コラム

未来を見据える学校 八雲学園

未来を見据える学校 八雲学園
中曽根 陽子

世界50カ国約180校以上が加盟する私学連盟、ラウンドスクエアの正式メンバーになって、八雲学園にどんな変化が起きているのでしょうか。

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 ラウンドスクエアとは、ドイツの教育者クルト・ハーン氏が、次世代の国際的リーダーの育成を目的として1966年に設立した私立学校連盟のこと。現在は、世界50カ国180校以上が加盟する国際的なネットワークになっています。八雲学園は、グローバル人材の育成を掲げて新たなスタートを切ると同時に日本で2番目の加盟校になりました。このことが学内にもたらした変化は意外なところにありました。ラウンドスクエアとはなにか、八雲学園での取り組みなどをレポートします。

ラウンドスクエアは、世界的な私学コミュニティ

 グローバル化が加速する中、教育の世界でもグローバル人材の育成を掲げる学校は増えています。グローバルというコトバが一人歩きしている中、グローバル教育=英語教育という捉え方をする人はまだ多いかもしれませんが、果たしてそれだけでグローバル人材が育つのでしょうか。
 今や国を超えて世界は繋がっていて、日本から一歩もでなくてもグローバル化の影響は確実に受ける時代。島国日本にいるとなかなか実感できないかもしれませんが、世界は多様性のルツボ。
 そもそも文化も環境も違う人たちですから、分かり合えないというところから出発して、いかに違いを理解し合い、ともに共生していけるかという観点をもつことが、グローバル人材には求められるはず。
そんなことを日頃思っている私は、学校教育の中で多様性(ダイバシティ)をどう教えていくのかということに関心を持って、取材しました。

 ラウンドスクエアとは、ドイツの教育者クルト・ハーン氏が、次世代の国際的リーダーの育成を目的として1966年に設立した私立学校連盟。同氏は、IB(国際バカロレア)教育を創設した中心人物でもあります。
 掲げる理念は、「国際理解」、「民主主義の精神」、「環境問題に対する意識」、「冒険心」、「リーダーシップ」、「奉仕の精神」の6つ。その頭文字をとった"IDEALS" な資質を備えたリーダーの育成を目指して活動をしている世界規模の団体で、現在は50カ国180校以上が参加。八雲学園は2017年4月に日本で2番の加盟校になりました。このコミュニティに加盟するには審査があり、上記6つの理念を体現できる学校であるかが問われると言います。
 つまり、このコミュニティの一員になったということは、ラウンドスクエアは八雲学園が目指すグローバル人材の姿を現していると言えるでしょう。

同年代の多国籍のメンバーとのディスカションで得た学びとは

 ラウンドスクエアでは、年に1回世界中から生徒が集まる国際会議が開かれます。参加した生徒たちは、1週間に渡って、多様な分野の第一線で活躍する専門家のキーノートスピーチを聞いた後、分科会にわかれてバラザと呼ばれるワークショップや、アクティビティに参加。バラザでは、キーノートスピーチで出されたテーマについてディスカションを行います。ディスカッションでは、ただ自分の考えを述べるだけではなく、自分ならどのようにチームに貢献できるのかまでどんどん主張していかないと、仲間として認められないという厳しさも経験します。 
 初年度、ドイツで開催された国際会議に派遣された2名の生徒は、9ヵ月プログラムのなかで行われるアメリカでの3ヶ月語学留学も経験して英検準1級の英語力を持っていましたが、それでも自分の意見を堂々と発表する同年代の外国人に圧倒され、最初は一言も発言できず落ち込んだといいます。それでもめげずにチャレンジをして、最後には多くの経験と仲間を得て帰国。受験生となった翌年も、「受験ではない価値観を得た」と言い、受験準備とラウンドスクエア参加準備を両立させて、国際会議に参加したそうです。

 この7日間で彼女たちが得たものは何だったのでしょうか。堂々と自分の意見を述べる同世代の姿から刺激をうけたでしょうし、多様な価値観を持つ人とどうしたら分かり合えるのか葛藤もしたでしょう。単に英語がもっとできるようになりたいという表面的なものではなく、深く自分を見つめ直す機会になったはずです。だからこそ、帰国後はこの経験を伝えたいと、いてもたってもいられずに、英語祭でこの体験を英語でプレゼンテーションしたり、自主的に校内バラザミーティングを開催したり、この経験を全校に還元、浸透させる役割を果たしたそうです。現在、それぞれの夢の実現のために頑張っているという卒業生たち。きっと彼女たちにとっては、その後の人生に影響を与えるほどの濃い経験だったのでしょう。

