ICT化を進め、学校・家庭が一体となって一人ひとりの成長を見守る
聖セシリア女子中学校・高等学校
「幸せに生きるための“心と力”をバランスよく習得できる学校」として保護者からの信頼も厚く、緑に囲まれたのどかなキャンパスで、女子が伸びやかに育っているという印象の学校だが、実は他校に先駆けて教育現場のICT化にもアンテナが立っている。今回はそこに注目して取材をしてきた。
情報を一元管理することで、生徒の成長を継続的に見守れる体制に
私たちの日常生活の中では、もはや欠かせないデジタルツール。検索や人との連絡手段だけでなく、スケジュールやタスク管理もスマホの中で完結しているという人も多いでしょう。すでに社会インフラとして一般化されているデジタルツールですが、浸透が一番遅れているのが、実は教育現場です。授業での電子教材の活用はもちろん、教務の側面からのICT化もようやく進み始めた感がありますが、そこにいち早く取り組んでいるのが、聖セシリアです。
「生徒の記録をクラウドで一元管理することで、学校と保護者が連携してこれまで以上に生徒の成長を見守れるようになった」と話すのは、教務部長としてシステムの導入を主導されている笠井理弘先生。
もともと聖セシリアでは、定期テストの結果や通知表の評価、面談の記録を電子化し、進路カルテとして教員間で共有してきたそうですが、Classi(以下クラッシー)というシステムを導入したことで、教員間の情報共有の抜け漏れがなくなったこと、さらには、情報が積み上がっていくことで、生徒一人ひとりの成長を継続的に見ていくことができるようになったのです。さらに、保護者にも、学校での自分の子どもの様子が伝わりやすくなったので、学校と保護者が生徒を真ん中にして、共に成長を見守るという機運が高まってきたようです。
情報を積み上げることで、生徒一人ひとりの成長記録ができる
クラッシーには、1.生徒の学習記録や活動記録を蓄積するポートフォリオ、2.先生・生徒・保護者が連絡ツールとして使える掲示板やメッセージのやり取りを行えるコミュニケーション、3.ベネッセのテスト結果などと連携して学習ができるアダプティブラーング、4.授業で活用できるアクティブラーニングの4つの機能があります。
聖セシリアでは、現在は主に1.2.3の機能を活用して、生徒が自分自身で学習計画を立て、家庭学習時間を記録していくことで、学習習慣を身につけたり、日頃の学習記録を共有することで、担任とのコミュニケーションツールとして活用したり、面談の内容を保護者と共有したり、学校関係のお知らせもこの中で共有したりと、学校生活の様々なシーンでかなり使われていました。
「定期テストだけでなく、小テストまで含めた学習の進捗や成績の推移、面談の記録、活動記録、出欠状況も含めたより詳細な個人の学校生活の様子を一括管理できるようになったことで、紙ベースでは残らない記録を積み上げられる 」と笠井先生。学年をまたいで記録ができるので、生徒の6年間の成長記録にもなります。また、必要に応じて情報の共有範囲はきめ細かく選択できるので、場合によって生活面で気になることがある生徒保護者と直接やりとりする場合もあります。生活面やメンタル面での困りごとへの対応も、今の子ども達にはデバイスを通じて行うほうがやりやすいのかもしれません。
模試の成績と連動して、大学合格可能性をシミュレーションしていけるので、このデータを見ながら進路指導のアドバイスにも活用できそうです。「志望校調査もこのシステムを活用し、先生・保護者・生徒で情報を共有するので、隠し事はできない」と言います。
4の機能をつかって授業でも活用できるように、2、3年後には一人一台のタブレットを持たせていく予定です。
今後大学入試でも個人のポートフォリオの提出が求められるようになると言われていることから、生徒の活動記録を蓄積するツールとしても活用が広がりそうです。聖セシリアでも、高1からは情報の授業で使い方を指導し、学期ごとに行事や学校生活の記録を取り、大学進学にも対応していくそうです。
休み時間がラッシュアワーのホームのようになる職員室
クラッシーは今多くの学校で導入され始めていますが、この学校で導入がスムーズにいった背景には、以前から進学カルテを作成していたことや、生徒とのコミュニケーションを重視してきたことが挙げられると思います。
