コラム

希望の私学【聖学院中学校・高等学校】(2/2)

聖学院を訪れ、先生方や生徒のみなさんとコミュニケーションをとると、「目の光があたっている何ものか」と「手がささえる何ものか」があることに気づくはずです。

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§3 授業の中に思考力を育成するプログラムがデザインされてる

一般に各教科の授業では、こなすべき内容や知識がたくさんあるので、思考力セミナーのように、教え合いや議論をする余裕がないと言われてきました。ところが、文科省は2020年前後までに、大学入試改革一体型のグローバル学習指導要領にシフトする改定作業を開始しました。

そこで標榜されている大きな改革は、授業改革です。一方通行的な講義形式の授業からアクティブラーニングへ移行しようというのです。

現行の脱ゆとり学習指導要領は、ただでさえ憶えるべき内容や知識が大量に規定されているのに、アクティブラーニングでは処理できないという反論も喧しいのが日本全体の教育現場ですが、実はアクティブラーニングのような生徒どうしがアウトプットし、教え合い、学び合う授業は、確かな学力向上に手ごたえを感じているのが聖学院の先生方です。

実際、数学の児浦先生などは、数学の授業時間に、二人一組でピアインストラクション(教え合い)のチャンスを挿入しています。そして、「米国の教育シンクタンクが提言している学習ピラミッドを参考にして、思い切って授業に導入してみました。そのピラミッドによると、講義が最も学びの定着率が低く、アウトプットしたり、プレゼンしたり、生徒どうしが教え合うと定着率があがるというものですが、実際やってみてその通りになっています。模擬試験でも実感しています」と熱く語ります。

国語の伊藤先生も、「与えられた文章の理解をするだけなら講義でも有効ですが、文章の背景を探ろうとすると、ピアインストラクション(教え合う)は有効です。客観的に文章を理解することは重要なことは確かですが、それを深める作業は、生徒1人ひとりの才能によって方向性は違います。そこをアウトプットする授業こそ、自分の中に語るべきもの、考えるべきもの、何ものかをふくらます過程です。自分の考えが大切なのは、生徒たちはみなわかっています。しかし、自分の内面に自分自身が語るべき世界が広がっていなければ考えることはできません。

それから、教え合うだけではなく、学び合うチャンスも設けています。詩を読んで、それを絵で表現するというワークショップはプロジェクト型学習のチャンスで、クリエイティビティは豊かになります。よく大学入試にクリエイティビティは関係ないと言われますが、教育は総合力ですから、やはり創造性という生徒1人ひとりの才能を豊かにする能力が創発される場であるように授業はデザインしています。」

中学部部長の大野先生は、高1の日本史の授業で、プロジェクト型学習を展開しています。通常の授業で行いますから、一年中、プロジェクト型学習を行うというのではなく、たとえば、昨年は、11月前半までは、講義形式の授業です。

ただし、基礎知識を「リンク」させながら、テキストや資料集に書かれている近現代史を「理解」していけるようにデザインしています。「リンク」「理解」を促進するスキルは、思考力テストでも試される「因果関係」「比較」「分類」などの学びの視点です。

つまり、講義形式の授業の中に、すでにプロジェクト学習の学びの視点が埋め込まれているのです。

11月半ば以降に、与えられたテーマ(東京大学の近代史に関する過去に出題されたテーマ編成型の入試問題)についてチームで、図書館で文献リサーチやiPadでネットサーチをします。学びの視点を身につけてきた生徒は、この段階でいったい何を調べるのか?ということに直面します。

リサーチしながら、チームで話し合う時に、マッピングしたり図を書いたりしながら議論していきますから、与えられたテーマから新たな問いを立ち上げることになります。

そこから、一気呵成に、その問いを解決する方法をプレゼンするためのアウトプットを編集する段に進みます。

このように、聖学院は、多くの学校のように、アクティブラーニングを総合学習の時間という特別な設定で行うだけではなく、授業の中にも積極的に導入しているのです。しかも、一部の先生の授業だけではなく、英語や現代社会、数学などで、プロジェクト学習を創意工夫する教師が増えているのです。大学入試一体型のグローバル学習指導要領の先を歩んでいる先進校だといえましょう。

§4 中学のロングホームルームのL.L.Tで全人教育

このように、聖学院の学内でピアインストラクション(教え合い)、プロジェクト型学習(学び合い)、プレゼンテーション(アウトプット)などのアクティブラーニングが浸透するのには理由があります。

それは、中学の3年間、ロングホームルームを拠点に、L.L.T(Learn Live Together)という「共に学び、共に生きる」ことを目的にした全人教育が、アクティブラーニングの手法で行われているからです。

ロングホームルームですから、担任の先生が実施します。これによって、聖学院の生徒全員も、このような新しい学びにチャレンジする機会がしっかりデザインされているのです。

たとえば、中学1年では、「いのちの大切さといじめ撲滅」という大テーマを探究していきます。そして年間のプログラムは予めデザインされ、全クラス共通のプログラムが進行します。

