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コラム

中学受験勉強を頑張る子供を、潰す言葉、励ます言葉(2/2)

教育ジャーナリスト
おおたとしまさ

ピンチのときの悪循環回避術

最初はなんとなく言われた勉強をこなすだけだった仮の中学受験生が、自分の目標のために自らを律して勉強する本物の中学受験生に進化するのは、子供によってタイミングが違う。当然そのタイミングが早いほうが好ましいわけだが、かといって、本人の内心が前向きにならない限り、親が外からプレッシャーをかけたところで、何も変わらないどころかむしろ本人の意志で変わるチャンスを逸してしまうかもしれない。

くり返す。「馬を水場に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」。

また、次のような状況では、ついネガティブなことを言いたくなるかもしれないが、それでは悪循環を招く可能性が高い。考え方や言葉選びをちょっと工夫するだけで、子供の受け取り方も大きく変わる。

●簡単そうに見える問題がなかなか解けないとき

大人にとっては考えなくてもできるような簡単な問題ほど、子供に説明するのは難しい。それでつい、「なんでこんな問題ができないの?」と言ってしまうことがある。

大人なら誰でもできるような簡単な問題であれば、心配しなくても必ずそのうちできるようになる。ただし、いまこの瞬間に理解させようとして説明しても、なかなか難しい。であれば、とりあえず、数をこなしてみるというのも一つの手だ。

誰だって最初は、2+3=5というのも、何度も指を折りながら数えてできるようになったはず。いまはまだできないだけだと考えて親が勝手に焦らないようにしよう。

「やっているうちにわかるようになるから、何度間違えてもいいから、焦らずにやってごらん」などと伝えるのがおすすめだ。

そして実際に、いつの間にかその問題を難なく解けるようになっていたら、「この問題、ちょっと前まではすごく苦労していたのに、いまは楽に解けるようになったんだね。焦らずにコツコツやれば、どんな問題でもできるようになるんだね」と気付かせてあげよう。きっと本人も気付いていないので。このフォローが、子供にとっての強力な励ましになる。

●ケアレスミスを連発しているとき

テストの解答に限らず、ケアレスミスは誰でもするもの。特に心に余裕がないときほどミスをしてしまうものだ。

それなのに「ケアレスミスをなくしなさいと言っているじゃない!」と子供を責めても何も改善しない。むしろ子供の心がさらに萎縮し、ケアレスミスが増えてしまう恐れすらある。

そもそもケアレスミスをしないようにするには、問題文を落ち着いてよく読むとか、計算処理を丁寧に行うとか、焦らないことが大事だ。一方、ケアレスミスを減らすために「よく見直しなさい」とも言われる。でも見直すためには、それだけの時間的余裕が必要だ。つまり速く解かなければいけない。ケアレスミスを減らすために、子供たちは相反するメッセージを受け取って、さらにパニックになってしまうわけだ。

くり返す。ケアレスミスは誰でも一定の割合でするもの。だとしたら、ケアレスミスをしないようにとビクビクすることに心のエネルギーを使うよりも、ケアレスミスをしてしまうことを織り込み済みにして、それ以上に難しい問題で得点する実力を鍛えることを考えたほうが、心理状態としては前向きになれる。

確率的に、ケアレスミスで毎回得点を5%損することがわかっているのなら、106%の点が取れるようにすればいいだけだ。それくらいの気持ちでテストに臨めば、落ち着いて問題文を読んで、丁寧に計算をして、さらに見直す時間までできて、結果的にケアレスミスも減るかもしれない。

●答えを写していたとき、カンニングしていたとき

カンニングは卑怯な行為だ。卑怯なことはしてはいけないと教えるのも親の大事な役目なので、カンニングという行為自体については叱らなければいけない。しかし、そもそもカンニングが卑怯な行為であることくらい小学生だってわかっている。親としてふがいない気持ちになるのはよくわかるが、いつまでもグチグチ責めても仕方がない。「カンニングが良くないことだとわかっているよね」と、厳しく短く1回叱れば十分である。

それよりも大事なことは、なぜ卑怯な行為をしてしまったのか、子供の気持ちを考えてみることだ。

たいがいは、「次こそはいい点数を取らなければ」と追いつめられている。なぜか。

「いい点数を取らないと叱られる」と怯えていたのかもしれない。あるいは「親を悲しませたくない」という気持ちかもしれない。もしくは「この前いい点数を取ったときに、お母さんもお父さんもすごく喜んでくれたから、また喜んでもらいたくって……」という優しさかもしれない。