ラウンドスクエアがきっかけ。グローバルマインドが全校に広がる

 そんな先輩たちの姿に喚起された後輩たちが後に続き、今年は5名の生徒が国際会議に参加。訪ねた日はちょうど、校内バラザミーティングが開催されていました。
 この日のテーマは、「あなたは何のために英語を学ぶのか」
まず国際会議に参加した生徒がそれぞれ、国際会議での経験とそこで感じたことを英語と日本語でスピーチ。その後、ネイティブ教員も加わってグループにわかれてディスカッションを行っていました。
 一人の生徒は、gender問題をテーマにしたパネルディスカッションで、わずか10歳のtrans‐genderの女の子が物事を深く考え、自分の意見をはっきり述べている姿に驚き、改めて自分を振り返って、自分は何者なのかを内省したと率直な印象を語り、英語を学ぶ意味は自分の可能性を広げるツールだと語りかけます。

 他の生徒たちもみな同様に、自分の壁を越えようと努力している姿や、人はそれぞれ違いを持っていることを前提としたコミュニケーションの大切さ、失敗を恐れない勇気を持つことなどを熱心に後輩たちに伝えている姿が印象的でした。そして、そんな先輩の話を聞いて刺激を受けた後輩たちが、遅くまで熱心に意見を出しあっていました。
 このプロジェクトの中心的役割を果たしている榑松先生は、「生徒たちには、世界にはさまざまな人間がいることを知り、その中で共生していくことを学んでほしい。そのためには、グローバルであれ、国内であれどこかで中高での経験を生かし、多様な価値のある他者との関係を築いていってほしい。海外だけでなく、この学校現場の中でもその資質を培っていきたい。」とおっしゃっていましたが、まさにその目的の初段階は達成されているようでした。
 ラウンドスクエアに加盟したことで、さっそくケニアの加盟校の生徒たちの訪問を受けたり、オーストラリア、ヨルダン、アメリカのラウンドスクエア校から留学生を迎えるなど、校内への波及効果も高いようです。単発の国際交流と違い、さまざまな国と地域の同年代の生徒と交流ができること。担当教員が共通の理念を持って年数回交流をしている中で、生徒を送ることができるという質の高さも、ラウンドスクエアに加盟したメリットのようです。

高い英語力はもちろん目指す。しかしそれよりも必要なこともある

 過去20年、中学3年生対象の2週間海外プログラムを実施してきた八雲学園ですが、今は9ヵ月プログラム(アメリカ 現地語学留学3ヵ月)も実施。今年は、高1生13人が派遣されました。海外生活を体験して刺激を受けた生徒が、ラウンドスクエアへの参加につながっているのです。
 世界共通の英語レベルを測るCEFR(セファール)という基準で、同校は到達目標をC1レベルにおいています。「大学入試で求められるのはB1レベルなのに、なぜそこまで目指しているのか?」という疑問をぶつけてみたところ、「生徒が意識を持てば、そこまで行ける環境を用意している。学校としての到達目標だ」という答えが返ってきました。
 実際初年度にラウンドスクエアに派遣された生徒の一人は、中学入学時 にはアルファベットも書けなかったが、高校卒業時には、英検準1級を取得し、センター試験で満点を取ったそうです。
 しかし「欧米先進国だけがグローバルではない。英語教育の目的は、綺麗なネイティブの発音を追求することではなく、ダイバシティを理解し、自分の思っていることもいかに相手に伝えられるようにするかということではないか。それには、まず自分の考えを持つことから始めていく必要がある」と榑松先生。

 たしかに、英語とひとくちに言っても、それぞれの国の日常生活の中で使われているさまざまな言葉がある訳で、特に生徒たちがこれから社会で関わりを持つのは、アジアやアフリカの人たちの可能性が高いとなれば、余計に英語教育にとどまらないグローバル教育が必要でしょう。世界50カ国から同年代の若者が集まり、一つのテーマについてディスッカションをする中で、多様な価値観に触れ合う経験。これは一般的な海外留学では味わえないラウンドスクエアの醍醐味だと感じました。
 八雲学園では、英語科だけにとどまらず、他の教科でもPBL(プロジェクトベーストラーニング)を取り入れ、プレゼンの機会を設けるなどして、学校をあげて、学びの楽しさを経験させ、意欲を引き出す取り組みを行っているそうです。
 学校というところは、いかに生徒たちに刺激を与えて視野を広げ、生徒自身が学びの目的を見つけられるようにするか。そして意欲が芽生えた生徒の潜在能力を引き出すサポートができるかが役割ではないかと私は思っていますが、八雲学園の場合は、その起爆剤の一つが、ラウンドスクエアなのかもしれません。
 目をキラキラさせながら、自分の思いを語ってくれた今年の代表生たちが、これからどのように化けていくのか、楽しみです。

中曽根陽子 [教育ジャーナリスト マザークエスト代表]

教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。