聖セシリアの職員室は、通路を挟んで両側にカウンターがあり、職員室全体が見渡せます。しかも、その中央通路側に校長先生のデスクがあるというユニークな作り。休み時間や放課後は生徒たちでごった返します。
ちょうど取材時が中休みだったので様子を見ていると、カウンターに挟まれた通路は、まるでラッシュ時のホームように生徒で溢れていました。生徒たちはお目当ての先生を見つけると楽しそうに話しかけています。その何人かの生徒に話を聞けました。
先生に課題を提出しに来たという二人、クラッシーのシステムについて、「自分の成績を簡単に振り返ることができて、学習計画が立てやすい」と教えてくれました。生徒会会長だという生徒にどんな活動をしているのかを聞くと、「代々受け継いできたカンボジアに学校を作るプロジェクトがあり、それを成功させたい」と話してくれました。そして、「日常的には、学校生活をよりよく改善していくための活動をしている」と胸をはります。今取り組んでいるのは、「登下校の状態が乱れてきているので、近隣に迷惑をかけないように規律を正していくこと」だと言います。学校への愛と誇りを感じた一コマでした。
キャリアプログラムで夢を、レコーディングスタディで力を育てる
「『幸せな人をつくるために教育をしている』これが聖セシリアの教育目標です。そして、幸せになるために、一人ひとりの生徒の夢や希望を育て実現する力をつけていきます」と話すのは、入試広報部長の大橋貴之先生。
学校生活のプログラム全てがこの目標に向かって組み立てられているのですが、夢を実現するためにどうすればいいのかを入学時から段階を追って考えていくキャリアプログラムと、夢を実現するための力をつけるレコーディングスタディが、特に生徒たちの心と力を育てるベースになっています。
キャリアプログラムは、教師と生徒の信頼関係を作り、周りと協力しながら課題を解決していく機会を設けながらコミュニケーション力を身につけていく、構成的エンカウンターをベースに、生徒が自分を知り周りを理解する過程を通して、自分は何をしていきたいのかを時間をかけて考えていき、徐々に具体的な進路選択につなげていきます。
成長段階応じて自分の人生プランを考えていけるのは中高一貫校ならではですし、家庭を持つことも含めて女性のキャリアプランを考えられるのは、女子校ならでは。
そして、夢を実現するためのベースとなる力をつけるために、学習習慣をつけるのがレコーディングスタディです。
「記録することで実績を積み重ね、それが自信になり、さらに勉強しようという気持ちが生まれる。レコーディングダイエットと一緒だ」と大橋先生。
実物を見せてもらいましたが、いつ何をしたかが詳しく書かれていて、それに対して先生の暖かいメッセージやアドバイスもあり、生徒と先生のコミュニケーションツールにもなっているようでした。これはあえて手書きのままで続けるそうですが、確かに、手書きのほうがその時の状態も文字から伝わるしよさそうです。
情報活用はあくまでも一つの手段。データ化するものとアナログ両方を使い分けながら生徒を見守り、心と力を育てる。それが聖セシリアの教育です。
取材を終えて
取材が終わった後校内を見学しましたが、廊下には生徒の作品が飾られ、まるで美術館のよう。作品が映えるように計算された赤色の壁は、生徒の発案で塗られたと聞き、この学校がほんとうに生徒の感性を大事に育てようとしているのだと分かりました。生徒一人一人を丁寧に見守ることで、生徒は信頼されていると感じ自己肯定感を高め、自分に自信を持つことで将来に対して夢を抱けるようになる。そんな循環が生まれるのでしょう。
ほかにも英語のミュージカル作品を演じることで英語表現を学ぶイングリッシュエキスプレス、校内で一流のバレリーナからレッスンを受けられるバレエスタジオなど、ユニークな取り組みがたくさんあり、感性豊できちんとした女の子に育ってほしいと思っている保護者の方にはぜひ一度訪れてみたほしいと思いました。私学らしい私学です。
●中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表
教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。
オフィシャルサイト http://www.waiwainet.com/
マザークエスト https://www.motherquest.net/