コラム

工学院の思考コード 思考の森の地図を描くコンパス(1/2)

首都圏模試センターリサーチフェロー
本間勇人(私立学校研究家)

工学院大学附属中学校・高等学校(以降「工学院」と表記)の授業は、生徒たちにとっては、思考の冒険そのものだ。まるで今まで探検したことのない深い森に入って、森の向こうに見える山にたどりつく冒険さながらである。さあ、工学院の生徒たちが、深い森に入って考える冒険の様子をみてみよう。

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思考の森の冒険

彼らは、道なき道を進んでいった。すると、山の頂が見えなくなるところにやってきたことに気づいた。このままでは、自分たちはどこに向かって歩いているのかわからなくなる。そこで、「思考コード」という「コンパス」を取り出して、自分たちがどこに位置しているのか場所を考え、森の地図を描きながら進むことにした。

森に入ったばかりの場所は、まだ注意深く当たりを見ることで、進むことができた。周りを注意深く観察し、危険な場所ではないのか、危険な動植物はいないのかなどじっくり見回しながら進んでいけばよかった。

しかし、やがて、暗い場所にやってきた。このままでは進めない。明かりが必要だ。観察だけでは問題は解決しない。焦らず、まずは仲間同士で話し合うことにした。明かりをつけるにはどうしたらよいのか?行く手をさえぎる問題を解決する思考作業が始まった。

手元には懐中電灯がない。iPadは持っているが、電源は節約しなくてはならない。仲間は話し合い、仲間とともに考えた結果、松明を燃やすことにした。

作り方について、iPadで情報を収集しようとしたが、そこはネットがつながらない場所だった。自分たちで話し合って火が付く仕掛けを考えるしかなかった。そして、考えたら、まずはやってみた。そのとき必要と思われる木や石の材料は、手分けして探した。

なかなか火はつかなかった。試行錯誤しているうちに、さらに闇は深くなってきた。焦りと恐れが広まった。そのとき仲間は励まし合いながら、互いに勇気を鼓舞した。そうして、やっと火が付いた。このとき、松明の明かりで照らされる互いの表情が、達成感で満ちあふれていたのは言うまでもない。

しかし、それはほんの一瞬だった。みんなは、またすぐに真剣な表情に変わった。立ち臨むその姿勢は勇者そのものだ。今度は獣が襲いかかってくるかもしれないからだ。こうして、向こうの山にたどりつくまで、深い森を抜ける冒険の旅は続くのだった。

好奇心・冒険心が生まれる授業が設計されている

このように、工学院の授業は、まるで、森の中の道なき道を探検する思考の冒険ファンタジーである。スリリングな授業だから、好奇心や冒険心が生まれる。

そして、勇気を持って旅立つのだが、ただ闇雲に旅をしても、目的地には行きつかない。海の話だが、コロンブスが大航海をしたときも、正確な地図があらかじめあったわけではない。コンパスを頼りに、海図を描きながら、船員たちと協働して、大海原を突き進んだのだ。


工学院の授業は、生徒が、思考の地図を描きながら問題を解決していくようにデザインされている。同時に、生徒が地図を描きながら進んでいくと、新たな問題に気づくように仕掛けられてもいる。


中学校の教務主任太田先生(理科教諭)によると、生徒が思考の地図を描くことによって、直面した問題が、自分が蓄えてきた知識を取り出せば解決できる領域の問題なのか、知識を活用すれば解決する領域の問題なのか、知識と知識を結び付けて解決する問題なのかなど意識していくことになるということである。

また、太田先生は、知識は複雑になると、整理しまとめていかなければならないから、それぞれの領域は論理的に知識を組み立てるだけではなく、組み立てた思考が正しいのかどうか批判的に検討することになる。すると論理的思考から批判的思考へと次元が上がる。思考の地図の領域が広がり、さらに次元が上がるようにデザインするのが授業だと考えている。

「もしも生徒が直面する問題の思考の地図を描かないまま、結果的に闇雲にトライしていくのでは、目的地にたどりつかないわけです。ですから、従来も、問いを、基礎、応用、発展という感じでデサインしてきました。しかし、これは、考えてみれば、生徒が自ら地図を描くわけではなく、あらかじめ描かれた地図をたどるだけであり、正解がない未知の場所に来た時に、問題を解決できないで、その場から動けないままでいることになりかねません。

それでは、生徒の学力は伸びません。勇気をもって、未知の領域に飛び出すこともしないでしょう。これでは、成長は望めません。そこで、生徒が自分で地図を描けるようにするにはどうしたらよいのか教員同士で話し合いました。そこで生まれたのが地図を描くコンパスとしての“思考コード”です」と語る。

「思考コード」は、横軸が、「知識を知る」という“knowledge”、「知識を適用する」という“application”、「知識同士を結ぶ」という“connection”の3つの領域になっている。

縦軸は、それぞれの領域が、まずは論理的に考える“Learning”の次元、次に批判的に思考する“Critical thinking”の次元、考えたものを制作物にしたり、実際に実行して他者のために役立てる“Design & Action”の次元と上がっていく。

こうしてデザインされた“思考コード”は、縦軸と横軸で交わった領域が9つできる。それぞれ、図のようにA1A2A3、B1B2B3、C1C2C3と示されている。

太田先生は「思考コードを創ったおかげで、A1の領域内で、基礎、応用、発展の問いを投げ続けていることが結構あるということに気づきました。次元を上げているつもりで、実は堂々巡りをしていただけだと。

たとえば、漢字や因数分解など、たしかに、易しい問題、難しい問題があるわけですが、記憶するという思考作業、操作するという思考作業としては、A1の領域に位置していることに変わりはないのです。それでは、生徒は、難しくなると辛いだけです。できるできないだけでは、モチベーションがあがりません。モチベーションは結果ではなく、そのプロセスがスリリングかどうかにかかっています。

ところが、知識を使って文章を書いたり、実生活の計算に適用したり、領域を乗り越えたとしたらどうでしょう。生徒にとっては、こちらのほうが、スリリングです。授業の中でこのような体験ができれば、好奇心や冒険心、つまりモチベーションが生まれてきます。私たちは、領域や次元を超える勇気を生徒といっしょに生み出したいと思っています。このような心の成長をGrowth Mindsetと呼んでいますが、オープンマインドと違うのは、心の成長と学力の成長が相関するように授業をデザインしていけるところだと思っています」と語る。