そういう純粋な気持ちが強い一方で、一歩立ち止まって「これってやっちゃいけないことだよね」と考える判断力が未熟で、カンニングにおよんでしまったのだと考えられる。

だとすれば、再発防止のために親が取るべき行動は、カンニングを責めてさらに精神的に追いつめることでなく、「君が努力した成果なら、どんな点数でも、お母さんもお父さんも誇りに思うよ」と伝えることだとわかるだろう。

宿題の答えを丸写しするような「ズル」についても、ズルをしなければ乗り越えられないなんらかの状況が、子供の中に必ずあったはずなのだ。宿題が多すぎてとても終わらないと途方に暮れているのか、難しすぎて解けないと絶望しているのか、あるいはどうしてもやる気になれなくてとりあえずごまかしたかったのか。

大切なのは、ズルを叱ることではなく、なぜズルをしてしまったのかを話し合うこと。そして「これからは、ズルをするくらいなら、その気持ちを正直にお母さんやお父さんに話してちょうだい。どうすればいいか、いっしょに考えるから」と伝えることだ。

●テストの結果が悪かったとき

テストの結果が悪かった理由は大きく分ければ2つだけ。努力が足りなかったのか、力が出し切れなかったのか。ほとんどの場合、その両方のコンビネーションだ。点数だけではなく、テストの答案の中身を吟味して、原因を分析して子供と共有し、次の目標設定に役立てるのが、親の役割といえる。

本人の反応はどうか。落ち込んでいる。けろっとしている。あるいは怯えている……。

落ち込んでいるというのは頼もしい反応だ。現実を受け止めているということだから。原因を分析して、どうしたら今度こそいい点数が取れそうかをいっしょに考えてあげることが、子供への励ましになる。

けろっとしているというのもこれまた頼もしい反応だ。窮地にあっても冷静でいられるというのは、勝負どころで強さを発揮する素養である。ただし、危機感が足りないのでは次も同じ結果になるので、「今回の結果をどう感じた? それを次回にどう活かすつもり?」というところは聞いてあげ、言語化させるといい。しっかり言語化できれば、意識も変わる。

怯えている場合というのは、最悪だ。点が低かった原因よりも、親や先生から叱られることに意識が向いてしまっている状況だ。自分のためではなく、親や先生のために勉強している状態だ。子供の小さな両肩に、想像以上のプレッシャーがかかってしまっているかもしれない。親自身が「第2志望でも納得できない病」に罹っていないか、「追いつめる親」になっていないか、「中学受験のダークサイド」に落ちていないか、胸に手を当てて考えてみよう。

そうはいっても、良くない点数を見れば暗い表情になってしまうのが親の性。子供はそれをとても気にする。

思わずショックが顔に出てしまったときにはこう説明してあげよう。「ごめんね。あなたを責めているんじゃない。あなたが一生懸命頑張っているのに、力を出し切れなかったのかなと思うと悔しいの。どうやったら努力の成果が点数に表れるのか、いっしょに考えよう」。

そうすれば、子供も結果を受け入れて、もっと頑張ろうと前向きな気持ちになれるはず。

●入試本番直前の緊張感

「緊張感が足りないんじゃない?」というように見えても、実は子供は、内心すごく緊張していたりするものである。基本的に緊張しないのは悪いことではないので、あえて危機感を煽って緊張させる必要はない。

緊張感が張り詰めている場合には、ほかの受験生もみんな同じように緊張していることを教えてあげよう。「本当に緊張しすぎていたら、自分が緊張しているかどうかも自覚できないもの。自分が緊張していると自覚できているだけ、冷静だってことだから、安心しなさい」というアドバイスも効果的だ。

親が緊張していると、その緊張が子供に伝染してしまうことがある。まずは親こそ、平常心でいられるように務めよう。それが難しいときにはこんなふうにイメージしてみてほしい。

「○月○日、すべての中学入試が終わったときには、個別の結果がどうであれ、私たち家族は絶対に笑っている」

子供にも同様に伝えておくといいだろう。

「これから入試本番が始まって、毎日大変かもしれないけれど、これだけは確実に言えるから、安心しなさい。○月○日、すべての入試が終わったとき、個別の結果はどうであれ、あなたもお母さんもお父さんも、絶対に笑って中学受験の打ち上げの乾杯をしているから」

洗脳するくらいに(笑)、何度伝えてもいい。これが「中学受験必笑法」の最後の仕上げである。

長い中学受験生活の中では、いろいろな状況でハラハラ、ドキドキ、オロオロを経験する。そんなときこそ一度冷静になり、自分が10〜12歳の子供になったつもりで、どんな言葉をかけられたらやる気が出るか、どんな言葉を言われると悲しいか、よく考えてからことばを発するようにしてみよう。

そのひと手間が、中学受験期間中の家庭の雰囲気を大きく左右する。