大テーマは、学期ごとに中テーマに分かれます。1学期は「大切なきみ」、2学期は「いじめを克服する」、3学期は「人間関係の構築」というように設定されています。そしてさらに各回、小テーマが設定され、具体的に、そのテーマについて、グループ内で意見を交わし、ディスカッションを重ねたうえで、自分の考えを編集して、プレゼンテーションをします。

完全なプロジェクト型学習のスタイルが展開しているのです。しかも、ただ、主観的な意見を出し合うのではなく、KJQマトリックスで、自分を振り返るデータをエビデンスとして議論の素材にしたりします。

2学期などは、トリガーになるドラマや映画のシーンを見たうえで、そこに広がる人間関係の問題について議論し、自分ならどうするか問題解決のための判断力を養います。

3学期は、ロールプレイゲームを中心とするボードゲームなどを考えるきっかけとして、信頼関係、協力関係を築いていくことの難しさの体験を通して、自己と他者の関係構築の大切さに気づいていきます。

このような学び合いの積み重ねは、中2、中3になるにしたがって、外部の世界に活動範囲は広がっていきます。蝶ヶ岳登山に向けての「プロジェクトマネジメント」や、糸魚川農村体験を通して、人間、自然、社会の関係を構築する自分の役割を考えていくのです。こうして、中3から高1にかけて、キャリアデザインの土台ができあがるプログラムが綿密にデザインされているのです。

聖学院におけるアクティブラーニングは、知識のリンク、活用、新しい知の創出という学びの方法をトレーニングする働きと生徒1人ひとりがもっている賜物に気づき、互いに尊重し、それをどのように社会に活用して貢献していくか精神の成長をサポートする働きもあるわけです。

§5 礼拝「恐れることはない。いつもいっしょに歩いてるから」

生徒1人ひとりが持っている賜物。これは、しかしながら、テストで高得点がとれるとか、ラグビーの技術が優れているとか、そういう目に見える技能のことを意味するのではないのです。

もちろん、優れた技能は大切です。しかし、本当に優れている技能とは、豊かな賜物から発出してくるものです。ハードパワーを生み出すにはソフトパワーが必要なのと同じです。つまり、クリエイティビティと重なるイメージが聖学院の賜物です。

しかし、そのような目に見えない賜物を、生徒はどのように見出すことができるのでしょうか。もし見出すことができたら、自分の魂を全身にみなぎらせ、勇気と自信をもって立ち臨んでいくことができるでしょう。

そうなのです。聖学院には、この自分の賜物を見ることができる教育システムがあるのです。それは、毎朝講堂で行われる「礼拝」です。

礼拝は、讃美歌を歌い、チャプレン(聖職者)、もしくは信者の教師の聖書の言葉についての語りを聞き、祈りの時間を持つというのが基本構成です。

毎朝、いろいろな讃美歌や語りがあるのですが、講堂に響くメッセージは、結局は1つのことです。それは、「恐れることを恐れてはいけない。なぜなら、恐れは、自分を支える方がいるのに気づかせてくれるからだ。恐れることはない。いつもいっしょにいる方がおられるからだ」というメセージです。

このメッセージによって、生徒は、疾風怒濤の思春期の悩みと不安、恐怖の中で、光に導かれながら歩いていく勇気を得、自分を奮い立たせる力を取り戻します。

そして、内面の中に情熱が生まれているのを見るのです。その瞬間が祈っている時です。瞼をとじて静かに祈っている時、生徒のその目は、外界は見えませんが、自分の内面をしっかり見ることができます。

毎朝、礼拝において、世の中のいろいろな現象に翻弄され、動揺されて、右往左往していた自分の内面に、何にも動じない希望があるのを見つけるのです。そして目を開き、うなだれていた体勢を立て直し、勇気をもって立ち臨んでいきます。

この不屈のタフネスこそ、将来社会にでて、予想もしていない事態に遭遇しても、自分の無限の可能性を信じることができる「賜物の泉」なのです。

おわりに メンタルモデル

毎年、クリスマスから大晦日までの10日間、聖学院では有志が集まってタイ研修旅行に参加します。この旅行で、自分の生き方が決まる生徒も多く、東京医科大学 医学部2年の秋田 泰之輔さんもその一人。

秋田さんはこう語ります。「父が医師で、小さい頃から医師になると決めていましたが、迷った時期もありました。でも改めて医師になる決意をさせたのが、高IIで行った"タイ研修旅行"です。この時、多くの孤児や医療を受けられない人々を目の当たりにして、医師という仕事に就けるチャンスを活かさなくてはいけないと思いました。キリスト教の学校なので、友愛の精神や他人を思いやる心も当然のように身についた気がします。振り返れば聖学院の6年間は楽しいことばかり。一番の思い出は、記念祭実行委員を務め、思う存分やりたいことをやらせてもらったことです。」

短いメッセージの中に、礼拝で自分の「賜物」を見つめ、タイ研修旅行や記念祭実行委員というプロジェクトマネジメント手法のアクティブな学びの体験を通して、社会に貢献する聖学院の生徒のメンタルモデルが輝いています。

■希望の私学 聖学院を読み解くキーワード

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