新たな世の中と大学入試で問われる力Vol.2
my TYPE第14号(2025年9月21日発行)掲載
聞き手/首都圏模試センター・北 一成、野尻幸義 文/金子茉由、池崎由布子、市村幸妙
今回の記事は、Webにて3部構成でご紹介しています。
光塩女子学院中等科「総合型入試」
光塩女子学院中等科の 「総合型入試」が求める力とは?
̶教務主任・塚田聡子先生と進路指導主任・山本明先生に聞く!
「この入試問題を解いていて楽しい」、 そんな感覚で受験してもらえたら うれしいです(塚田聡子先生)
1931年に光塩高等女学校として創設された光塩女子学院。 総合型入試の先駆けともいえる同校の「総合型入試」は、 2010年入試から選択制で実施、その後2016年に選択制ではなく 別に入試日を独立させた形で始まりました。 本格的に取り組み始めてから、間もなく10年。その手ごたえを、 教務主任の塚田聡子先生(社会科/地理/探究チーム)と 進路指導主任の山本明先生(理科科/物理)に聞きました。
「その場で考える力」を育むことは、 大学受験でも強みとなる重要な学び
――「総合入試型」を2月1日午前に実施されていますが、 いわゆる4教科型で合格を目指す生徒さんとは違った 個性を求めたいという意図があるのでしょうか?
山本先生:総合型を導入する前は、地道にコツコツ勉強する タイプの生徒が主流だったと思います。教科型入試では多く の知識が求められますし、それも当然必要な力です。でも総 合型を導入して、「その場で考える力」「瞬発力」「チャレン ジ精神」などに長た けた生徒が増えてきました。「発想力と伸 びしろ」のある子に来てほしい、そんな思いでこの入試を始 めましたが、確実に成果が出ていると思います。当初はもっ と少人数での募集でしたが、4教科型入試で合格した生徒と、 総合型入試で合格した生徒、違うタイプの生徒たちが入学後 に刺激し合って成長する姿を見て、総合型の定員を増やそう という方向になっていきました。
――「その場で考える力」はいまの大学入試でも重視されて いますし、変化する世の中に対応するうえで、まさに 求められる力になっています。
山本先生:ふり返ってみると、「総合型入試」を始めたときは、 まだ国公立大学の後期日程が多くあった頃でした。この総合 型入試のアイデアは、その頃の受験生たちと大学入試の準備 に取り組む過程からでてきたものでした。たとえば大学入試 では、初めて目にするような実験が題材になっている問題も あります。でもそれは内容を読んで、その場で考えて、持っ ている知識を駆使していけば解くことができる問題です。
山本先生:そんな問題を大変だなと感じる人と、楽しいなと思う人が いました。後期日程で合格していくのは、後者のそんな問題 を楽しむ人たちで、過去問の練習をしながら、急激に大きく 実力を伸ばしていました。その経験から、中学受験の段階で、そういう初めて見る問題を楽しめる人を見つけていくのはどうか、という思いがで てきたのです。
――そのような力をもった生徒さんたちは、現在の大学入 試、その先の社会でも大きな活躍ができそうです。
塚田先生: 大学入学後もその先も、学び続ける力のある生 徒たちをたくさん見てきています。卒業生たちが大学での 学びを、「光塩での学びが土台となっていると感じる」と言っ てくれるのを聞くと、6年間で養うことができた力を実感 できます。そして彼女たちこそがこの学校の本当の財産だ なと思いますね。
――作問についても伺わせてください。この入試は教科横 断型という意味で、いわゆる「適性検査型」の入試に 近いように思いますが、いかがでしょうか?
塚田先生: もちろん教科横断型という意味では「適性検査 型」との共通項はあると思います。でも光塩の「総合型入試」 は、いわゆる「〇〇型」のように型にはめる必要はないと思っ ていますし、都立校のどこかを意識して作問するというこ ともまったくありません。
――確かに先生方の個性がそのまま活かされたような、オ リジナリティにあふれた問題ばかりです。
塚田先生: だからこそ、見ていてわくわくする答案にも出 会えるのだと思います。発想がおもしろいのはもちろん、 そういう答案からは、表現したい、伝えたいという思いが 伝わってくるんです。文章に力がある答案は、読んでいて わくわくしますね。
――作問、採点はチームで行われているのでしょうか?
塚田先生: そうですね。わが校はもともと共同担任制をとっ ていて、1学年につき6~7人の教員で学年全体をサポー トしています。その体制が教科横断型の作問をするにあたっ て役立っているのだと思います。問題作成に限らず、教員 同士が協力することには昔から慣れていますから。
山本先生:「小学6年生にいま考えてほしいことはどんなことか」「こういうことを聞いたら、受験生が楽しめるんじゃないか?」などのアイデアをもとに、チームでおしゃべりしているうちに問題の完成に近づいていくという感じです。採点については記述問題も多く時間がかかりますが、加点方式で答案の良いところを探すという作業は、採点する人間にとっても刺激を受ける楽しい時間です。
――総合(100点)に加えて、算数基礎(50点)、国語基礎(50点)の3科目で行われる入試方法も特徴的です。
山本先生:算数、国語については、基本的な力があれば入学後に育てられると思っています。小6の段階でそこまで難しい算数や国語の問題が解けなくても、最低限の基礎力と意欲があれば十分です。
塚田先生:苦しんで入試を突破するという感覚ではなく、この入試問題を解いてよかった!という感覚をもって入学してくれるとうれしいですね。「この問題を解いていて楽しい」と思う子たちに入学してほしい、それがこの入試に関わる先生たち全員の気持ちだと思います。
八王子実践中学校「適性検査入試」
八王子実践中学校の 適性検査入試が求める力とは?
