受験生マイページ ログイン
コラム

平均6.53校受験。「たかが偏差値、されど偏差値」。中学受験併願校選びの基本的な考え方

教育ジャーナリスト
おおたとしまさ

首都圏中学受験生の平均出願数は6〜7校

首都圏中学模試センターの発表によれば、2018年の首都圏中学入試における1受験生あたりの平均出願校数は6・53。1人の受験生が6〜7校を併願していることになる。

「そんなにたくさん受験しなければいけないのか。過去問を解くだけでも大変じゃないか」とびっくりするかもしれないが、この6〜7校には「おためし」「本命」「すべりどめ」が含まれており、真剣に過去問対策をするのは「本命」だけである。「本命」の中に、さらに「第1志望」「第2志望」がある。

「おためし」「本命」「すべりどめ」そして「本命」の中での「第1志望」と「第2志望」をどういうバランスでラインナップするのかを、「併願戦略」という。

「おためし」受験には、「本命」受験の前に本物の中学入試を体験しておく「肩慣らし」的な意味がある。その学校に本気で通いたいと思っている受験生も当然いるわけだから、大変失礼な表現ではあるのだが、俗語として広く認知されている。

通学時間がかかりすぎて実際には通えない学校だとわかっていても、本物の合格をもらうことは、受験生にとって大きな励みになる。「本命」入試に向けて、前向きな気持ちになれる。だから多くの場合、「おためし」受験では、偏差値的に合格できそうな学校を選ぶ。当然、校風などは度外視だ。

「おためし」受験の合格で勢いづく性格の子供もいれば、不合格で奮起する子供もいる。1月中に合格と不合格の両方を経験させるために、「おためし」受験を2回行う場合もある。「落としておいて上げる」か、「上げておいて落とす」か、子供の性格を十分考慮して、塾の先生ともよく相談しながら、「本命」に向けての精神的な仕上がりを最終調整してほしい。

偏差値が足りなくたって「第1志望」はあきらめない

「本命」とはその名の通り、本気で通いたいと思っている学校のことである。

その学校に通っている自分を思い浮かべ、その姿に強い憧れを感じられる学校が「第1志望」だ。この存在が、受験勉強を頑張るためのモチベーションの源泉になる。「第1志望」以外の学校が、すべて「第2志望」である。「この学校もいいな」「この学校に自分が通っている姿も具体的にイメージできる」と思える学校だ。そういう学校ができるだけたくさんあったほうがいい。入試日程の重なりもあり、ぜんぶの学校を受けられるわけではないが、「持ち札」はたくさん用意しておいたほうがいい。「第3志望」「第4志望」などと順位を付ける必要もない。

20%でも可能性があるなら「第1志望」はあきらめなくていいというのが、中学受験関係者のほぼ一致した意見だ。中学入試には、偏差値では測りきれない相性や時の運がある。「第1志望」はあくまでも強気に行けということだ。

そのかわり、「第2志望」の学校については、入試日程と合格可能性を冷静に見極め、戦略的に選ぶ必要がある。これは12歳の子供には無理な作業。あらゆる可能性をシミュレーションしながら、親が考えるべきことである。このときに先述の「持ち札」が豊富だと、やりやすい。

「あなたは第1志望のことだけを考えていればいい。でも、ほかにもたくさんいい学校はあったでしょ。日程の問題があるからぜんぶを受けることはできないけれど、万が一第1志望に縁がなかったときでもあなたにいちばん合った学校に合格できるように、お母さんとお父さんでしっかり考えておくから安心しなさい」などと伝えておけばよい。

「第2志望」の学校は、偏差値に関係なくどれも甲乙付けがたい魅力のある学校だとして、そのうえで、やはり模試の結果としてはじき出される偏差値が、このとき役に立つ。「たかが偏差値、されど偏差値」なのである。

