたちが大人になる頃、社会はもっと不確実で、さまざまな場面で「正解が1つに定まらない」状況が増えていくでしょう。そうした社会をより良く生き抜く力を育てるために、大学教育や入試制度が変わり、それに伴って学習指導要領も見直されています。そして中学入試もまた、その流れのなかにあることがわかります。

---適性検査の出題形式や、そこで問われる力は、大学入試の変化とも深くつながっているように感じます。公立中高一貫校が、大学入試の方向性を先取りしていたということでしょうか?

石坂先生:はい、まさにその通りです。桜修館においても、単に進学率を上げるだけでなく、進学指導重点校と肩を並べる、あるいはそれ以上の成果を出すことが期待されていました。実際、桜修館の卒業生の約半数が国公立大学に合格しています。なぜそれが実現できているのかというと、同校が中学入試の段階から重視している「論理的思考力」や「表現力」を、入学後の授業でも徹底的に育成しているからだと思います。国語や数学の授業では論理的思考の養成に力を入れ、5,000字程度の論文執筆や英語による要約といった課題にも取り組んでいます。このような地道な訓練を通して、大学入試はもちろん、その先の社会でも通用する力を着実に育んでいるのです。

---今後の社会において、子どもたちに本当に求められる力とは何でしょうか?

石坂先生:これからの時代に必要なのは、「創造力」と「行動力」だと考えています。つまり、単に知識をもっているだけでなく、それらを組み合わせて新しい価値を生み出していく力。そして、その構想を描くだけで終わらせず、自ら実現させていく力です。これは、自分のためだけでなく、社会をさらに良くしていくという視点とも深く結びついています。

文系に進む場合も、理系に進む場合も、読解力や表現力、分析力はこれまで以上に重要になります。従来のように「文系」「理系」とはっきり区別するのではなく、今後はその境界が曖昧になり、むしろ両者が重なり合う部分が増えていくでしょう。適性検査型入試が重視しているのも、まさにそうした総合的な力です。

石坂先生のお話からは、これまでの「ひとつの正解を求める」学力観では不十分であることが伝わってきました。これからの時代に求められるのは、正解のない問いに向き合い、自分の考えを深めて構築していく力です。そして、そのような学びこそが、将来の社会で必ず役立つものになるでしょう。

中学入試情報誌『MyTYPE』とは

『MyTYPE』は、首都圏模試センターが発行する中学入試情報誌で、最新の入試動向や学校情報をわかりやすく紹介しています。偏差値データや合格者分析に加え、受験生の「タイプ」に応じた学校選びの視点が特徴です。学力だけでなく個性や学び方に合った進路を考えるヒントが得られ、保護者にとっても教育方針や学校生活を知る貴重な情報源となります。受験を通じて子どもの未来を見つめるきっかけとなる一冊です。今回は、2025年9月21日発行のmy TYPE第14号に掲載しました記事をご紹介します。

Vol.2につづく

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