̶適性検査入試担当・田母神武浩先生に聞く!
自分で考え、答えを導き出す力は、 中高での学びの土台になり、 大学入試にも直結します(田母神武浩 先生)
八王子実践中学校では、2019年度から従来の教科型入試を廃止し、「プレゼンテーション入試」と「適性検査入試」を導入。適性検査は東京都立南多摩中等教育学校の出題傾向に準拠し、難易度なども同等です。今回は、かつて南多摩中等教育学校に在籍し、現在は八王子実践中学校で適性検査入試の作問を担当する田母神武浩先生(入試広報室)にインタビュー。作問における工夫や、同校が求める資質ついてお話を伺いました。
2科・4科の学びこそが、「答えのない問い」に立ち向かう力の土台となる
適性検査の作問においては、「各校が求める力をどのように問題に落とし込むか」が大きな課題になります。というのも、教科ごとの視点や作問方法をすべて統合し、適性検査全体を設計できる人は非常に少ないからです。そのようななか、南多摩中等教育学校での実績が評価され、八王子実践中学校に招かれたのが田母神先生です。
――適性検査の作問において、どのような点を意識して取り組まれているのでしょうか?
田母神先生:まず大切にしているのは、全体を俯ふかん瞰し、その根底にある「コンセプト」をしっかりと理解したうえで、教科ごとの作問に取り組むことです。特に「どんな力を見たいのか」を明確にすることを重視しています。適性検査では、唯一の「正解」が存在するとは限りません。答えが1つに定まらないからこそ、「自分で考え、自分の言葉で表現する力」が求められるのです。そのため、文章やグラフなど、適した素材を選ぶ作業には、かなりの時間と手間がかかります。私自身、さまざまな学校の適性検査問題を収集し、分析しています。また、素材集めは私一人ではなく、本校の作問担当教員全員で協力して取り組んでいます。
――「自分で考える力」というお話ですが、適性検査問題を解くうえで必要となる、論理的に読み取る力や表現力は、どのように育まれるのでしょうか?
田母神先生:とても難しい問いですが、ひとつ言えるのは、やはり2科・4科の学力がしっかりある子のほうが、対応が早いということです。あらゆる教科に共通するのは、「物事の論理性」です。つまり、2科・4科を通して多角的に学習し、そのつながりを実感する経験を重ねることで、自然と論理性が高まっていきます。たとえば生物の動きも、感覚や習慣ではなく、すべて論理に基づいています。そうした仕組みを理解できる子は、知識を結びつける力も強いですね。同時に、そこをおろそかにせずに積み上げてきた子は、結果的に適性検査でも力を発揮します。
田母神先生:ただ、普段の生活だけでは論理的な力はなかなか身につきません。重要なのは、保護者が子どもにどう関わるかということ。テレビのニュースやクイズを一緒に見ながら、「これはなぜだろう?」と問いかけたり、わかりやすく説明したりする。保護者自身の論理的なアプローチが、子どもの理解力に直結するのです。また、塾に通っている子どもたちは、先生とのやりとりや仲間との対話を通じて、多くの「言葉のキャッチボール」を経験しています。そうしたなかで表現力や思考力も鍛えられていきます。実は、最初から適性検査型の入試だけに絞って対策している子どもは、その後、難関大学に進学するケースがあまり多くありません。中学進学後も学び続ける力を育むには、小6の前半までは2科・4科の基礎をしっかり固めることが大切です。基礎が不十分なままでは、入学後に苦労することになります。
答案から見えてくる思考の深さ、 “自ら考え、乗り越える力”が未来を切り拓く
――実際の小学生の答案からは、どのようなことを感じますか?
田母神先生:設問に正面から向き合えている子どもは、問題文を正確に読み取り、問われている内容をきちんと理解できるため、自然と高得点につながります。なかには、大人でも思いつかないような深い考察をする子もいて、驚かされることがあります。そうした「想定外の良い解答」をどう評価するか、あるいはそれを見越して設問を設計することも、作問・採点側に求められていると感じています。
――適性検査型の入試と大学入試とのつながりについては、どうお考えですか?
田母神先生:適性検査では、自分で考え、答えを導き出す力が求められます。この力は、中学・高校での学びの土台となり、やがて大学入試にも直結していきます。勉強が順調なときは誰でも前向きに取り組めますが、壁にぶつかったときにどう対応するかが重要です。適性検査を突破する生徒には、「乗り越える力」や粘り強さが備わっていることが多く、結果的にその力が大学進学にもつながりやすい傾向があります。大学入試で成果を上げる生徒には、自ら目標を立て、主体的に行動できるという共通点があります。そうした力を育てる第一歩として、適性検査型の入試には大きな意義があると感じています。
中学入試情報誌『MyTYPE』とは
『MyTYPE』は、首都圏模試センターが発行する中学入試情報誌で、最新の入試動向や学校情報をわかりやすく紹介しています。偏差値データや合格者分析に加え、受験生の「タイプ」に応じた学校選びの視点が特徴です。学力だけでなく個性や学び方に合った進路を考えるヒントが得られ、保護者にとっても教育方針や学校生活を知る貴重な情報源となります。受験を通じて子どもの未来を見つめるきっかけとなる一冊です。今回は、2025年9月21日発行のmy TYPE第14号に掲載しました記事をご紹介します。
Vol.3につづく
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