「最悪の事態」を防ぐための偏差値活用術

まずは偏差値にとらわれず、フラットな視点で、「第2志望」の学校を複数見つけよう。「持ち札」は多ければ多いほどいい。校風や教育理念などが似通っている学校で「持ち札」を揃えられるとなおいい。共学校なのか男女別学校なのか、自由を重んじるのか規律を重んじるのか、伝統校なのか革新校なのか、宗教的なバックグラウンドがあるのかないのかなど、「第1志望」を基準に似たような学校をリストアップするとわかりやすい。

ここからが偏差値の出番だ。

「第1志望」をA中学とする。「第2志望」の候補として、B中学、C中学、D中学、E中学、F中学の5校があるとする。模試の結果から、また、わが子の偏差値を偏差値表に照らし合わせた結果から、それぞれの合格可能性が、A中学⇒20%、B中学⇒30%、C⇒50%、D⇒50%、E⇒80%、F⇒80%だったとする。

仮に、A中学とB中学とC中学の3校のみを受けた場合、最低どこか1校には合格できる可能性は何%になるか。現役の中学受験生ならわかるはずだ。

A中学に不合格になる確率は80%、B中学に不合格になる確率は70%、C中学に不合格になる確率は50%。ということは、3校すべてに不合格になる確率は、0.8×0.7×0.5=0.28。28%の確率で全滅を食らう計算だ。つまり約7割の確率でどこかには受かる。

A中学からF中学まで6校ぜんぶを受けた場合の全滅の確率は、0.8×0.7×0.5×0.5×0.2×0.2=0.0056。1%を切る。つまり99%以上の確率でどこかには受かる。

偏差値の高い学校を複数校強気に攻めたうえで全滅を防ぐためのバランスをとるのなら、偏差値の低めの学校が必要になる。計算の帳尻あわせとして、併願校の中に合格可能性の高い学校を意図的に混ぜる場合、それをここでは「すべりどめ」と呼ぶ。もともと用意していた「第2志望」の「持ち札」の中からそれが見つかることが理想である。

ちなみに、「偏差値表」を見るときには「80%偏差値表」と「50%偏差値表」の両方を使用してほしい。「80 %偏差値表」では非常に高い偏差値帯にあり「高嶺の花」にしか見えない学校が、実は「50%偏差値表」では手頃な偏差値帯にあるという場合もあるからだ。受験者の学力の幅によってはそういうことが起こり得る。そのような学校が2校あれば、確率的にはどちらかの「高嶺の花」には受かるはずなのだ。このチャンスに、「80%偏差値表」だけを見ていると気付けない。

入試当日の体力面・精神面での状態も考慮して

ただし、これだけでは「机上の空論」になってしまう。現実的には受験生の体力面、精神面での波も考慮して併願戦略を固めなければいけない。

首都圏の中学入試はだいたい2月1日から5日の5日間に集中する。午後入試も盛んだ。

1日と2日の2日間だけで、合計4回の入試を受ければ、理論上どこかに合格できる可能性は高まる。入試当日の夜に合否が判明することも多いので、2月1日・2日の2日間で納得のいく合格を手にしておいて、精神的な余裕をもって後半戦に挑むという考え方もできる。

ただし、午前・午後と受験を続ければ、体力面・精神面での消耗が激しいことはいうまでもない。2月3日に大きなチャレンジがある場合、あえて2月2日の負担を軽くしておくという考え方も必要だ。

各校の合格発表のタイミングによって、それが吉と出るか凶と出るかがそのあとの入試に向かう気持ちにも大きく影響する。そのことも、あらゆるパターンをシミュレーションしておかなければいけない。

たとえば、2月1日の午前と午後に受験して、午後入試の結果が1日深夜に判明し、その結果によって、2月2日の受験校を変える(強気と弱気の2択ができるように事前に2校に願書を出しておく)といういわば「スクランブル作戦」も昨今では珍しくない。

まるで中学受験の算数の「条件整理」や「確率」の問題である。親の論理的思考力が試される。それがいかに難問であろうが、最適解を見つけ出す。それが、「中学受験必笑法」における、親の重要な役割だといえる。